春になり、冷たい風も吹かなくなった頃、私の家からは毎日のように手紙が届いた。入学してから今まで、一度も私に便りを寄こさず、私をいないものとして扱っていた父が、ブラック家の子息であるシリウスとレギュラスくんと仲がいいという情報をどこから知ったのか、ブラック家に取り入れと催促を出して来た。母は母で、何度も吠えメールを送って来ている。内容なんて聞いちゃいないし、別々でくる親からの手紙は毎回のように燃やして消していた。そこで何も聞かず、ただ普段通りに接してくれる友人たちには、感謝しかない。

「なぁみんな選択授業どうするん?」
「マグル学は無しだよね」
「スリザリンで取る方なんて1人もいないもの」

3人の会話を聞きながら、私は家から来たメールを消した。吠えメールだけは叫ばれる前に燃やさないといけないから、意外と大変だ。それから私に来た手紙を大丈夫かどうか確認して、ブロウズ家の家紋で封がされた手紙も問答無用で燃やす。あとは知らない人から来たものは、いたずらだったり呪いがかかってる可能性があるから、これも燃やす。すると私の手元に残るのは、大体リリー先輩の手紙だけだ。

「アリアは?」
「まだ迷ってるけど、古代ルーン文字学は取るかなぁ」

そう答えながら、私は先輩からの手紙を読む。そこには、朝食後図書館へと書かれていた。最近は、リリー先輩をお話しする機会が減っているから、純粋に嬉しい。だけど、その機会が減っている原因はほとんどセブルス先輩で、最近あの人は闇の魔術に取り込まれそうで、それを心配したリリー先輩に、ほっといてくれと言ったらしい。スリザリン生の上級生なら、闇の魔術にすでに学んでいる人もいるし、ヴォルデモート卿が台頭してきている今、闇の魔術について学んだ方が、それに対抗できる。けれど、リリー先輩は闇の魔術自体が許せないと言うし、セブルス先輩は先輩で頑なになっているから、仲直りもしない。段々と深くなる溝に、間にいる私の気持ちにもなってくれと思う。

「スネイプ先輩とエバンス先輩喧嘩してるの?」
「そうだけど、どうして知ってるの?」
「異様にあそこだけ殺気立ってるのよ」

クラリスに言われてその方向を向くと、レギュラスの隣に座るセブルス先輩は、不機嫌そうにポテトにフォークを刺していた。昨日の夜仲直りをしようとしてたのに、あの様子じゃどうやら失敗をしたみたいだ。眉間のシワは2倍増しで、レギュラスくんは涼しい顔をしているけど、あの鬼のような顔を見ながらご飯を食べるとは、セブルス先輩の目の前の席の生徒が気の毒でならない。

「エバンス先輩の方は、静かすぎて怖いわ」

デイジーが、グリフィンドールのテーブルに座る無表情でブリオッシュをかじるリリー先輩を指差した。いつもはしつこいくらいに彼女に絡むポッターも、空気を読んだのかリリー先輩に言い寄らず、大人しくご飯を食べていた。他の先輩たちも興味深々で、リリー先輩とセブルス先輩を交互に見ていた。シリウス先輩がこちらを見てどうしたと口パクをしてくるので、私は肩をすくめて何も知らないふりをした。

「ごちそうさまでした」
「アリアもういいん?」
「うん、私リリー先輩に呼ばれて図書館いるから」
「分かった、いってらっしゃい」

まだご飯を食べている生徒たちの横を抜け、廊下へ出る扉に手をかけた瞬間、なんだか嫌な予感がしたが、気にせず扉を開ける。すると誰かの手が私の肩に置かれた。

「アリア」

嫌な予感が当たってしまった。後ろを振り返ると先ほどよりも不機嫌な顔をしたセブルス先輩がいた。

「セブルス先輩?」
「さっきの手紙はリリーからか」
「そうだけどなんで分かったの?」
「あの封筒と便箋はリリーがよく使うものだからだ」
「(よく見てるな!)」

よくあるものであったのに、それだけでリリー先輩からの手紙と断定するセブルス先輩に寒気がした。一歩間違えればストーカーだろう。いや、セブルス先輩はもうすでにストーカーなのか。尊敬する先輩をよく知るほど、残念な人間であることが証明されていくのが、正直悲しい。

「アリア行きましょう」

セブルス先輩をどうにかしようとしているうちにリリー先輩がご飯を食べ終わり、大広間の扉の前にきた。私の後ろから声をかけてきたリリー先輩を見ると、口元は笑ってるんだけど、目が笑っていない。
自分の口元が引きつったのが分かり、私は虚しく笑うしかなかった。リリー先輩はセブルス先輩のことを完全無視だし、リリー先輩に無視をされたせいでセブルス先輩はどんどん負のオーラを出していくしで、さっさと仲直りしてほしい。

「リリー先輩...セブルス先輩...」

大広間の全員がこちらを見ていることが分かった。助けを求めようとグリフィンドールの4人組へと視線をやるが、4人とも顔を振って無理だと伝えてきた。使えないな!なんて失礼なことを思いながら、私は先輩たちの顔を交互に見た。セブルス先輩は眉を下げて、逆にリリー先輩は眉を上げていた。美人が怒ると余計に怖いななんて場違いなことを考えて、今度は校長先生に目線を送ったけど、校長もただいつもみたいに笑っているだけだった。この狸じじいめ。

「リリー、話を聞いてくれ」
「アリア、いくわよ」
「もう仲直りしようよ」
「無理よ」

ばっさりと切ったリリー先輩にため息が出る。セブルス先輩の方を見ると、彼はリリー先輩の態度にショックを受けていた。いやあんたあんだけ怒っていいて今更悲しそうにしてるのはおかしいでしょと私はまたため息をつく。いい加減にしてくれ。

「私2人が仲直りするまで知らないよ!」
「アリア?」
「リリー先輩がセブルス先輩無視するなら、私はリリー先輩を無視する。セブルス先輩がリリー先輩に怒るなら私もセブルス先輩に怒る」

もう知らない。私は二人を置いてスタスタと歩き出した。後ろからついて来ようとする二つの気配についてこないで!と叫び、寮まで急いで走った。大広間全員の目線も、廊下ですれ違ったり、追い抜いたりした人たちの目線も気にしなかったわけではなかったけど、早くあの頑固者二人から離れたかった。

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「だからって俺たちのところへ来るか?」
「だって他に仲良い先輩いないんだもん」
「しょーがねーな。教えてやるよ!」

俺は自分の中にある黒い感情を隠し、悲しそうなアリアの頭を撫でた。アリアの中の数少ない仲のいい先輩に俺が入っていることとエバンスと喧嘩中のセブルスへの優越感を感じながら、いつもの仲間とともにアリアへ選択授業のことを教えた。アリアに嫌われているジェームズだけは輪の中に入らなかったけど、それでもやっぱりいつもの2人と喧嘩中で意気消沈しているアリアのことを気にかけているのだろう。いつのまにか持ってきたチョコレートの山を机へ置いた。ただ、それに手を伸ばしたのはリーマスだったがな。

「とりあえずこんな説明で大丈夫?」
「うん。ありがとうリーマス、ピーター」
「俺には!?」
「もちろんありがとう、シリウス」

またアリアの頭を撫でた。少し癖になりそうだななんて思っているとアリアは、机の上のチョコレートに手を伸ばし一つ掴んだと思ったら、そのまま口へ運んだ。美味しいと呟くアリアはさっきよりは悲しそうではなくて、俺は少し安心した。けどそのあとアリアがポッターもありがとうなんて呟くものだから、俺は目を丸くしてアリアを見た。少し恥ずかしそうに俯いたアリアのほおは赤い。

「えっあっあぁ」

動揺しているジェームズの顔も赤い。俺は思わずジェームズを蹴った。なぜか奴の顔にイラついたからだ。怒るジェームズをなだめるリーマスもアリアの様子に驚いていたし、ピーターはまだびっくりしたままだ。それだけアリアはジェームズのことを嫌っていたし、今日だって会話が一切なかったのにチョコレート一つでアリアは簡単にジェームズを許した。俺はそれが許せなかった。だって俺は初めてアリアに会った後、こいつを俺に懐かせようと必死になって、アリアに絡んでいって1シーズンかけてゆっくりと仲良くなったのに。ジェームズはアリアからの評価をマイナスからチョコだけでプラスに変えた。それが本当に腹に立つ。

「シリウス?」

心配そうに見上げたアリアに大丈夫と言って、俺はソファに座りなおす。きょとんと俺を見上げるアリアは可愛いし、魔女としての才能にも溢れている。ブロウズ家という枷のせいで、アリアのことをとやかく言う人間は一定数いるがそれは一部だけで、アリアは密かに人気がある。アリアの友人達曰く、アリアは周りの良い目に疎すぎると。俺もそうだと思う。アリアはもっと自信を持っていい。けど、アリアがそれに気づいて欲しくない自分もいる。それは俺の醜い独占欲で今もこうして親友にまでそれを発揮しているし、今まで俺は女なんてどれも一緒だと思っていたのに、アリアだけは違っていて。あわよくばアリアが俺のことだけを見てくれればなんて考えながら、俺はチョコレートを一つ口に含んだ。


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