05


「エルザはどうして僕を子供扱いして除け者にするんだ!」


叫ぶハリーに私はなすすべもなく落ち込んだ。
ついにあの可愛かったハリーに反抗期が来てしまった。
ヴォルデモートが復活してから、私とハリーの関係は悪化していた。
ダンブルドアに言われた任務をこなしたり、いつでも動けるように身体へ戻ってリハビリをしたりと、最近ハリーのそばにいる時間が減ったことも原因だった。


「落ち込むことないさ、エルザ。シリウスの反抗期より可愛いものさ」
「それ慰めになってないわよ、リーマス」


聖マンゴへ訪れてくれたリーマスとチョコレートをかじる。
彼はこうしてたまに来てくれては、私の暇つぶしの相手になってくれる。
彼が持ってくるお菓子は入院生活の密かな楽しみだ。


「結局、ハリーにもセブルスにも伝えてないんだろ。それにシリウスだって知らない」
「シリウスに話したらハリーにも伝わりそうだし、セブルスに私のことで喧嘩売りそうだしダメよ」
「君は頑固だ」
「あなたもでしょ。トンクスのことはどうするつもりなの?」


しつこいリーマスにとっておきの話題を提供する。
私が知らないとでも思ったのか。
騎士団でふよふよ浮いていれば色んな情報が入ってくる。
リーマスみたいな頭でっかちのおじさんには、トンクスのようなパワフルな女性があっていると思う。
顔を真っ赤にして怒るリーマスを鼻で笑う。
実際2人はお似合いなのに、何を戸惑うのか。


「だって僕は人狼だろ」
「それでもいいって言ってるんだからいいでしょうに。リーマスだってトンクスに嫌われるのが怖いだけよ」


私もハリーやセブルスに嫌われるのが怖い。
だって2人が大切だから。
リーマスもトンクスが大事だから、足踏みをしているのだ。


そうして私の魂のように心もふわふわと浮いているうちに、事態は大きく動いた。
ロンのお父さんがナギニに襲われたり、ハリーがセブルに閉心術を教わったり、変なピンクのおばさんが出しゃばったりと、今年もホグワーツは動乱に巻き込まれていた。


「エルザ、エルザはスネイプが好きだったの?」
「えっいきなりどうしたのよ」
「僕見たんだ」


セブルスとの閉心術の練習で、ハリーは彼の心を除いてしまったそうだ。
そこからハリーは悪戯っ子だったジェームズとシリウスがセブルスをいじめていたこと。
助けたリリーがセブルスに酷い言葉を投げかけたこと。
私がセブルスとリリーの仲を取り持とうとして、結局無理だったこと。
そして、私がセブルスに告白をして姿を消したことを話してくれた。

私はそれを聞きながら、話す時がきたことを感じた。
ハリーのヴォルデモートとの縁が切れるまでと思っていたけれど、今話さなければいけない気がした。
校長が、時に任せよと言ったことを思い出した。


「ハリー、今まで黙っていてごめんね」


私は全てを話した。
セブルスとリリーとのこと、どうして私がこの姿なのかということ、私が今どうなっているのかも全て。
話し終えた時、ハリーは静かに涙を流した。
私はそれを見て、優しく彼を抱きしめた。


「大丈夫よハリー」


そうして2人でいつか一緒に、もちろん私が身体に戻って、2人の御墓参りに行こうねと話した。


あれから少しずつだけど、確かに嫌なものがホグワーツへ蔓延るのを感じた。
そしてダンブルドアは消え、ピンクのおばさんが校長となり、ホグワーツを牛耳った。
まあけど校長室に入れなかったから、正式な校長じゃないけど、全くお構い無しに、意味のわからないルールを課していく。
それに反発したウィーズリーの双子が、素敵な花火を打ち上げてホグワーツを去っていったのには、ジェームズとシリウスを思い出し、思わず拍手をした。


騎士団にダンブルドアからの伝言を伝え、帰ろうと浮いていたところに、先ほどまで話をしていたリーマスが私を呼び戻した。


「エルザ!ハリーたちが神秘部へ潜り込んだらしい!」


そばにいたシリウスが変な顔をしたので、騎士団で神秘部に向かう間、セブルス以外の人間にリーマスから事情を話してもらう。
シリウスはエルザが生きていて良かった泣くが、とその前にハリーたちを助けなければいけない。


「エルザ頼むよ」
「分かった」


私はみんなと違って見えない存在だから動きやすい。
飛び交う呪文に当たらないように話が通じるハーマイオニーを通して、全員を安全な場所まで移動させる。
あとはハリーだけだ。
壇上でシリウスと戦うハリーは、やっぱりジェームズそっくりだった。

レストレンジが放った閃光が真っ直ぐハリーを貫こうとする。
私の身体が動く前に、ハリーの前にシリウスが立ちはだかった。


「アバダ・ケダブラ!」
「シリウス!」


そしてシリウスが死んだ。
また友人を失った。
あなたもハリーを置いていくのね。

膝から崩れ落ちていく私を置いて、ハリーはレストレンジを追いかけて消えていく。
ハリーが気づいてくれなければ、私の存在は誰にも分からない。

そして、気づいた。
ハリーが置いていかれただけじゃない。
私もみんなに置いていかれたのだ。
ポケットに入ったいちご味の飴玉の砕けた音が私の耳に響いた。


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