俺はお前で、 | ナノ

僕と君は、 第05話
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僕が忍足侑士と言う言葉を口にしただけで跡部会長は視線を机の上にあった書類から離してこちらを睨みつけてきた。どれだけ忍足君の事を嫌っているのだろう。

「何故だ?」

「貴方も理由を聞いてくるのですね。理由としては僕が知りたいからと言った主観的なもので、跡部会長が求めているであろう確固たる理由はありませんけど?そもそも僕自身もよく知りもしない人に対してこんなに首を突っ込みたがるのか分りませんから。」

「お前、忍足と関わったな?」

「僕はその人が忍足侑士だと知らずに関わっただけですけど?跡部会長がその忍足侑士の外見的特徴を言ってくだされば避けることが出来ましたけれど、外見すら分からなかったのにどうやって関わらずにいれましょうか?今回ばかりは跡部会長の失態ではありませんか?僕が忍足君と関わってしまったことは不可抗力です。」

「………チッ、何が知りてぇ。」

この人視線だけで人を殺すことが出来るのではないかと言うほどの眼力で僕の方を見きたけれど僕はそんなのでは怯まない。
友哉の方が数倍、数十倍怖い視線をあの時の僕にぶつけてきた。あの時はちょっと怖かったかな。
そんな視線の中、僕は涼しい顔で言ってやった。

「この学園で起こっていること全部ですが、なにか?」

跡部会長は眉間のシワをさらに増やし僕を睨んだ。
だから怖くないんだってば。

「…まぁ、いいだろう。話してやる。そこのソファーに座れよ。樺地お茶の準備だ。」

「ウス。」

跡部会長は僕にとても豪華なソファーに座るよう促した。
そしてお茶も準備してくれるようだ。どうやら僕の見当違いはあったようだね。自分勝手な思いで彼を追い込んでいたのかと思っていたがそれなりの理由があるようだ。
お茶が出てくるところを見れば話は長くなると思う。そう思えば忍足君にも原因があるようだけれど。だから彼はあんなにも落ち着いた風だったのか。自分は虐められて当たり前だと言った…。

僕が思考を繰り広げていると僕の座ったソファーと対にあるもう一つのソファーに跡部会長は座っていた。そしてソファーとソファーの間にある机の上にはお茶と茶菓子がある。至れり尽くせりと言うのはこうった物を言うのだろうか。

「で、会長。この氷帝学園は今、どのような事になっているのですか?」

「別に何も起こっちゃいねぇぜ?」

「起こっているでしょう。忍足君。彼、虐めを受けていますよね?」

「虐め、ね。確かにその言葉で片付くな今の現状だとな。」

「そうですね。そして貴方は生徒会長であるのに彼の虐めに加担している。生徒会長であるならばこのような事態は仲裁しなければならないのではないですか?」

「おいおい、勘弁してくれよ。お前は生徒会長をなんだと思ってやがるんだ?俺は生徒会長をやってはいるが、一介の生徒だぜ?生徒が自分の思いで行動して何が悪い。」

「えぇ、確かに生徒は自分の思いで行動を起こせばいい。しかし貴方は全生徒、そしてきっと教師をも支配しているのでしょう。その様な人が私情を公務に挟んでもいいのですか?」

「いいんじゃねーの?俺が校則だ。」

「そうですか。貴方はそう言った考えのお持ちの方ですか。
では質問を変えます。忍足君が虐めを受ける理由はどういったものですか?」

「大層な理由はねぇよ。ただ、あいつの態度が気に入らねぇだけだ。」

「態度、ですか。」

「そうだ。あいつは認めたくねぇが天才と言う部類だ。まぁ、俺もだがな。
それであいつは天才であるが故、自分は誰にも理解されないと思ってやがる。理解されない?そんな訳ねぇだろ。あいつは理解されようとしていないんだ。」

「…………。」

「俺様は天才だが、あいつみてぇな態度は取らねぇ。だからこそ才能を誇示し、俺様は生徒会長と言った皆が慕うような役に付いてる。
けどあいつはどうだ?理解されようともせず被害者面をしやがって、その上こっちが理解してやろうとしたら心を閉ざして逃げやがる。そんな態度を幾度となく図られてみろ。俺だって関わりたくないぜ。
だから俺はあいつと他の生徒の間を取り持つことも止めた。あいつに添う事も止めた。そうして始まったのが今の現状だ。俺が発端じゃねーよ。だが、助長してるのは確かだな。」

「そうですか。では、これはいつ終わるのですか?」

「終わらねーよ。少なくとも俺は終わらせねー。虐めが顕著になって来てもあいつは改善しようと行動をとらねぇ。それどころかあいつはさらに飄々とした態度をとりやがって、今まで相手にして来た俺様が馬鹿らしいじゃねーの。」

「…そうですか。分かりました。ありがとうございました。僕の疑問は全て解決しましたので失礼します。」

まだまだ聞きたいことはあったはずなのだが、僕はいつの間にか席を立っていた。

「アーン?もういいのか。」

「はい、十分すぎる位です。」

僕は席を立ち、そのまま扉へと歩いて行った。

「俺様としては、お前みてぇな奴には楽しい学園生活を送っていってもらいてーんだがな。」

「そうですか。残念ながら僕は楽しい学園生活とは無縁です。それでは失礼しました。」

僕は生徒会室を足早に出た。
跡部会長は何も考えずに漠然として虐めに加担していたわけではないという事が分かったことが何よりの収穫かな。
忍足君が一方的な被害者ではないという事も重要な事も分かったしね。
僕が首を突っ込んでいってもいい方向には一度に転がってはくれないだろうね。僕ってほら。他の人から見たら電波だしね。

けどまぁ…、

「目の前でボコボコにされて伸びている人間を助けないほど僕は鬼畜ではないですよ。」

生徒会室から出て僕が他の教室に向かおうと廊下を歩いて階段を上っていたら踊り場のところで忍足君が気を失って倒れていた。
流石の僕でも平和的に階段を上っていてこの風景が目の前に広がったらびっくりするよ。

さっきの今で何があったと言うんだ。僕が生徒会室へお邪魔したのはものの30分程度のはずだ。
まぁ、予想はつくけどね。僕と離れて直ぐに授業をさぼっていた人達に絡まれてリンチにあったのだろう。なんかデジャヴ。
とりあえずは保健室に連れて行くべきだけれど、僕一人で出来るかな?元々非力な僕が多分180p位の忍足君を背負えるのか。それ以前に気絶してる人ってとても重いんだよね。確か。
こういう時友哉の力が欲しいかな。

「よいっしょ。」

あ、案外担げた。
けど重いから。絶対明日全身筋肉痛だからこれ。
しかも階段を下りて保健室まで行かないといけないなんて僕のするべき仕事じゃないよ。


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