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僕と君は、 第06話
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「ふぅ、人間やればできるものですね。」

僕は人間の底力自分で感じた。
無事に忍足君を保健室まで背負っていくことが出来た。しかし二度としたくない。
それから僕は保健室の備品を借りて手当をする。服を脱がして…ってホントデジャヴだ。ちょっと前の僕みたいな身体だ。あ、でも結構筋肉ついてる。羨ましい。

「――――っ…。」

「あ、忍足君起きました?」

手当をとりあえず終わらせて掛布団をかけてあげた瞬間に忍足君は目を覚ました。目を覚ました瞬間に忍足君は上半身を起こした。折角掛布団をかけてあげたのに。
僕は少し驚きながらも声をかけた。どうやら驚いたのは僕だけではなく忍足君もだったらしく、切れ長の目を縦に見開いて僕を見てきた。

「…自分、何やっとんねん。」

「何って、手当ですけど。駄目でした?」

「いや…とりあえず感謝しとくわ。」

「どういたしまして。」

僕は使った備品を元の場所に戻し、それから忍足君の寝ているベットの近くにパイプ椅子を置いて座る。
一連の動作をごく自然にしていた僕を忍足君は茫然と見ていた。思わずその反応に僕は心の中で笑った。

「自分なにしてんの。」

「何って、忍足君と話そうと思いまして。」

「話す事なんて無いわ。」

「残念だけど僕にはあるんです。
さっき跡部会長から貴方の事を聞きましたよ。天才様。」

「聞いたんか。じゃぁ尚更話す事なんてないわ。消えぇ。」

「嫌ですね。僕は貴方から聞きたいんですよ。一方の方だけの話を聞いて完結させるなんて事僕はしません。したくないです。
そもそもですよ。僕がこうやって一々わざわざ時間を割いて話を聞いて回っているのは両方からの意見を同時聞きたいのですよ。僕は会議みたいなものはおかしいと思うんです。会議なんて口論で強制終了していると思わないですか?具体的に言うならホラ、国会?
話し合いの場を設けたってそれが対立しているのに、はい話し合って。はい解決。なんて出来るわけないですよね。だって対立者は真っ向から相手の意見を潰そうとして来てるのに話し合って終わりだなんて僕にはただの茶番でしかないと思うんです。
あぁ、別に理解してもらおうだなんて思っていません。理解出来ないでしょうし。」

「いや、分かるで。自分の言っとる事。」

今度は僕が驚かされた。
僕の価値観を語ったのに彼は苦笑をしなかった。それどころか理解してくれた。

「……はい?」

「やから全面的に同意やその言い分。俺も同じこと考えとる。理解出来んとかそんなん無いで。」

驚いた。
まさか理解してくれる人が居るだなんて。しかもそれが忍足君。何の因果か彼も僕の様な扱いを受けているなんて、

「…へぇ。
だったら話は早いですね。僕は君をどうにかして元に戻したいと思うんです。だって君は本来そう言ったことを受ける必要はないでしょう。」

「なんや自分もか。」

忍足君は僕の言葉を聞いて先ほどまで解れていた感情が一気に凍り付いていった。
あ、僕は今彼の地雷を踏んでしまったらしい。

「と言うとどういう事ですか?」

「そう言って俺を偽善からか助けようとするやつらの事や。
可哀想やから、とか哀れやから、とか弱者は見てられないだ、とかそう言った言い分、聞きたくないわ。反吐が出る。」

「貴方は差し伸べられた手を今まで振り払ってきたという事ですか。」

「せやな。結果的にそうなるわ。」

「どうして君は人に助けを求めないのですか。君は助けを求めることのできる位置に居るはずです。親だって大人だって、もしかしたら社会も助けてくれる…。」

「自分には関係ないよな?転入一日目の奴が知ったかせんといてくれるか。」

「………。」

あ、あ…。

「確かに俺は虐められとる。けど、…自分には関係あらへんよな?
俺は人に助けを求める様な奴やない。助けを求めるなんて無様なこと出来るわけあらせんやん。天才様ってイメージ押し付けられて、オカンからも出来のええ息子言われとって、今更そう言う汚点でしかあらへん虐めを受けている被害者面出来る訳あらへん。窮屈やんなぁ。
もっぺん言っとこうか、自分には、関係ない出来事や。俺は他人を巻き込むつもりもあらへん。自分のエゴに俺を巻き込まんといてくれるか。」

「あ…。」

この台詞は…、
とても大切な友哉に対して僕が言ったモノと同じだ。忘れもしない。友哉が僕が虐められていることに気づいてわざわざ僕に問いただしに来た時に僕は忍足君が言ったようなこと、僕は言ったんだ。

嗚呼、そうか。
どうして僕が忍足君の事に対して首を突っ込むのか。
どうして初めて会ったときに僕はムカつくと言った感情を抱いたのか。

それは忍足君は僕を鏡に映しているかのようにそこに居たからだ。
僕は過去の自分を見たくなかったから彼に首を突っ込もうとしたんだ。
今ならわかるよ。あの時友哉が僕に対してどんな感情を抱いていたのか。とってもムカつくね。これ。
自身が手を差し伸べたい。助けたいって思っているのに相手からは辛辣な言葉をかけられて、それでもどうにかしたい自分が居るんだ。
これは…苦しいな。確かに自分のエゴ。自分勝手な思いで彼に手を差し伸べれいるけれど、それを偽善者と言って罵られるのはちょっといただけなかったかな。
…反省しなきゃ友哉に謝らなきゃ。僕はどれほど友哉を傷つけてしまったのだろう。友哉は今何処で何をしているのだろう。荒れてるかな。

「分かったか?転入生。俺から話す事なんて無いから、出てってくれへん?」

「……そう、ですね。失礼しました。」

僕はすぐに出て行った。
僕のすることは決まった。忍足君と跡部君の仲を取り持つ。
こんなことをすることになるなんて。まぁいいや。友哉みたいにヒーローになってやろう。
二人からしてみれば迷惑でしかないことだけれど、これは僕のエゴだからね。エゴにはみんな巻き込んで当然でしょう。損はさせないよ。僕がすることなんだからね。



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