はじまりはじまり 「ねえセブルス。私本当にリリーのこと大好きなのよ」
もちろんあなたのことも。 ホグワーツの卒業式でそう言った彼女はいつの間にか私の前から姿を消した。 彼女がいないことを私が知ったのは、彼女がこの世を去ってすぐ、世界が平和になってすぐのことだった。
昔彼女は私のことを愛していると言った。 しかし私は、血迷ったのかと取り合わなかった。 その時の彼女はどうであったか。 泣いていたか、ただ俯いただけだったのかそれすら覚えていないのだ。 私たちは友人であったのに。 あの時まで、彼女がそういうまで、私たちはたしかに友人であったのに。
私はリリーのことを愛している。 それは友への愛か家族への愛かそれとも恋人への愛なのか今はもう判別がつかないけれど、確かにリリーを愛しているのだ。 そして私は彼女をどう思っているのか、リリーへの想いと同じように、それすら分からなくなっていた。
来年リリーの息子がホグワーツへとやってくる。 彼の瞳はリリーそっくりだ。 私は耐えらえるのか。 彼の目線が私を罰するように見つめてきたら、私の存在はなくなってしまう。
「エルザ」
椅子へもたれかかり、小さく呟く。 そうしたらひょっこりどこからか彼女が来て、慰めてくれる。 そう願っていたら、それがいつのまにか癖になってしまった。 しかしながら、呼んでも呼んでも彼女は現れない。
あなたは本当に不器用で優しい人ねと笑った彼女はもういない。 彼女のことを大切に思っていたのに、リリーのことも大切に思っていたのに。 私は一度も声に出さなかった。
風の噂で死んだと聞いた彼女のことを思いながら、私はテーブルの飴玉を手に取る。 彼女が好きだったオレンジ味の飴玉を舐めながら私の一日は始まるのだ。 今日も憂鬱な日になりそうだ。
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