02 「ねえエルザ、なんでエルザは僕にしか見えないの?」
僕は目の前でフヨフヨと浮かぶ女性に尋ねる。 彼女は曖昧に笑って、分からないわと言った。
物心ついた頃には僕の横にいた彼女は、僕にしか見えない存在で、ホグワーツに来るまでエルザは僕の妄想からできた女性だと思っていた。 だから、親友に彼女の存在を教えた時に、彼らも実際に文字が紙に書かれていくのを(物は自由に触れれるらしい)見るまで信じてくれなかった。
「でもエルザって人、もう死んでるんだろ。ゴーストなら僕たちにも見えてなくちゃ」 「ハリーに言われて調べてみたんだけどね。やっぱり、エルザ・モーテって人が過去にホグワーツにいたみたい。生死は不明だったわ」
ハーマイオニーが持ってきた写真を見る。 エルザ・モーテ、僕のパパとママと同い年で、グリフィンドール所属。 しかもクィディッチでシーカーを務めていたみたいだ。 いつも僕の周りで呑気に笑う彼女からは想像がつかないほど、エルザは才気に溢れた女性として書かれていた。
「エルザはどうしてハリーにしか見えないんだろう」 「聞いたんだけどね、はぐらかされたんだ」
3人で唸りながら机を囲む。 こんな堂々としてエルザに探ってるところをバレないのかと思われるかもしれないけど、エルザはいっつも夕食が終わったらどこかへ消えてしまうから大丈夫だ。 そしていつも朝まで帰ってこない。 ホグワーツに入る前まで、僕のそばを離れることはなかったのに、ホグワーツに来てからずっとこうだ。 僕は姉がとられたように感じ、彼女にもらったいちご味の飴玉を噛み砕いた。
「最後に秘密の部屋が開いたのって50年前だろ?結局、エルザは知らないってことになるよね」 「だからエルザにもう聞いたって言ったじゃん」 「ねえ今度、エルザの後を付けてみましょうよ」
急に立ち上がって、ハーマイオニーが奮起するように言う。 彼女は一年生の頃に比べて、倫理観とかそういうものが抜けた気がする。 大体というか全部僕とロンのせいだと思うけど。
「エルザってホグワーツの隅々まで知ってるんでしょ。だったら、ヒントだけでも見つかりそうじゃない?」 「でもエルザはハリーにしか見えないんだよ。一体どうやって後をつけるんだい?」 「大丈夫、エルザ自身は私たちに見えないけど、エルザが書く文章は見えるわ。きっと触れてなければいいのよ」 「インクを垂れるくらいべったりとマントにつければいいのかい?」 「それよ!」
ロンのアイデアから、僕たちはエルザにバレないように、魔法で見えるようになるインクを彼女のローブに染み込ませた。 ごめんね今度洗ってあげるからと罪悪感に苛まれながら実行した。
「よし行くわよ」 「「おー!」」
その日最後の授業(マクゴナガル先生には悪いけど全く身に入らなかった)が終わってから、僕らは一旦寮まで戻る。 彼女はいっつも僕が夕食を食べ終えるを確認してからどこかへ消えるから、それまで待つしかない。
「ハリー、育ち盛りなんだからもっと食べなきゃダメよ」 「分かってるよ」
エルザのいつもの小言を聞きながら、デザートのプディングまで食べ終える。 もうお腹いっぱいだ。
「それじゃ帰ろうか」 「そうね」 「おやすみハリー、ハーマイオニーにもロンにもよろしくね」 「分かった」
大広間を出たふりをして、近くの柱に隠れる。 そしてフヨフヨと浮いて大広間を出てきたエルザの後を透明マントをかぶってこっそりとついて行く。 作戦開始だ。
「待って、エルザったらどこまで行くの?」 「さっきから階段を上ったり下ったりで、ヘトヘトだよ」
ただえさえ3人で透明マントを被ると動きが制限されて歩きにくいのに、エルザは先程からいろんな道をどんどん進んで行く。 彼女は一体どこへ行きたいんだろう。
「大変だわ!」 「どうしたのハーマイオニー?」 「思い出して!これ、私たちが毎日使っている階段よ!」
気づいたらもうグリフィンドールの寮の目の前まで来ていた。 彼女は門番の太っちょレディに話しかけられないから、寮生が出入りするときでないと入れないけど、エルザが扉の前にいたら、僕らも入れない。 尾行されてたことに気がついたらきっとエルザは怒るだろう。
「どうするんだ!?」 「大丈夫よロン、きっと彼女はどこかへまた行くわ。そうしたら今日の尾行は諦めて帰りましょう」
ここまで来てと僕は思ったけど、エルザに怒られるリスクは避けなければいけない。 僕らは階段に座り、じっとエルザが消えるのを待った。 すると彼女はくすりと笑ってどこかへ消えて行く。笑った瞬間気づかれたかなと思ったけど、こちらを一切見なかったから大丈夫だろう。 僕らは急いで寮に入り、談話室へなだれ込む。 結局、ヒントも何も見つからず、どっと疲れたような気がした。
「もうやめようよ。エルザにも悪いし、心臓がもたない」 「そうね」
泣き言を言うロンの声を聞きながら、僕ももうこんなことするのは嫌だなとため息をついた。 もう今日は寝よう。 そしてこのことを忘れて眠りにつけば、きっと朝にいつものようにエルザは笑顔で僕を迎えてくれる、そんな気がした。
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「どうだね、身体の方は」 「やっぱり生身はまだきついですわね。先生の呪文がなかったら、今にも身体が崩れそうな感覚がします」
ハーマイオニーが石なった夜、私は校長室でお茶をいただきながら、ソファに深く座りこんでいた。 校長は趣味がいい。 真っ黒で最低限の家具しか持ってないセブルスは見習ってほしいくらいだ。
「辛い選択ばかりさせてすまない」 「いえ、自分で選んだことですわ」
私の大好きだった親友リリーとその旦那と2人の子どもを守るため、意図的に身体から魂を抜く術を使い、あの家にいた。 まあ所謂、幽体離脱を魔法でわざと起こす代物だ。 術の間は、庇護する対象者(この場合リリーだけど)にしか私の姿は見えなくなる。
例のあの人が襲って来ても大丈夫だと思っていたけれど、全然通用しなかった。 見えていないのに術は跳ね返され、倍になって私に返ってきた。 結果、魂自体は無事だったけど、なぜかその場になかった私の身体はひどく傷つけられ、10年以上経った今でも聖マンゴに入院中。 今日はリハビリという名目で、身体に戻り校長とお茶を飲んでいるが、先生の呪文があってもまだ身体を思い通りに動かすのは無理だ。 聖マンゴの癒者によると、魂が身体に入ってないと身体の回復が通常よりも遅いらしい。 完全復活はまだまだ先である。
「それに魂だけって動きやすいですよ」
ヴォルデモートに襲われた時、結局私は親友は守れず、残されたのは1人の赤ん坊のみ。 だから私は身体に戻ってから、もう一度魔法をかけて、ハリーのそばでふよふよ浮いて彼を守ることに決めた。 それを後悔はしていない。 聖マンゴの癒者、ダンブルドア校長、マクゴナガル先生、そしてリーマスしかこの事実を知らないが、それで十分だ。
「ハリーの様子はどうじゃ」 「だいぶ落ち込んでいます」 「もうすぐマンドラゴラも育つ。今は原因を突き止めるより、生徒たちを守る方が先じゃ」 「えぇ」
深くため息をつき、ハリーとロンを思う。 親友のハーマイオニーが残したヒントから、落ち込みながらも犯人を突き止めようとしていた。 相変わらず自分からどんどん危険へ入っていく。
「セブルスはどうじゃ。あまりわしに弱さを見せようとしないからの、心配じゃ」 「もう荒れに荒れまくってますわ」
ハリーは危険なホグワーツ城をうろちょろと動き回るし、ロックハートは鬱陶しいしで、彼は今年も休まることがない。
「あやつはエルザが亡くなったと思ってるからの。少し不憫じゃ」
私がハリーを守ると誓った日、校長はセブルスにもこの事実を伝えようとした。 けれど私がそれを拒否した。
セブルスが好きと言ったのにあの人ったら、全く取り合ってくれなかったから、という八つ当たりに近い思いから10年以上経って、今更言い出せなくなった。 ハリーの入学のときにでもと考えていたら、結局尻込みしちゃったし、きっかけがもうない。
「先生どうしましょう」 「時に任せるのじゃ、きっとおぬしたちなら大丈夫じゃ」
フォッフォッフォと笑う狸に私は涙が出そうだった。 ずっと私のことを心配してくれてるみたいだし、セブルス本当にごめんねと思うしかなかった。
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