「ぇぐ……ひぐッ……うぇっ……」
「だから早く泣きやめって……」


14人が各々思ったより楽しかっただの、油断させてからのあれはなかなか良かっただの感想を述べている中、どこから嗚咽が聞こえる。
まぁ誰もが大体予想はついているだろうが、あの傲慢で我儘で気楽で気ままな未来のものである。
それはそれは見るも無残に顔をぐしゃぐしゃにして泣きじゃくっていた。


「うあ゛ぁああっ……怖かったよぉっ……! えぇええんッ……」
「……だから乗らない方がいいって言ったのに……」
「あら、そういう雪ちゃんはずいぶん楽しんでたじゃない?」
「だって楽しかったもん」


アリアに指摘されるも悪びれることなく答えた雪に、未来の嗚咽が「お゛あ゛あぁああ」とひどくなる。
そんな雪だが、未来の体を抱きしめ、ぽんぽんとまるで小さい子をあやすように未来を慰める雪は、流石未来の親友というか手練れているというか、普通に慣れていた。


「……ひぐ……ひっく……!」
「だーくそ……!」


義理だろうがなんだろうが、とりあえず兄である獄寺に、全員の視線が突き刺さる。
まぁ実際に未来を心配しているのはそのうちの半数弱で、残りはただ単に獄寺がどう対応するのか気になっているだけなのだが。


「……獄寺ー、ほら、ちゃんと慰めてあげなよ」
「んなっ、雪テメーがすでに慰めてんだろーが!」
「獄寺、ちゃんと妹の面倒は自分で見ろ」
「り、リボーンさん……!」
「未来を慰めるだなんて簡単ですよ、獄寺 隼人」
「んぐ、む、骸……」
「飴玉でも渡せば大人しくなるびょん」
「犬……それは子供の時。まぁ今も変わらないけど……」
「お、お前らまで……!」


全員に責められ、最後には……


「ふぎゃぁああッ、お兄ちゃあぁんっ!」
「ッだーお前はこっちに来んな!」


思い切り獄寺に飛びついた未来。それを何とか倒れず受け止める獄寺の体幹には目を見張るものがあった。


「あっぶねーだろうが!」
「……煩い」
「あ、泣きやんだ」
「……ん」
「の上、なんか無口になってる」


未来が大人しいー、と雪が、獄寺の足にしがみついたままの未来の頬をつつく。
それを受けて、骸はあぁ、と思い出したように顔を上げながらつづけた。


「それ、拗ねてるんですよ。泣いた後は大体反動でそうなるみたいですけど、放っておけば勝手に機嫌治します」


面倒くさい性格ですよね、とあっけらかんと言う骸。
だがそんな悪態に反応することなく、未来は頬袋を膨らませたままじっとうつむいていた。

「ほーら獄寺、念願の大人しい未来だよー。」
「全っ然嬉しくねェ!!」
「おいお前ら、話は終わったか?」


にょっ、とリボーンが当然という顔で話に割って入る。
先ほどまではニヤニヤと憎たらしい笑みを浮かべて獄寺をからかっていたのだが、飽きたのだろう。


「リボーン、どうかしたの?」
「次に乗る乗り物が決まったぞ」
「……私たちが話している間にそんな勝手に……」
「コーヒーカップだ」


その名前に全員が未来の方を見る。……もちろん、コーヒーカップが何なのかわからない雪を除いてだが。
雪は綱吉にどんな飲み物? と尋ねてみたが、説明下手な綱吉は戸惑うばかりだった。
ただ「とりあえず回しまくるよ……」と一言告げてみたが、雪は全く持って理解できていない。そりゃあそうだろう。


「……速い?」
「回る」


2文字を2文字で返しているところは兄妹クオリティーと言ったところだろうか。


「回るなら……多分大丈夫。」
「じゃっ、乗ろ乗ろー!」
「……なんで雪は平気で僕は駄目なんだ……」
「別にテメーら同一人物じゃねぇだろバカ。そりゃ好き嫌いの差別も出てくるっての」


楽しみ、と足取り軽く歩き出した雪を追って、未来が恨みがましくこぼす。
それを聞いた獄寺がこつん、と未来の頭を軽く殴る。未来はそのまま何も言わず、殴られたところを手で抑えた。


「おら、行くぞ!」
「……うん……」


その時の未来はまだ知らなかった。
いや、油断していたと言うべきか。
まさか、ただ回るだけのコーヒーカップにあんな悲劇が待っていたとは――……。

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