ハロウィンの季節がやってきた。去年は友だちもいないし、このハロウィン独特の高揚感に溢れた大広間にいるのも辛くって、結局すぐに寮に帰った覚えがある。けれど、今年は先輩たちもいるし、レベッカがハロウィンパーティーで仮装をしようって言ってたから楽しみだ。
どんな格好にしようと考えていたら、結局決まらずにハロウィンまであと1週間というところまで来てしまった。

「えっアリアまだ格好決まってないんか」
「なんか色々見てるとどれもいいなって」
「あかんて!もう後1週間もないんやから」

1人自分の持ってる服を見ながら唸る。デイジーは吸血鬼、クラリスはヒーラー、レベッカは天使になるらしい。ヒーラーみたいな職業の服でもいいのか。余計に悩む。

「どうしたアリア」

こうなったらリリー先輩に相談しようと思う。きっと今の時間なら魔法薬学の教室にいるだろうとのぞいてみると、そこにはセブルス先輩しかいなかった。残念。

「なんだセブルス先輩か」
「なんだとはなんだ」

セブルス先輩には絶対ハロウィンを楽しんだりしないだろうけど一応聞いてみる。

「ねえセブルス先輩。ハロウィンの衣装どうすればいいと思う?」
「興味ない」
「そんなこと言わないでよ!」

こっちは真剣なんだからと本を読む先輩の周りを意味もなく回る。そうすると鬱陶しかったのか、先輩はため息をついて私の手を引っ張った。
ちょっと強めに引っ張られたから、私の身体は横に倒れかけたが、セブルス先輩がしっかりキャッチをしてくれた。まあ、先輩が引っ張ったのに支えないとかありえないとこだけど。そうなったら絶対リリー先輩に言う。

「黒いワンピース持っていただろう。あれを着て、パーティーの前に僕のところへ来れば、魔法をかけてやる」
「ほんと!?」

黒いワンピースなら何になるのか、黒猫だろうか、ワクワクしながら、私はセブルス先輩にもたれかかる。

「セブルス先輩は何もしないの?」
「リリーに毎年、なにかしらの衣装を着させられるからな」

去年は死神だったとため息をつきながら言う。先輩の死神姿を想像して、笑う。似合わないはずがない。リリー先輩も流石のセンスだ。

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ハロウィン、それはみんながワクワクする日だ。私の可愛い後輩のアリアにも衣装を考えてたけど、すでにセブに先を越されたみたい。ちょっと悔しい。
勉強しようと訪れた図書館でセブルスを見つけ、私は彼の横に座り、出された課題を広げる。

「セブ、あなたの衣装言われた通りにしたけど、あなたがハロウィンに乗り気だなんて初めてじゃない?」
「今年はアリアが楽しみにしてるから少しは協力しようかと」

少しだけ口角を上げたセブルスを見て、私も嬉しくなる。私もセブもアリアが大好きなのだ。

「アリアも喜ぶわね!けど、セブがアリアの衣装用意するとか言ったけど、どうするの?」
「最初は薬で黒猫にしようと思ったんだけどな」
「あらいいじゃない。どうして違うものにするの?」
「まあな」

そう言ったセブルスを見て、嫌な予感がする。彼がこういう笑い方をしている時は大抵良くないことが起こる。

「もう!アリアをいじめちゃダメよ」

あの子ハロウィンすごく楽しみにしてるのよ、と少し語尾を強く言う。可愛い格好をさせてあげたいし、私が彼女が可愛い格好をしているところを見たい。
セブルスは女の子がおしゃれをする大切さを知っているのだろうか。彼は女心がわからない。これでもアリアと関わり出してから、彼はいい意味で変わったけれど、やっぱりそういう所は鈍いままな気がする。

「セブ変わったわね」

そう言うとよく分からないという顔をしたセブルスを見て、私は微笑んだ。昔はそんな表情豊かじゃなかったのに。最近じゃ、アリアや私との時間を増やすために闇に通じている人たちとあまり関わらなくなった。いい傾向だと思う。
アリアがセブルスを変えたのだ。彼の幼馴染としては少し悔しいけど、彼が柔らかくなったことは素直に嬉しかった。

「ねえセブ、ハロウィン楽しみね」

無言で頷いた彼の横で、私も彼と同じように筆ペンを動かした。

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ハロウィン当日、私たちは授業に集中できずそわそわしていた。普段失敗しないクラリスも今日は珍しく調合を失敗して落ち込んだ。私たちは寮の帰りながら彼女を慰める。

「アリアはセブルス先輩のところ行くんやな」
「うん!」
「髪の毛だけ後でやったるから、終わったらすぐ来てな」
「デイジーちゃん!私も!」

3人に別れを告げ、私は部屋で黒いワンピースに着替える。ホグワーツに来る前に、珍しく父が買ってくれたものだ。身長が伸びたせいか、ひざ下だった丈がもう短くなっている。まあ平気だと思って私はその上からそのままローブを羽織り、魔法薬学の教室の近くにある空き部屋へ行く。
ここはセブルス先輩が見つけた秘密の場所だ。知っているのは私とリリー先輩しかいない。先輩の秘密を私たちだけ知っていることに私は少しの優越感を感じていた。

「セブルス先輩!」
「来たか」

椅子に座って分厚い本を読むセブルス先輩を見て、無駄に優雅だなと思った。ローブをソファにかけて、セブルス先輩の目の前に立つ。
セブルス先輩は杖を一振りすると、私のワンピースがどんどん変化して行く。なんだか、マグルの童話に出てくる魔法使いだ。ボロ衣装を素敵なドレスに変えた魔法使い。そうなれば私は灰かぶり姫かな。

「できたぞ」
「わぁ!」

姿鏡には真っ黒なコウモリの姿をした私が写っていた。ふんわりとしていて、腕と脇の下からわき腹にかけて繋がる部分がギザギザで、可愛い。ちゃんと耳も付いている。このクオリティを無言魔法でやってしまうセブルス先輩はやっぱりすごい。

「可愛い!すごいよセブルス先輩!」
「猫やら犬やらの方がいいとは思ったんだがな」
「ううん、私コウモリ好きよ!」

セブルス先輩に似てるしとは言わなかったけど、本当にこの格好が気に入った。早くみんなに見せたいな。

「あぁもう一個あるんだった」

セブルス先輩が私の後ろに回り込み、首に何かをつけた。鏡を見るとそれはシンプルな緑色チョーカーで銀の飾りが付いている。スリザリンカラーだ。

「ハロウィン楽しんでおいで」
「うん!」

パーティーまで時間がない。セブルス先輩もリリー先輩から衣装をもらって着替えないとと言うので、私も寮へ戻り、デイジーに髪の毛を結ってもらう。
3人とも私の仮装を見て、いっぱい褒めてくれたのが嬉しかった。

「さぁ、ハロウィンの始まりや!」
「「「いえーい!」」」

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10月といえばハロウィン、ハロウィンといえば悪戯、悪戯といえば俺たち悪戯仕掛け人だろと浮かれるジェームズに俺もテンションが上がる。1ヶ月もかけて準備をしたんだ。楽しまなければ損する。計画通りに行くと仕掛けを動かすのはパーティー終盤だから、それまではパーティーを堪能しようじゃないか。

「シリウスだ!」
「相変わらずモテモテやな」
「アリア、声かけなくていいの?」
「あの中に入る勇気はない」

甘ったるいかぼちゃジュースを飲みながら、寄ってくる甘ったるい臭いをした女共を適当にあしらってると聞こえてくるお馴染みの声。去年出会った不思議な女の子。貴族なのに他の奴らと違って気取ってなくて、優しくて、そして純血主義じゃない。今時珍しいやつだ。俺は人の波をかき分けて声がする方へと向かう。アリアはどんな格好をしているのか。きっとなんでも似合うだろう。俺は自分に似合わない感情を持て余していた。

「アリア!」
「シリウス!衣装ワンちゃんなんだね」
「ワンちゃん言うのはやめろ!アリアはその...コウモリか」

アリアを見つけて舞い上がったテンションが一瞬にして降下する。コウモリで思いつくのはただ1人、あのスニベルス野郎だ。しかもさっきちらりと見たやつの姿は確か吸血鬼だった。あいつのはエバンスが用意したというが、アリアの衣装も彼女が用意したのか、それともあいつが自分に合わせて用意したのか、分からないが嫌な気持ちになっていく。コウモリは吸血鬼の象徴として描かれることも多い。首元のチョーカーを見て、スネイプがアリアは自分のだと言っているようで、自分の中にどす黒い思いが湧き出てくるのを感じた。しかもアリアがかわいいのがムカつく。ひらひらとしたワンピースも、頭に乗っかっているコウモリの耳もアリアの良さを引き出していた。

「くっそ」
「シリウス?」
「アリア今日楽しみにしとけよ!」

捨て台詞のように吐き出した言葉にアリアがびっくりするのを尻目に、俺は相棒を探し出す。
もっと大きなことするぞ!

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ハロウィンパーティーも終わりに近づく頃、シリウスとポッターが箒に乗り、会場へ現れた。みんなが呆然と彼らを見ていると、彼らは杖を取り出し、次々と花火を打ち出していく。

「綺麗!」

楽しみにしておけと言ったのはこのことなのだと納得した。なんだかんだ言ってあの2人はすごい魔法使いなのだと感じた。シリウスがこちらに手を振るのが見えたので、私も思いっきり手を振り返す。はじめてのハロウィンパーティーはとても楽しかった。



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