大富豪or大貧民 | ナノ




「ハァ…教科書を自分で持つのなんて久しぶりね。」

いつもなら移動教室の際は友達が自ら進んで持ちに来てくれたのだ。
今はそれが居ない為、自分でもって移動することになった。

胸の前で両腕をクロスさせて大事そうに抱え込む。

そして3階の教室から2階の教室へと向かって移動する際中のこと、
階段の踊り場まで降りた時に後ろから女子に話しかけられた。
足を止め、階段の上を見上げる。

「杏奈ちゃん。」

「あら、学校で会うなんて珍しい。」

「そりゃぁそうでしょうよ。だって私はアンタにいじめられてる設定なんだから避けるわよ。」

「そうだったわね。で、何の用かしら?」

虐められっ子さん、
基、対戦相手さん。

「あんた全然ダメージくらってないじゃない。レギュラーから本当に嫌われてるわけ?」

「……嫌われてるよ。十分に、外傷が無いのは彼らが精神的に虐めてくるからじゃないかしら?
きっと私はメンタルが高いんでしょうねぇ…。」

「面白くないわね。なんで殴らないのよッ!」

「きっと女子には手を上げたくないんでしょうね。跡部君や忍足君はお優しいから…。」

私のゲームに必ず乗ってくれる優しい人達。

「当たり前よ。あんたなんかどうでもいいんだろうけど、女子ってお得よね。殴られたら被害者ぶればいいんだもん。悪いのは手を出した男子ってね。」

「あら、よくわかってるじゃない。」

「だーかーら…私があんたを肉体的に虐めてあげる。」

女子が一歩ずつ杏奈のいる踊り場へと近づく。

「あんたって跡部君の婚約者なんだって?しかもそこそこの財閥の娘?
そんなんだから他の生徒は手を出せないってさ。ホント存在がむかつくわ。
それに跡部君可哀想、こんなすぐに会長を辞めろって言われるような人望の薄い女が婚約者だなんて、跡部君にふさわしいのはこの私、
私も大企業の娘なの。あんたがが居なくなれば私と跡部君が将来の夫婦になれる。
だからさ、解消してよ。解消したいって跡部君にってよ。親を説得しなさいよ。

それができるまで私はあんたを虐めるわ。」

トンっと肩を押される。

「え?」

体が大きく傾く。
これは転がって落ちてしまう前兆だ。

手すりを持たなきゃ、
あぁダメだ。両手で教科書を持ってた。腕を伸ばしても間に合わない。

頭をかばおうとするので精一杯。

そして一段、また一段、重力に従って階段を転げ落ちる。

「カ、ハァッ!!」

肺の空気が押し出されていく。

一番下まで落ちて廊下に転がる。

廊下に居た生徒が野次馬として集まってきた。

ただ助ける行為をするわけもなく。
眺めているだけ。

「…………ァ…。」

痛い、

声に出したくても上手く言葉を紡ぐことが出来ない。

杏奈が意識を保つ最後の瞬間に認識できたのは階段の上で醜く嘲笑っている女子の顔と、遠くから聞こえてくる愛しい者の声。

「け、いご……。」






杏奈――― 杏奈―

「っ………。」

杏奈が静かに目を開ける。

「杏奈!!」

「景吾…ここは?」

「保健室だ。」

なんで、保健室になんて居るんだろう。
それにこの体の節々の痛みはなんだ?

「……………あぁ、階段から…。」

「なにがあった?」

「……あの子に突き飛ばされたわ。」

「やっぱりな。」

「あの子はなんて?」

「突き飛ばされてとっさに杏奈を掴んでしまって代わりに杏奈が落ちてしまった。すごく罪悪感がある、だと。」

「へー、罪悪感ね。」

「なぁ、杏奈…始めに俺様が言ったこと覚えてるか?」

「……えぇ、もちろん私が怪我をしたら黙っていない。どうぞ?もう暴れてもいいわよ?
ちょっとあの子も遊び過ぎたわね…もう終りにするわ。」

「もう…いいのか?」

「飽きたし…もう切り札を使ってもいいかなって。」





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【階段】
同じマークの数字が並んでいる場合に出すことができる。(地方によっては同じマークでなくても数字が並んでいたら出したりできる。)


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