俺はお前で、 | ナノ

僕と君は、 第02話
(2/12) 

全てを整理して、全てを理解した僕は、決心した。
僕は死ぬべき人間なんだ。

僕は今、虐められている。
いや、もう虐められていた。過去形にするべきだろう。
僕は虐めに屈したからじゃない。虐めになんか屈する訳がない。こんなもの。ただの人間の汚い面が表立って行動している愚かで卑劣で同じ人間が行っているとは思えない。いや、人間がやって良い事ではない。つまり人間にも劣るなにかが僕にちょっかいを出しているだけなのだから。

だから何が言いたいかと言うと、僕は大石君の優しさにも気が付かなかった愚かな人間だから僕は、死ぬべき人間なんだ。

そうだ。昔話をしよう。
僕は小学校の頃から虐めを受けてきた。その時の原因は僕の幼馴染で親友…って言ったらダメかな?…幼馴染の友哉が原因。
勿論友哉に責任はなかった。ただ、彼の取り巻き立った男女、彼らが幼馴染と言う美味しい立ち位置だった僕に嫉妬して勝手な行動をした。その結果が僕に対する虐め。
でも僕は友哉に言う事はしなかった。言えるわけがない。だって友哉は暴力を揮うだろう。

僕は友哉のすべてが好きだった。憧れだった。
でも一つだけ嫌いだったことがある。それは友哉が暴力を揮う事。
それだけは嫌だった。でも彼は喧嘩が好きだった。それを僕は咎めることが出来ない。だって、友哉の好きなものを僕が取り上げるなんてできない。
だから妥協した。僕の目の前で、友哉に暴力は震わせない。
きっと友哉は僕が虐められていると知ったら容赦なく加害者を殴っただろう。友哉は僕の為なら躊躇しないだろう。
え?幼馴染のよしみでそこまでするはずがないって?…だろうね。普通はしないよ。でも彼は友哉だ。

僕の為なら、彼は、暴力を揮う。

彼だって本当の意味での友達は僕ぐらいしかいないだろうから。
友哉に仲間はいっぱい居る。だけどそれは対等の人間関係じゃない。上下関係だ。そんなもの友達とは言わない。
友達は真正面からぶつかって、ぶつかり合って、それでやっと成立するんだ。
嗚呼、僕はなんて熱く語っているんだろう。恥ずかしい。

え?だったらストッパーである僕が居なくなったら友哉は暴力を余すことなく揮うんじゃないかって?
うん。いいなじゃないかな?さっきも言ったよね。僕の眼の前で、って。僕が死んだら見なくて済むじゃないか。
そうだよ。僕は、友哉を利用して僕を虐めた虫けらに復讐しようとしてるんだよ。
フフ、性格が悪いって?仕方ないでしょう。長い間虐げられてきた人間が真っ当な真っ白な人間でいられるわけがない。
むしろ真っ白なのは友哉の方だ。目の前で起こっていることしか信じない。素敵でまっすぐで、僕の憧れ。
そんな友哉を僕は利用するんだ。なんだか背徳的で素敵だと思わない?

さて、そんな歪んだ僕は歪んだ遺書を書こうじゃないか。
一世一代の大仕事。抜かりはないよ。学校用、家用、そして友哉用。三種類書こうじゃないか。
学校用は客観的事実だけを淡々と。今迄、何月何日何曜日、5W1Hでしっかりと記述しよう。僕がただ単に一方的に暴力を受けるわけない。僕は虐められてきた人間なのだからそれぐらいの対処、遠の昔に知っている。あ、でも大石君の名前は書かないようにしようかな。大石君には迷惑かけたし、教師たちには進言しないでおこう。それくらいは恩返しとしてしなくちゃね。
家用は…そうだな。嘘を織り交ぜよう。本当の事なんて書ける訳ないだろう。「お前らなんて大っ嫌い。離れることが出来て清々するよ」だなんて書ける訳ない。真面目であれ。優秀であれ。秀才であれ。立派であれ。有能であれ。賢くあれ。そんなことばかり押し付けてくる。息なんて出来なかった。長い間虐げられてきたんだ。それぐらいの感情を持っていてもおかしくは無いだろう。
友哉用には…本当の事だけを書きたかったな、けれど。それじゃ計画通りにならない。ゴメンね?友哉。僕は僕の想像以上に歪んでしまっている様だ。そう、助けてほしかった。中学の時でもなく、小学校の時でもなく、出会ったときに僕を助けてほしかった。僕の心がここまで荒んでしまう前に、まだ君の様に純粋で居られた頃に。
こんなもの、僕のただの我儘だ。出会った時に助けてほしかった、なんて…僕はどれだけ心が腐っているのだろう。どれだけ強欲な人間になって友哉を苦しめてしまうのだろう。友哉。ごめんなさい。

書き終わってしまった。
次は最後。死のうじゃないか。
どうやって死んでしまおうか。手軽で、簡単で、人に迷惑をかけない。…嗚呼、ダメだどんな方法でも人には迷惑がかかる。
…まぁいいか。迷惑かけてなんぼだろう。


死ぬ直前まで僕自身の事について話そうか。

僕は社会不適合者だ。
友哉よりも、社会に馴染めていない。
周りからしてみれば僕の方が社会に馴染めているって言うんだろう。十人が十人、口をそろえて言うんだろう。
だけどそれは違う。
友哉は友哉なりに自分で社会を築き上げている。自分が中心の、ルールを持った立派な社会だ。
それを貶す人だっているだろう。きっと僕の母親は貶すだろう。あまつさえ友哉の事を社会不適合者と罵るだろう。残念だったね母さん。本当の社会不適合者はこの僕だ。

僕は人と価値観が全く合わないのだ。同級生とも、年上とも、年下とも。誰ともあわない。
毎回試してはみるんだよ。誰か僕と同じ価値観の人は居ないかなって。でも結果は惨敗だった。話し終わったら皆苦笑してたから。
仕方ないよね。価値観の違う人と話せば話すほどその人の言っていることはすべて電波に聞こえてしまう。友哉だけはキョトンとして「すげぇ事知ってんのな!」って言ってすぐに話をすり替えた。多分僕の言っていることが全くと言っていいほど分からなかったんだろう。友哉は頭良くないから。でもそんな反応でもなんだか嬉しかった。苦笑とか失笑とかそんなのじゃなくて僕の事を凄いって言ってくれたことが嬉しかった。
そんな電波を話している人間と誰が馴染めよう?現代社会、他人と違う事をしていたら叩かれるのが常。
そして今回みたいな虐めにあったら迷わず人に相談するべきだったのだろう。普通は。けれど僕はしなかった。差し伸べられた手も掴まなかった。僕は自らその手を振り払ったんだ。流石に友哉の手を振り払うなんてこと僕はしたくなかったけど、そうしなきゃ物語は思い通りに行かないんだ。
僕は僕の我儘で友哉を苦しめるだろう。けれど苦しんでくれればそれだけ僕は友哉に思われていたという事だよね。僕は我儘だなぁ。僕ってこんなにも我儘な人間だったっけ?うーん。ちょっと分からないや。

あ、話しそれちゃった。まぁ、此処まで言ったら分かるよね。僕は、ここから居なくなるべき人間なんだ。



それでこの僕、社会不適合者は居なくなる。
これで社会の不穏分子は一人居なくなるわけだ。

見てるか?

聞いてるか?

見えてるか?

聞こえているか?



全ての人に、



  さようなら。


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