03


「君は何も知らないだろう、セブルス」
「何が言いたい」


叫びの館で、ルーピンは私に向かって文字通り叫んだ。
そこには憎き犯罪者ブラックと愚かなペティグリュー、そして守るべき生徒たちがいた。
状況が分からないまま、気持ちが向くままにシリウスへ杖を向けた中での発言だった。


「エルザのこともだ!」
「やつは死んだのだろう」
「エルザが死んだ!?」
「もうこの世にはいない」


ブラックの驚きの声を無視し、淡々と告げる。
先の戦争ののち、私がエルザには一度も会わなかった。
風の噂で死んだと聞いた。
初めて言葉にした事実に、私は奥歯を噛みしめた。
心の奥がどんどん黒くなっていく。


「本当に君は何も知らない」


何か隠していそうなルーピンにイラつく思いを抑え、杖をシリウスへ振りかぶろうとした瞬間、私の意識はなくなっていた。


そして目が覚めた時、そこにはぼろぼろになったルーピンがいた。


「あぁセブルス、よかった目が覚めたんだね」


私へ水を差し出し、彼は備え付けの椅子へ深く座り直した。
そして、失神魔法の後遺症か身体が上手く動かない私に、あの日起こった全てを話した。


「ポッターは今どうしている」
「少し落ち込んでいたけど、大丈夫さ」


そうかと小さく答える。
エルザのことを聞きたいが、自分からは聞けない、ただ心がついていかない。
私の知らないエルザのことを、なぜルーピンが知っているのだ。


「エルザは生きてるよ、けど君は自分で真実まで辿り着くべきだ」
「おい待て!」


それだけ言うとルーピンは椅子から立ち上がり去っていく。
エルザは今どこにいる、私の問いは虚しく消えた。


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「ごめんエルザ、ちょっと喋っちゃった」
「いいよ、大丈夫」


落ち込むリーマスの目の前に座り、スラスラと文字を書いていく。
いい機会だ。
校長とおしゃべりした時も思ったけど、ただきっかけがなかっただけで、セブルスに話すのは遅すぎるくらいだ。
ただ勇気が出ないだけで。


「むしろ全部話しちゃえばよかったのよ」
「それは君からちゃんと伝えるべきだよ、エルザ」


それにハリーにだって言ってないんだろ。

私を慰めるように言うリーマスに私は密かに肩を落とす。
セブルスにも真実を伝えなければいけないのと同時に、同じことをハリーへも伝えなければいけない。
考えるだけで憂鬱になる。


「ハリーはきっと私を許さないわ」


ハリーは両親を見殺しにした私を責めるだろう。
だって、その場にいたのに。
倒れこんだ私の魂は、ただ動かずにリリーが死んでいくのを眺めることしかできなかった。


「ハリーはそんなに弱い子じゃないよ。君がそれを1番よく知っているだろう」
「えぇ、けどまだ伝えない」
「なぜだい」
「向こう側の人たちに、私は死んだ人間と思わせておけば後々有利になるわ」
「それは確かにそうだけど、それとハリーに言わないのは関係がないんじゃないか?」


首をひねるリーマスに私は少しこのことを話すべきかためらったが、ゆっくりと書き出した。

ハリーとヴォルデモートが意図せずにつながりそうだと。


「これはダンブルドアと話し合った結果よ。少しでも懸念があるのなら、避けなければ」
「そんな、天はどうしてハリーにばかり苦行を強いるのか」


頭を抱えたリーマスにそっといちご味の飴玉を差し出す。


「大丈夫、ハリーは弱くないもの。あなたも知ってるでしょ」


私たちはその時まで、彼を成長させ、守ればいいだけよ。
そして少しでも健やかな学校生活を送って貰えばいい。
見えてないだろうけど、私はリーマスへにっこりと笑って伝えた。


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