「さぁて! まずどれに乗るよ?」


未来がそう言うと、好奇心旺盛な若者たちは迷わず目の前のアトラクションを指差した。
本当に噂がたっているらしく、休日なのに人が少ないのは好都合だった。

15人の中誰も詳しい話は知らないが、どうやら幽霊が出る噂らしい。
いかんせん、殺しの本職の方が幽霊なんて怖がるはずがないとでもいうかのように、それぞれ堂々としていた。


「……スペース……マウンテン……?」
「えぇ!? スペースマウンテンって、絶叫系でしょ!? ……やだなぁ……」


目の前にあるアトラクションの名前を、未来が目を凝らしながら読み上げた。読み上げたところで宇宙と山が何なんだ、と未来は理解できずに首を傾げる。
すぐさまツナが涙目で訴えるが、全員、やめるようには見えそうにもなかった。

絶叫系、という言葉を聞いて、未来は雪のそばに近寄りそっと耳打ちをする。


「ねぇ雪、僕乗ったことないからわからないけどたぶんこういうの苦手……」
「うーん、私もいい予感がしないんだよねぇ。絶叫系って、つまり叫ぶ乗り物なんでしょ? なんでそんなもの乗るんだろ……」


そんな風に二人がひそひそと内緒話をしているうちにリボーンが綺麗な蹴り(未来に)を繰り出してきたので、二人とも並ばざるを得なくなってしまった。
流石に15人もぞろぞろと並んでいるせいで、アトラクションを担当しているお姉さんが目を大きくさせながら数えている。その間の時間が稼がれ、引き続き雪と未来はまたひそひそと会話を再開させた。


「ど、どうする? このままじゃ乗らなきゃいけなくなっちゃうよ?」
「……ここは、幻覚でごまかすか!」
「クフフ……」


いきなり意味深に笑いだした骸に、二人とも肩をびく、と震わせた。全く同じスピードで、ゆっくりと二人は後ろにいる人物に振り返る。


「な、何、骸!?」
「……雪……骸いるから、幻覚駄目だ……ちっくしょ、呼ぶんじゃなかった……」
「どういう意味ですか、未来。失礼ですね」


堂々と仲間外れにしようとする発言に、骸は眉根を寄せ文句を言う。
幻覚は自分より幻覚の扱いに長けているものには効果がない。なのでクロームとは互角かもしれないが、未来のコピー元となっている骸には敵うはずもなく、すぐに見破られてしまうのだ。
リボーンは幻覚耐性があるのかどうかは不明であり、だが骸と対戦した時、幻覚が見えていなければするはずのない行動を取っていたため、幻覚を判別することはできても、耐性があるわけではないかもしれない。ワンチャンあったのに、と悔しがる未来に、額に手を当て悔しがる雪。

そんな二人を見て塵とも罪悪感がわかないのか、クフフ、と笑顔を浮かべてから彼の仲間のほうに向きなおった。


「次の方どうぞー」


そんな中、時間は無情にも待ってくれることなく進んでいく。何とも早いことに、いつの間にか列の一番前に来ていたのだ。
客が少ないため、自然と順番はすぐ来てしまうものだ。

ニコニコと人好きのする笑顔を浮かべたお姉さんを見て、雪は気まずそうながらも手を挙げた。


「……あの……やっぱり乗らなくていい?」


雪がそう言った瞬間、全員の顔が雪の方に振り向かれる。その勢いと注目度の高さに、うわぁ、と思わず雪が後ずさる。
13人の視線のプレッシャーは、流石の雪でも耐え難いのだろう。


「……僕も遠慮したいな……」
「あの……でも、お客様のためにわざわざ15人乗りをご用意させていただいたのですが……」


案内の女性が困った顔でそう言えば、雪も未来も何も言えなくなる。
罪悪感を感じているのだろう。それに、楽しそうな雰囲気をぶった切るような言動に、少なからず気まずさを覚えずにはいられなかった。


「そういうわけだ。早く乗るぞ」
「え……でも……」
「未来……雪……乗ろ?」
「てめーら時間食ってねーで、とっとと乗るぞ」


リボーンを筆頭に、獄寺はもちろん、まさかのクロームまで二人をせっつく。
周りに急かされ、二人の逃げ場がじわじわ消えていった。


「そ、そんなこと言われても……」
「そう言うんだったら、あんたら全員乗んの?」
「「乗る」」


ノリのいい数人が綺麗にハモって答える。
いつもは仲悪い者たちが数名居るにも関わらず、こういうときだけ息ぴったりな仲間に未来と雪は頭を抱える。


「……まさかのハモリの即答……ツナも乗るの? こういうの苦手そうなのに……」
「……乗らなかったら、リボーンに何されるかわからないから……とりあえず乗るしかないよ……」
「わかってるじゃねーか」


リボーンの言葉にさらに苦笑いを浮かべたツナに、二人とも哀れみを覚えた。
おそらく、絶叫系に乗らなきゃいけない恐怖よりも、それを断って後からリボーンから受けるお仕置きのほうが恐ろしいのだろう。


「わかったよ……乗ればいいんでしょ? 乗れば……」
「え、乗るの!?」
「……しょうがないでしょ? もうどうにでもなれって感じ……」


投げやりだが二人の承諾を受け、一同はようやくスペースマウンテンに乗り込んだ。




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