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彼は不器用な人間だと思う。
魔法薬学の先生が不器用だなんて笑っちゃうけど、そういう手先の不器用さじゃなくて、この人の本質的な部分の話だ。


「セブルス、ハリーったらあなたのこと誤解してるわ」


賢者の石を狙っているのはあなたじゃなくてクィレルなのに。
むしろあなたは守ってる側なのに、可哀想な人。

彼のその闇夜のような真っ黒な容姿や、生徒思いがゆえの厳しさが誤解される原因となってるのだけれど、分かっていながら彼はそれを直そうとしなかった。
そこがまた彼が不器用だと思う部分だ。
まあ、ハリーに意地悪なのは本当のことだから擁護はできないけどね。

座る彼の後ろに立ち、彼にもたれかかった。彼は何も言わずに、ただ提出された1つ1つのレポートを丁寧に採点していく。
教授っていうのは、早朝から大変だ。


「ハリーも大きくなったわ」


あの時、リリーを救えていたら、ジェームズを救えていたら私たちはどうなっていただろう。
まだいっしょに笑ってられたのかな。

そう考えてもキリがないことを私は知っている。
この10年ずっと考え続けたけど、結局私は彼女たちを守ることはできなかったから。
私たちの大切な幼馴染は、愛した息子を守って死んだ。
今でも目に焼き付いている。
あの悲しみの日、冷たくなったリリーを抱きしめる彼の姿を私は忘れることはないだろう。
彼が涙を流すように、私もまた多くの雫を落としたのだ。

大好だったリリー、大好きだった彼。
いつかの平穏な日々はあの日よりもずっと前に壊れてしまっていた。
そして私の涙は枯れはてた。


「リリーの子にしてはひっどいレポートね。
ジェームズに似たのかしら」


ハリーのレポートで手が止まる彼の横からそれを眺める。
ジェームズも優秀ではあったけど魔法薬学はそれほど得意ではなかった。
きっとハリーはジェームズに似たのだろう。
リリーは魔法薬学が得意だった。
無謀なことに飛び込んで行くハリーの後ろ姿は、かつての友人にそっくりであったし、リリーはあんな無茶しない。
だからこそ、彼はハリーに当たりがきついのだろう。
だって悔しいけどはリリーのことを今も愛しているのだから。


「エルザ」
「なあにセブルス」


小さく私の名前を呼ぶ彼に答える。
もう朝食の時間よと、私は彼の肩を撫でた。
彼は少しの時間固まったまま動かなかったけど、机の上にあった彼に似合わないオレンジの飴玉を口の中に入れた。
いつからだろうか、彼はこのキャンディを毎朝舐める。
そして舐め終わるまで、じっと目を瞑るのだ。
私はそんな彼を見るのが好きだった。


「セブルス、いってらっしゃい」


目を閉じた彼の額にキスをした。
そして、すぐに部屋を出て行く彼を見送る。
そうして私の1日ははじまるのだ。
今日もきっといい日になるだろう。


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