07 「エルザ...」
セブルスに私の居場所がバレた。
ダンブルドアが亡くなって、校長室がセブルスを受け入れた時、聖マンゴからダンブルドアへの手紙が見つかってしまった。 あの狸のことだから、わざとわかる位置に置いていた可能性もあるけれど、今となっては問い詰めることも叶わない。 だけど私の魂がいつもホグワーツで浮いていたということはまだバレてはいない。 彼は私が長い間ずっと意識不明だと思っている。 そのままそうだと勘違いしてほしい。
「すまない、エルザ」
私の手を握り、俯くセブルスに全てを話したくなるがすぐに無理だと首を振った。 彼はダンブルドアを、ハリーを裏切ったのだ。 それはリリーを裏切ったのにも等しい。
だけど、こうして私を思って泣く彼を見ると、冷酷な校長となった彼が偽りなんじゃないかと考えてしまう。 悲しくて泣きそうだったけど、涙は出なかった。
「もうすぐだエルザ」 「えっ何が」 「すぐにホグワーツへ連れて帰るから待っててくれ」 「いやいやいや」
聞こえてないだろうけど、思わず返事をしてしまう。 ホグワーツに連れて帰るってどういうことだ。 あんなに殺伐とした学校に生身で行くなんて絶対嫌だ。
去って行くセブルスの背を見て、私は急いで身体に戻り、廊下へ出る。 長い間私を診てくれていた癒者から頼んでいたナギニの血清を受け取り、自分の部屋へ戻る。 ナギニの血清はきっとこの先の戦いで役に立つ。 ポケットにそれをしまい、私は荷物を持って聖マンゴを飛び出した。 セブルスがこの身体をホグワーツに移すまで、やることをしなければ。
「リーマス!」 「エルザ、君出歩いてていいのかい?」
リーマスの元へ姿現しをする。 私の予想が正しければ、きっとヴォルデモートは、癒者が沢山いる聖マンゴを狙うだろう。 医療機関が潰されれば、こちらの被害は激増する。 彼らはきっと患者も関係なく狙う。 自惚れでなければ、セブルスは私を守るために移動させるのだろう。 騎士団に頼み込み、聖マンゴを守護魔法で守った。
それからすぐに私の身体は、セブルスによってホグワーツの校長室に移された。 大事そうに私を抱え、ベットに下ろしたセブルスの顔は、外で見るよりなんだか疲れているように見える。
セブルスとリリーが仲違いをした日、私は彼の本当の姿が分からなくなった。 今だってそうだ。 今まで様々な脅威からハリーを守ろうと暗躍していた彼と、ダンブルドアを殺し非道な敵としてハリーに立ちはだかった彼は、果たして本当に同じ人物なのか。 本当に彼は、リリーを裏切ったのか。 フヨフヨ浮きながら、オレンジ色のキャンディーを舐めるセブルスの側に寄り添った。
それからすぐにハリーがホグワーツに戻ってきた。
「ハリー、私の身体も今ホグワーツにいるの」 「どうしてそんな所に」 「セブルスに連れて来られたの。今は校長室のベットに寝かされているわ」 「えっ!」
久しぶりに出会ったハリーは大きく成長しているように感じた。 ハーマイオニーもロンも怪我もなく、旅から帰ってくれた。 すぐに戦争になることを告げ、ハリーを抱きしめる。
「ハリー、私に何があっても真っ直ぐ前を向きなさい。大丈夫、あなたは強い子よ」 「僕エルザのこと大好きだよ」 「私もよハリー、愛しい子。きっと生きて会いましょう」
そして私はホグワーツ城を飛び出し、空中でフヨフヨと浮きながら、敵の軍団へウィーズリーお手製のクソ爆弾を落としていく。 これで少しでも時間稼ぎになればと思いながら、手持ちがなくなってすぐに自分の身体へ戻る。 ホグワーツ城に連れてかれてから始めて戻るせいか、少しふらつきながらもセブルスの姿を探す。 ハリーがヴォルデモートと戦うように、私もセブルスと戦わなければいけない。 ダンブルドア殺しのセブルスを、せめて私の手で殺そう。
「マクゴナガル先生!」 「エルザ!あなた戻ったのですね!」 「セブルスは!?」 「姿を見かけません!」
混戦の中を駆け抜けながら、敵を倒し、味方を守りながらセブルスの姿を探す。 飛び交う魔法の流れ弾が私の身体をどんどん傷つけていく。 誰のか分からない死体をまたごうとした瞬間、それが親友とその妻のものだと気づいた。
「リーマス!トンクス!」
あぁ、彼らも立派に戦ったのだろう。 幼い子どもを残し、彼らもまた私を置いて行ってしまった。
「安心して、ハリーは必ず勝つわ」
2人が踏まれて汚されないよう、私は彼らを廊下の端に寝かせて、保護魔法をかける。 リリー、ジェームズ、シリウス、リーマス。 私の大事な学友たち、ハリーを支えた彼らはもういないのだ。 涙を堪えて私はまた走り出した。
「エルザ!」 「ハリー!」
戦いの中で見つけ出したハリーを抱きしめる。 この身体で彼を抱きしめるのは初めてだ。 魂では分かることのない、ハリーの暖かさを感じた。
「エルザ、セブルスの元へ行って!ナギニに噛まれて瀕死の状態なんだ」
ハリーから居場所を聞き、背中を押されてまた走りだした。 僕はもう大丈夫だよと言う彼の顔は、昔リリーを守ると誓ったジェームズの顔にそっくりで、また泣きそうになる。 歳をとって涙もろくなってしまった。
「セブルス!」
言われた場所で倒れているセブルスを見て、私はすぐに血清を彼の血液へ送り、治癒魔法で傷を癒していく。 決着をつけるはずだったのに、これでは後味が悪いからと言い訳を言いながら、私は彼の顔を覗き込む。 相変わらずの悪人顔を見たら、彼への敵意がすっかりと消えてしまった。
やっぱり私はセブルスのことが好きだ。 彼がどれだけ悪い人で、ダンブルドアを殺し、ハリーを裏切っても、私は彼を嫌いになれない。 私はセブルスのそばに座り、そっとその黒髪を撫でた。
「本当にあなたって酷い人ね」
ねえ、セブルス。 ハリーはもう私に守ってもらわなくても大丈夫そうよ。 本当に大きくなったわ。 起きたらちゃんと真実を話してちょうだい。 私もちゃんと真実を話すから。
外で大きな歓声が聞こえる。 ハリーがついに運命に打ち勝ったのだ。 私はそっと目を閉じた。
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