ホグワーツの夏は比較的過ごしやすい。長袖で十分過ごすことができる気候だ。だから夏と言えどもホグワーツで水遊びなど、風邪を引いてもおかしくないのだ。なのにあれから仲良くなったシリウスやリーマス、ピーターについでにポッターはマグルの遊び道具、水鉄砲を使い中庭で遊んでいる。周りにも被害が出ているようで、そのうちフィルチさんかマクゴナガル先生が飛んでくるだろう。バカだなと思いつつ、シリウス先輩がカッコいいだとか、私はジェームズ先輩派とか、リーマス先輩も可愛いよねーなどと話をする同級生たちと共に3階から遊んでいる様子を見つめていた。まあ確かにあの中ではシリウスが1番カッコいいと思う。実際、ほかの女の子から黄色い声援を受けている。イケメンはずるいな。

「アリア、シリウス先輩と仲良しよね」
「スネイプ先輩がこないだいっしょにいるあんたら見てすっごい睨んでたで」
「えぇ、アリアちゃんどっち選ぶの?」

上から、クラリス、デイジー、レベッカの順で責められる。この3人とは、性格もバラバラなのにうまくやっていると思う。その3人からそんな話が出るとは、私は密かにため息をついた。

「だってセブルス先輩にはリリー先輩がいるし、シリウスはあれよ、あれ。
カッコいいとは思うけど、なんか懐いてきた犬みたいな」
「エバンス先輩も美人だし、めっちゃ頭もいいから人気だもんねー。
それに先輩も犬っぽいの分かる気がする」

シリウスをかっこいいと思うのは本当だ。あの人はホグワーツで1、2を争うレベルのイケメンだ。それに最近彼は私が困っている時に現れては助けをくれる。私は彼を見るたびなんだか暖かい気持ちになるし、一緒にいるとなんだかくすぐったい。セブルス先輩と一緒にいる時もそういう気持ちになる。それがなんだか分からないけど、多分2人共本当の兄のように優しくしてくれるからだろう。

4人でまた中庭で遊ぶ悪戯仕掛け人を眺める。あっリーマス先輩がこけた。それを4人で見て一斉に笑う。彼は少し動きが鈍い。

「でもアリアはリリー先輩と同じくらい可愛いわ。大丈夫」

クラリスが笑いながらそう言うの私は首を振って否定をした。そんな物好き会ったことがない。本当にいるのなら会ってみたいものだ。可愛いと言ってくれるのは3人かセブルス先輩かリリー先輩、あとシリウスくらいだ。大体私よりもこの3人の方が男の子に人気だ。こうして話している時でもこちらをちらほらとみてくる人がいる。その目線が少し鬱陶しくて、私はそいつらをジロリと睨み追い払った。

「アリア!お前もこっち来いよ!」

シリウスがこちらに気づいて手を大きくブンブンと降ってきた。私も手を振るってそれに応えたが、3つも上なのに子どもように遊ぶ彼らに混ざる気出なかった。それに流石に風邪引く。

「いいのアリア、呼んでるわよ」
「いいよ」
「確かにこの時期に水遊びすんのはしんどいな」

リーマス先輩もおいでよと言うため、私は大声で行かないと叫んだ。あれから、シリウス以外にもリーマス先輩、ピーター先輩と喋るようになったけれど、ポッターとの仲はいいものとは言えなかったから気まずい。というか私はポッターが苦手を通り越して嫌いだ。向こうも同じだろう。それを知ってか知らずか、シリウスは私とポッターを仲良くさせようとしてくる。正直、迷惑だ。それにポッターはリリー先輩にずっとつきまとってる(リリー先輩を好きになる気持ちは分かるけど鬱陶しがられてる)し、シリウスと一緒になってセブルス先輩への攻撃をやめないしで最悪の男だ。まあセブルス先輩もあの2人にやり返してるからどっちもどっちなんだけど。しかも私もたまにポッターからいたずらされてるから、セブルス先輩とやり返してる。リリー先輩はそれにいい顔をしなかったけどね。

「アリア」

廊下の角からセブルス先輩が現れる。日に焼けたことがないと思うほど白い先輩の顔が暗闇に浮いていて、少しびっくりしたレベッカが小さな悲鳴をあげた。クラリスもデイジーも何も言わないがきっとびっくりしただろう。私はそんなセブルス先輩には慣れてる。何も言わず、セブルス先輩は私たちの横に並ぶ。まあ大きな声で叫ばれるよりマシだろうし、先輩もこんな反応に慣れているのだろう。中庭を見てバカだなあいつらと言う先輩が私たちの小さな悲鳴に気にする様子はない。3人が密かにホッとしたように笑ったのがわかった。

「なんだアリア来ないのか?」
「ごめんなさーい!セブルス先輩に呼ばれたから行くね」
「あぁ?スネイプのやつふざけんな!アリアを返せ!」
「彼女がどう動こうとお前には関係ないのでは?」
「出たなスニベルス、これでもくらえ!」

急に怒り出したシリウスは、水鉄砲をこちらに向けて放つ。当然ながら飛距離が足りず、水は放物線を描き、虚しくも2階に届く前に落ちて行った。セブルス先輩はよせばいいのに鼻でバカにしたように笑う。それを見たシリウスは、ポッターに耳打ちをした。あっ嫌な予感だ。セブルス先輩もそう思ったのだろう、私と彼は素早く杖を振った。

「エンゴージオ!」
「アクアメンティ!」
「「インパービアス」」

2人が水鉄砲に魔法をかけ、大きくした後に大量の水を放ってきたのに対し、こちらも防水呪文で素早く全員を守った。本来なら廊下で魔法は使っちゃダメだけど、今回は緊急事態だ。呆然としている3人が濡れてないことを確認し、私は2人を怒鳴りつけた。

「ちょっと何するんの!」
「いや濡れねずみってスニベルスにぴったりの言葉だなって」
「黙ってポッター!クラリスたちが濡れちゃったらどうするつもりだったのよ、もう私怒った」
「ちょい待ちアリア、別にうちら水かかってないしな。
ここで魔法を使うんは....」
「ほらMiss.スタークもそう言ってるよ」
「いやデイジーが許しても私が我慢ならない、レダクト・マキシマ!」

粉々魔法でポッターが持っていた大きい水鉄砲を跡形もなく粉々にした。一歩間違えればポッター自身が粉砕されていただろう、ポッターの顔が真っ青になる。いい気味だ。それにもう見えないくらいの粉にしたから、レパロでも直すことは無理だ。手に入れるの大変だったんだぞ!の声を無視した。

「アリア行くぞ」
「うん、それじゃみんなじゃあね」

びしょ濡れになった廊下を一振り綺麗にしたセブルス先輩と歩き出す。さすが先輩、無言魔法をもう使いこなしている。かっこいい。

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「いややっぱりあの2人すごいわ」

私の言葉にデイジーもレベッカも頷いた。アリアはまだ私たちと同じ1年生だ。なのに彼女は上級生が習うような呪文を使いこなしている。しかも呪文学だけでなく、魔法薬学もスネイプ先輩に習い、難しい調合まで行なっているそうだ。苦手なのは飛行術くらいだろう。あとの教科も難なくこなしていた。スネイプ先輩もスネイプ先輩だ。4年生で無言魔法を使える人なんてほとんどいない。というか7年生でもできない人は多いはずだ。自分の寮にこれだけすごい人たちがいるというのは、誇り高いと思う反面、自分も頑張らなくてはという気持ちにさせられる。

「くっそスネイプの野郎!」
「いやシリウス...僕の水鉄砲壊したのブロウズだから」
「アリアは悪くない」
「えぇー」

シリウス先輩とジェームズ先輩との会話を聞く。シリウス先輩はアリアが好きなんだろうか。アリアは彼を懐いてくる犬と言った。ジェームズ先輩がエバンス先輩に迫って行くほど露骨ではないけれど、あれは側から見るとアプローチしているようにしか見えない。

「アリアもさモテてるんやけど、2人がずっとおるから他の男なんて寄って来んよな。
しかもアリア自身も人見知りであんま輪に入ろうとせえへんし」
「アリアちゃんはそこがいいの!」

2人の会話に相槌をうちながら、下を眺める。まだ言い合いを続けていたジェームズ先輩たちがいきなり走り出した。すぐにMr.フィルチの怒鳴り声が聞こえてくる。どうやら見つかってしまったようだ。怒られているのに楽しそうに走り出す4人に、私は感嘆の声をあげていた。

「えぇクラリスちゃん、まさか悪戯したいの?」
「違うわ、ただ私たちもあんな風に学年が上がっても笑えたらなぁって」
「楽しそうやもんな」

アリアはまだ私たちになんとなく遠慮しているところがある。気兼ねなく一緒にいたいけれど、やっぱりスリザリンの先輩たちからやられた傷が癒えるには時間がかかる。しかも今はアリアの才能に嫉妬しているレイブンクローの人たちの嫌味もすごい。私は彼女の力になれるだろうか。

「そんな顔しなくても私たちは大丈夫だよ」

優しく笑う2人につられて、私も笑った。私はいい友達を持ったと思う。願うならば、アリアもこうやって一緒になんの心配もなく笑ってくれる日が来てくれると嬉しい。


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