「10代目! 一緒に乗りましょう!」
「あ……う、うん! ……って、えぇええ!? い、一番前ぇ!?」


まるで子供のようにはしゃぐ皆。その姿は何ともほほえましい……が。
その数列後ろで、暗いオーラ丸出しの二人がいることに否が応でも気づいてしまう。


「……雪ぃ……僕乗ってる途中で死んじゃったらごめんねぇ……?」
「やめてよやめてよ、私を一人にしないで」


すでにネガティブモード全開である。
まるでこのコースターの行き先が地獄であるかのように、未来と雪は席でうなだれていた。

しばらくそうこうしていると、アナウンスが流れる。


『それでは発車いたします。安全バーが一番下まで下がっていることを確認してからシートベルトをお閉め下さい』


その言葉と同時に、未来、雪、綱吉以外全員のテンションが上がり始める。
ちなみに席順は前から順にツナと獄寺、山本とアリア、骸とクローム、未来と雪、犬と千種、ベルとスクアーロ、そして最後にリボーン、ディーノ、雲雀の三人が座ることとなった。


「楽しみだびょん!」
「犬……煩い」


それぞれが思いのままに感想を述べあう中、なかなかテンションが最低層から上がらない者たちもいる。
言わずもがな、先ほど言った通り未来と雪なのだが。


「……怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い……」
「……死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ね死ぬ死ぬ死ぬ……」
「……北国 雪、そんな呪文みたいに呟いてる貴方のほうが僕は恐ろしいのですが」
「未来、お前今死ぬの代わりに死ねって言ったびょん」


二人の前後に座っている黒曜組は気が散ってしょうがなさそうだ。

急にガタリ、と全員の体が大きく揺れる。それは車体が動きはじめたことを意味していた。
ゆっくりゆっくりと動き始めた車体に、雪と未来の二人はすでに青い顔をさらに青ざめさせ、体を固くする。

一つ一つの音に、二人は過敏に反応する。座席の上では、二人はきつく手を握り合っていた。お互いつないだ手のひらは冷や汗でびっしょりと濡れている。
暗殺部隊だのヒットマンだのと名の知れた二人でも、やっぱりいたいけな少女たちなのだ。


「うわああ……って、あ、れ……? 全然速く、ない……」


一番先頭に座っていた綱吉の声で、固く目をつむって安全バーを手すりというかほぼ抱き枕状態にしている未来もほぼ体育座りみたいな体系で丸くなっている雪も、あれ、という風に目を開ける。


「本当だ……全然速くない。むしろ遅い?」
「……こんなもの?」
「う゛お゛おおぉぉい!! もっとスピード出せぇ!!」
「「それは絶対ヤダ」」


見事に未来と雪がハモらせるが、どうやら全員まとめて拍子抜けしたようだ。
しばらく待ってみても、やっぱり車体はのろのろと進むだけだった。


「おい……まさか、このままで終わるんじゃねぇだろうな?」
「いや、むしろこのままで終わった方が拍子抜けではあるけど、助かる……」
「何言ってんだ。さっきより確実にスピード上がってるぞ」


獄寺と雪の会話に見事に割り込んだリボーンに、全員の意識が集中する。
ちなみにリボーンはどうやって身長制限を無視して乗ることができたのか。全長どう見ても40pだというのに。


「マジで!?」
「マジだ」


当然のように言い放ったリボーン、基ボリーン博士の言葉に、未来たちの顔はみるみる青ざめていく。


「発車した時は時速15kmだったが、今は大体16.55kmくらいだな」
「わかったからこんなところでそんな単語出さないで〜! 頭痛くなる……」
「物理嫌いぃいい」
「その前に、誰かどっからその数字が出てきたのかをまずツッコめよ」


遊園地にいるはずなのに急に襲ってくる学校で学んだ知識に拒否反応を起こす雪と、苦手科目は沢山あるがその中でも一番嫌いな物理を出されてアレルギー反応を起こす未来。
頭を抱えて唸る二人をそっちのけ、ディーノがごもっともな指摘をすると、全員あっ、という顔をする。だがまぁ、リボーンの言うことなので何でもありだし、実際計ってみたところ正解なのだろう。あのリボーンの言うことなのだから。

別にスピードが上がろうが下がろうが気にしない輩たちの中で、骸はただぼうっと頭上を見上げる。
思わず嘆息しながら、風はぽつりと零した。


「……頭上、綺麗ですね」


風の言葉に全員が上を見る。
そこに広がるは、暗闇に赤、白、青、黄色と小さく色を宿す星々だった。


「へぇ……宇宙か。……あれ、ブラックホールか?」
「じゃああれはホワイトホールね」
「……星が降ってくりゅ〜……」
「……何それ」


解読不能な言葉を発した未来に、雪は苦笑する。
しばらく全員がゆったりとした車体の上で綺麗な宇宙のホログラムを見上げていた。
仕事やなんやと忙しい面子は肩の力を抜き、あの雲雀でさえ、「ふぅん…」と零しながら星を見つめる。それほど、幻想的でとてもきれいな空間だったのだ。
流れる星々が時折衝突しあって、効果音が鼓膜を揺らす。だがそれ以外は、車体の進む音以外は沈黙が訪れていた。

そんな沈黙を引き裂くように、いきなり未来が声をあげる。


「……これ、天体衝突じゃね?」
「え、そう?」
「ほら……星が……衝突する……」


15人の頭上で、ゆっくりと二つの中サイズくらいの惑星が近づいていく。

そして、未来がその言葉を言い終わった途端。星が触れ合ったかと思えば、バァン! と鼓膜を破らんとするほど大きな音が響いた。
全員の体がいきなりグンッ、と後ろの方へ引っ張られる。同時に顔全体を風が走り抜けていく感覚。ぞわり、と未来の背中に恐怖が走った。
いきなり車体のスピードが恐ろしいほどにあがる。


「ひっ……ひいぁああああああぁぁぁぁぁああああ!!」


未来の悲鳴があたり一帯にうるさいほど響いた。
前後に座っている骸とクローム、犬と千種は耐えられず耳を塞いでしまう。そんな未来の隣を見てみれば、雪も耳を塞いでいるではないか。
だが、その顔に恐怖の表情は浮かんでいない。


「……あれ、案外怖くない! ってかむしろ楽しいかも!」
「雪の裏切り者おおぉおおおお!! ぎゃぁあああ!!」


色気もくそもなく、ただ耳障りに叫びまくる未来に、未来の座っている位置から一番離れている雲雀たちですら耳をふさがずにはいられなかったとか。

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