それからそれから


運命の日から1ヶ月が経った。
ヴォルデモートを倒したハリーは新たな生きる伝説となった。
戦った人々は英雄と讃えられ、魔法界は勝利に湧いた。

そして大きな喜びがある中で、そこには同時に悲しみを多くあった。
家族や友人、そして恋人。
愛する者たちが消えていった。

しかし皆明るい未来を求めて歩き出した。
ハリーと仲間たちは悲しみにくれる者たちを勇気づけ、マクゴナガル先生は校長となりホグワーツを再開させた。


「セブルス」
「エルザか...」


ダンブルドアを殺したセブルス・スネイプは罪に問われ、アズカバン行きとなった。
これはハリーたちはセブルスの事実を公開する、そうしたら彼は罪を問われないと言うが、彼がそれを拒否した結果だった。

私は憂いの篩を覗かなかったけど、戦った多くの人が真実を聞き、彼の本当の姿を知ったそうだ。
しかし彼を知らない世間は彼を悪人と非難したけれど、やっぱり私は彼の本心を知らなくても、彼が心からの悪だとは思えなかった。


私はセブルスと話をするためにアズカバンへ向かう。
あの日、ハリーに見つけられた私たちは、そのまま聖マンゴへ送られた。
私が目を覚ました時、セブルスはすでにアズカバンへ送られてしまい、話すことは叶わなかった。
長い間会わなかったとは思えないほど、私とセブルスは落ち着いて向かい合っていた。


「身体はもう平気なのか」
「それはこっちのセリフよ。死にかけだったくせに」


ハリーが口利きをしてくれたおかげで、柵越しだけど、2人きりで触れれる距離まで近づくことができた。
椅子に座って話す彼は学生時代のままのように見える。


「私の記憶を見なかったそうだな」
「人のプライバシーを覗く趣味はないわ」
「なぜここに来た」
「来ちゃいけない理由なんてある?」
「私は君に会いたくなかった」
「すぐばれる嘘つかないでちょうだい」
「...ああ言えばこう言うな」
「昔からよ」


薄く笑いながら彼はそうだったなと小さく呟いた。
私は俯く彼へ手を伸ばし、そっと彼の手を握る。


「ねぇ、脱獄しない?」


瞬間バンッと大きな音がなり、牢屋全体に土煙が舞い上がった。
私は魔法でその煙を全て消す。
そして目の前に広がった青空に、シリウスのバイクに乗った笑うハリーが眩しい。


「何をしている!」
「何ってあなたの脱獄を手伝うのよ」
「私は逃げないぞ!ディメンターに魂を抜かれて死ぬつもりだったんだ!私は生きている価値のない人間だ!」
「それこそ逃げよ、私だけじゃない、あなたハリーからもリリーからも逃げてる」


叫ぶセブルスに私も負けじと怒鳴り返す。


「許されないと思うなら、罪を背負って精一杯生きなさいよ!」
「...」
「あなたに価値がないなんて私が言わせないわ」


セブルスが素直に私の言うことを聞いてくれるとは最初から思っていなかった。
だから今は言い合うより、すぐに彼を無理やり逃すことが先決だ。


「文句は後からいっぱい聞くから、許してね」


持ってきた睡眠薬をセブルスへ嗅がせ、倒れた彼をハリーの元まで飛ばす。
魔法薬を長年扱ってきた彼は少し魔法薬への抵抗があるみたいだから、念のため強いものを持ってきたけど、ハリーにだらりともたれかかる彼を見て、後でちゃんと目を覚ますのかと心配になった。


「あとは頼んだわよ、ハリー」
「任せて」


ハリーの腕ならきっとセブルスを無事にホグワーツへと届けてくれる。
そこには彼の味方しかいない。
きっと大丈夫だ。

私は現れた職員たちに、ホグワーツと反対方向に逃げたと言い、アズカバンを後にした。
これからのことはキングズリーが上手いことやってくれるだろう。
もうセブルスが真実を語らなくても世間から非難されないように、取り計らってくれるそうだ。


ホグワーツで目を覚ましたセブルスは、私に向かって開口一番に怒鳴り散らす。
私は耳を塞ぎながら、ほとんどその声を受け流していた。
じゃないと聞いてられない。


「君は昔からそうだ!どうしてこう無鉄砲に行動する!」
「でもそれで失敗したことはないわ」
「怪我をしてリリーに泣かれたことを忘れたのか!?」
「泣いているリリーも可愛かったわね」
「話を聞け!」


セブルスを躱して、目の前に置かれたいちご味の飴玉を手に取って舐める。
ハリーとロンは、授業中のことを思い出したのか、遠くで小さくなっている。
その横にいたハーマイオニーとジニーは、興味津々な様子で私たちの顔を交互に眺めていた。
この女の子たちはやっぱり強い。


「そういえば、セブルス。あなた勘違いしてるわよ」
「何がだ」
「私、オレンジ味の飴玉よりいちご味の方が好きなのよ」
「何!?」
「毎日舐めるなんて、相変わらずセブルスったら可愛いわね」
「貴様何故それを!」


慌てるセブルスに笑いが止まらない。
フヨフヨ浮いて、7年間ずっとホグワーツにいたなんて言ったら、きっと彼はまた怒りだすだろう。
本気で怒ったセブルスは、本当に怖いのだ。


「私の秘密知りたい?」
「お前は秘密だらけだろうに」


拗ねるように吐き出したセブルスに私は微笑みかける。
好きだという気持ちが溢れて来る。
後悔する前に、私の気持ちを伝えよう。
断られても嫌われても、それでも私はセブルスが好きなのだ。


「セブルス、愛してるわ」


セブルスの目を真っ直ぐ見て、言葉を紡ぐ。
気持ちは真剣なのに、口を大きく開け、顔を真っ赤にしたセブルスを見て、笑いがこみ上げてしまった。
こんな表情のセブルスはレアだ。
見たことがない。


「セブルスは私のことどう思ってる?」
「わっ私は....」


セブルスが何か言おうとして、私の肩を掴んだ。
すると遠くの方で、スネイプのやつ顔真っ赤だぜとかエルザ押し倒しちゃえ!とか、小さいヤジが聞こえてきた。

みんながいることをすっかり忘れていた。
そちらへ顔を向けると、ハリーがジニーに抑えられている。
えっなんで。


「ハリー?」
「スネイプ!エルザは僕の家族なんだ!これ以上傷つけたら容赦しないぞ!」
「ハリー!」


私は思わずハリーを抱きしめに走る。
ジニーごと彼を抱きしめて、私は嬉しい気持ちでいっぱいになった。
生まれた時から見守った親友の息子は、気づいたら私の身長よりも大きくなり、立派な人間へと成長した。


「こんなに大きくなっちゃって、こんなに素敵な女性捕まえちゃって、私ももう言うことないわ」
「もうエルザったら、恥ずかしいわ。エルザの方が素敵な女性なのに」
「いいや、エルザは素敵な女性だし、ジニーは本当に魅力的さ」


3人で抱き合ったまま、クスクスと笑う。
本当の家族になったようだ。
そこにハーマイオニーとロンも加わる。
彼らも1年生の時とは比べ物にならない立派な魔法使いになった。


「エルザは本当のお姉さんみたいだわ。ずっと思ってた」
「フヨフヨ浮いてたし、僕らには見えなかったけどね」


フヨフヨとホグワーツで浮いて暮らしていた時、こんな日が来るとは思ってもいなかった。
大きくなった彼らを見て、私の選択が間違っていなかったことを知る。
ただただ胸がいっぱいだ。


「それで、スネイプ。どうするんだ?」


私に抱きしめられたまま、ハリーがセブルスに尋ねる。
私の背にいる彼が、どんな顔をしているのか分からなかったけど、振り返る勇気はなかった。


「エルザ、僕らもう行くね。また後で」
「えぇ」


ハリーたちが部屋を出て行く。
2人っきりになった私たちの間に、沈黙が訪れた。
みんなの前であれだけ言えたのに、急に何も言えなくなった。


「エルザ...」


足音がコツコツとなる。
セブルスが私の真後ろまできた。


「エルザ」


セブルスに後ろから抱きしめられる。
驚いた私は身体をよじるが、彼は私を離そうとしない。


「エルザ、このまま聞いてくれ」


そう前置きをして、彼はゆっくりと話し出した。


「私は君を傷つけた。昔からずっと、君の気持ちを考えていなかった。いや、考えるのが怖くて避けてきただけだ。だが、君が死んだと聞いた時、私は虚無感でいっぱいだった。リリーの時には思わなかった気持ちだ」

そこで区切ったセブルスが、大きな息を吐く。
私はセブルスの腕に手を乗せて、静かに続きを聞いた。


「エルザ、愛している。聖マンゴで君を見つけ、もう離さないと思った。もうエルザに消えて欲しくないと」


普段の彼から想像がつかないほど、それはか細い声だった。


「私はここにいるわ、セブルス。もうどこにもいかないわ、大丈夫」

身体の向きを変え、彼を抱きしめる。
顔を上げると、セブルスの瞳に私の顔が写るのが見えた。


「エルザ、私と共に生きてくれ」
「もちろんよ!」


私の頬に一本の涙が伝っていく。
その雫は夕陽で照らされ、地面へ吸い込まれていった。

前へ|次へ