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ゆびきり


私が指先の光を消したのと、黒崎くんが空間を切り裂いたのとは殆ど同時のことだった。

眩い閃光と同時に走った強大な霊圧に、私は思わず頭を抑えた。頭蓋骨に響き渡るような強い衝撃と耳鳴り。月牙天衝だ、と瞬時に悟る。けれども攻撃の対象になったであろう藍染の霊圧はびくともせず、顔を顰めながら私は視線を上げた。

私達がいる場所からだと二人の姿は見えない。黒崎くんが藍染から飛び退くように距離をとったのが霊圧で分かった。どうやら藍染は全くの無傷と言って良いようだった。これはあまり良い事態ではないかもしれない。眉を寄せたまま私は見えない彼らの方向を見つめる。

ーーーでも、

黒崎くんは動揺してはいるけれど、心身共に大きく損なわれているわけではない。同時に現れた卯ノ花隊長が治癒を施し、万全の状態でここへ連れてきたのだろうことは想像に難くなかった。

ーーー織姫ちゃん。

彼女に何かあったら、きっと彼はここへこんな安定した状態でやってくることは出来ないだろう。彼女を救えたからこそ、黒崎くんはこちらへ来られたのだ。それ以外考えられなかった。

私はぎゅっと手のひらを握りしめる。
朽木隊長や更木隊長、涅隊長も虚圏に行ったはずだけれど、姿が見えないのはまだ向こうに残っているからだろうか。それは後片付けがあるから?何かの布石?それとも。

ーーー黒崎くんが来れば、何とかなるって思っている?

一拍おいて、まさか、と私は首を竦めた。それは俄かには信じがたい話だ。特に合理的な朽木隊長の性格を思うとそんなはずはないと思えた。

この場に朽木さんが居ないことを考えれば、彼女が負傷した結果朽木隊長も虚圏に残っていると考えるのが妥当かもしれない。卯ノ花隊長と共に虚圏に行ったはずの虎徹副隊長の姿が見えないのがその仮説に信憑性を持たせた。
更木隊長はまたどうせ何かと戦っているのだろう。涅隊長については、滅多に入ることのできない虚圏の様々なものを蒐集しているに違いない。
…それが真相のように思えてくる辺り、護廷十三隊の隊長というのは本当に自由人の集まりだと思う。

私の仮説の真偽はどうあれ、現在ここに帰って来たのが黒崎くんと卯ノ花隊長の二人だけだというのは事実だった。
負傷した人達についてはもう大丈夫だ。死にさえしなければ卯ノ花隊長が何とかしてくれる。あとは、元を断てば良い。

黒崎くんの周りにたくさんの霊圧が集まってくる。今まで別々の場所で戦っていた人たちが、一気に集結しているのだ。恐らく、彼に鏡花水月を見せない為に。
けれども私がその霊圧の一つ一つを誰のものか認識することは既に出来なかった。さっきからもうずっと耳鳴りが止まない。そばにある藍染の霊圧が大きすぎて集中出来ないのだ。辛うじて黒崎くんの霊圧だけは判別ができる。それ以外はもう、誰が生きて誰が倒れているのかも分からなかった。

ーーー時間はあまりない。

「桜木谷」

膝をついて立ち上がりかけた私の手を、斑目さんが取った。いつものように真っ直ぐ睨みつけるような瞳で、私を見上げる。その眼光を正面から受け止めて、私は彼が口を開くのを待った。

「死ぬなよ」

頭上では剣戟が聞こえ始めている。強大な力に混じって平子隊長の霊圧を感じた。それだけで、まるで百年前に戻ったみたいだと思う私は単純だ。
けれど百年前には、今目の前にいる斑目さんは居なかった。

「…善処します」

笑ってみせた私の手を掴む彼の指先に、力が篭った。

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