俺はお前で、 | ナノ

僕と君は、 第10話
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「弱虫?俺様がか?」

「違いますか?人伝でなければ言い分を伝える言葉出来ない。立派な弱虫ですよ。」

「俺様をそう言った風に評価したのはお前が初めてだぜ?
しかし前言撤回をしてもらうぜ。弱虫はテメーだ。」

挑発に乗ってくれたかと思ったのだが、思うようにはいかないな。跡部会長はすぐに平常に戻った。流石は王と言ったところかな。
そして僕を弱虫だと評価した。そうだ。僕は弱虫だ。だからこそ自分を見ているようでいられない忍足君を自分のエゴを含めたやましい気持ちで助けるんだ。

「何故です?」

「俺様が何も調べねぇと思ったのか?俺様にたてついた輩を野放しにすると思ったのか?」

「何が言いたいのですか?」

「俺様はお前の行動力を評価した。だからその時は調べないでやったんだ。だがお前は忍足に回った。俺様を敵に回したな?その時に調べ尽くしてやった。面白れぇなぁ。だが誰にも俺は教えなかったぜ?お前はどうやら隠したがっていたようだからな。そして今だ。俺様を貶したな?そんな奴には罰が必要だよな?」

跡部会長はとても生き生きとした表情で僕を攻め立てた。
忍足君や他の人、それらの目が僕に注がれた。居心地が悪くて仕方がない。
そして次の瞬間目の前が真っ白になった。眩しくて目が開けられない。

「―――――。元青春学園中等部生徒副会長。」

眩しい視界の中、跡部会長が何かを読み上げている。懐かしい役職名を聞いた。
そうか僕は今、僕の過去をみんなに伝えられているのか。
この眩しさも覚えがある。プロジェクターの光だ。つまり僕を含めた醜い画面で映し出している様だ。僕は眩しくて視線を下に向けた。跡部会長の声と紙が擦る音が聞こえる。

「生まれ、育ちも東京。家の近所に住む守本友哉が幼馴染。小学生から虐めを受けていた。原因は守本友哉。中学に上がり虐めは収まった。そして生徒副会長にまで上り詰めた。しかしそこでも虐めが発生。主犯は守本友哉の舎弟。そしてお前は友達に裏切られそれを苦に自殺。自殺をするも未遂に終わり、意識が戻る。現在、編入試験では500点中495点をマークし氷帝学園に在学中。
因みに、だ。受けていた虐めの内容は…―――――――――――。」

嗚呼、懐かしい。そう言えばそんなものを受けてきた。

「ハン…お前、よく生きてんな。」

バサ、と紙が放り投げられる音が聞こえた。
目の前は眩しさと床しか見られない。周りの人の表情なんて見ていない。
言うなら息を吸い込む音が聞こえてくるぐらいである。
きっとさっきヒソヒソと会話をしていた人たちのモノだろう。先ほど僕を散々加害者としてきたのだから。残念、僕は被害者だ。

「自分…そんな……虐めを…。」

忍足君の声が聞こえる。
いつも以上に感情が乗っている。信じられないとでも言いたいのだろうか。それとも君にも同情されてしまったのだろうか。
こんな精神的攻撃痛くもかゆくもない。僕には虐めに対するトラウマなんてない。あるはずない。虐められて当然だったのが僕で、僕は虐められるのが当たり前だったのだから。

「で、それでなんですか?僕は過去にあった出来事を言われても泣きませんよ。怯えませんよ。止めてくれと懇願しませんよ。縋りつきませんよ。みっともない。僕はその程度では取り乱しませんよ。むしろ知られて当たり前だと思っていますし、知らしめるために僕は三枚も遺書を書いたのですから。逆に跡部会長が調べなければこんなに間違った噂が流れて僕としてはお腹を抱えて笑いたいぐらいですよ。」

「しかし調べて分かったぜ。お前の幼馴染は馬鹿なんだな。社会のクズに成り下がって、二度も幼馴染を救えなくて?自暴自棄で大暴れってか。癇癪を起した子供だn――「友哉を悪く言うな!!」

僕は思わず叫んだ。自分の事では一向に声を張る気にもならなかったのだが、友哉を、僕の大切な友哉を貶されて黙ってはいられなかった。僕の憧れを貶されたくなかった。
跡部部長の挑発に乗ってしまった。僕が感情的になってどうする。
頭の中では分かってるが反射的に声が出た。

友哉を悪く言ってんじゃねーよ。

「君に、君に友哉の何が分かるっていうんだ!!」

「化けの皮が剥がれたな。」

「剥がれたよ。僕は友哉を貶されて母親の求める仮面なんて被ってる余裕なんてない!剥がれたついでに言ってやる。この僕を手玉にとったと思うな!勘違いも甚だしい!!
目的が違ってきてない?跡部君。君は忍足君と話し合う為にこの場を設けたんでしょ?だったら相手に心を閉ざされようが飄々とされようが、気に入らない態度をとられようが、そんなの無視して君の考えを言ったらどうだい。
俺様が天才だから、とか誇示して勝ち取ったとか、そんなのどうでもいいんだよ!苦労したね、ハイハイお疲れ様です!君はこんな言葉が欲しかったんじゃないでしょう!君と同じ天才が他人と仲違いしないようにお手本になって道を記してあげてるんだろう!?そんなの分かり辛い!!僕だって君の話を聞いてから考えなければ分からなかった!!君はそんな勝手な思いをヒントも出さず忍足君に押し付けて忍足君が理解してくれないからって言って君は疎外感でも感じたんじゃないの?だから助長でも何でもしたんじゃないの!?君だって孤独な天才だったんだ!!」

「俺様に指図してんじゃねぇよ!!」

「嗚呼!感情的になったね!!僕の言っていることは的外れではないようだね!それだけこの僕に言われて悔しくて声を張り上げたんでしょう?
でも乱暴な口調だね。僕がまるで不利じゃないか。だったら僕だって乱暴に言った方がいいんでしょう、ちょっと友哉を参考にしようかなぁ!!
テメェ等!特にお前だよ忍足侑士!!テメェ自分が言葉足らず過ぎんだよ!!どんだけ恥ずかしい自論だろうがなんだろうが人に言わねぇと意味ねぇだろうが!!黙って、騙されて、守られるみにもなってみろよ!!それで他の奴らが感謝するとでも思ってんのか!?勘違いも甚だしい!馬鹿か!?
よく考えろ!!自分を犠牲にして仲間を助ける!?すげぇ立派な考えだなぁ!僕もするだろうなぁ!!友哉って言う大切な人を守ることが出来るならな!!けどなぁ、何も知らずテメェを嫌ってんのにその嫌いな奴に助けられた仲間のプライドはどうなんだよ!!ぼろ糞になんだろうが!!つーかそれ以上に自己嫌悪する!!忍足!テメェは助けたい仲間を苦しめてぇんだな!?最低な鬼畜野郎だなぁ!!
テメェ等は言葉は足りてねぇ!!人がなんでも理解すると思ってんじゃねーよ!!跡部も忍足も互いに理解されない。互いに相手が腹立つぅ?だから虐める虐められる!?そんな幼稚なことする前に言葉を交わせよ!!赤ちゃんじゃねーんだ!通じる言語を持ってんだ。使えよ!!なんのための言葉だと思ってんだ!!話し合いは大嫌いだけどな、意見の無視はもっと嫌いだ!!」

駄目だ。歯止めが利かなくなってきた。
僕はここから居なくなった方がいいのかもしれない。もうダメだ、初めから最後まで僕は思う様に事を進ますことが出来なかった。
僕は駄目な人間だ。
助けようとしてもこうやって事を転がして、転がして話を掻き乱す。
見て見ろよ。僕を見ている皆の顔を。
目を大きく見開いで軽蔑して、良く考えてみれば虐められっ子の僕が口を出していい問題ではなかったのかもしれない。
忍足君と跡部会長の関係は虐め虐められではない。ただの喧嘩だ。
自分の意見が通らないからと言って互いに睨みを利かしている状態だ。
その間に僕がエゴだとか、なんとか、ヒーローになりたいから、とか、
どちらも弱きものではないのに、何がヒーローだ。ちゃんちゃらおかしいかった。

嗚呼、恥かしい。

「…忍足君。」

「な、なんや?」

「僕はちょっと冷静でいられないから失礼するよ。忍足君、君は君の気持ちをちゃんと伝えてあげて。じゃないと真実を知った時、取り合えしがつかないほど彼らは酷く傷つく。
大切な仲間を守りたいならちゃんと説明して筋を通してやって。僕からのお願いだ。」

「じ、自分は…。」

「そんな目をしないで、僕はちょっと疲れただけだから色んなことを一気に消化しすぎた。
大丈夫。もう自殺なんてしないよ。友哉に会うまでちゃんと生きておかないと。…失礼しました。」

僕は静かに部室から出た。
なんて無責任な行動なんだろう。自分に腹が立つ。
けれど、あの場に居たら乱すだけ。
それに僕がそれぞれの考えを部分的に言ってしまったのだ。互いが気になって問い詰めるだろう。
それから意見の交換をしてくれるだろう。彼らはちゃんとした話し合いをしてくれるだろう。
馬鹿ではないのだから。

だけど、罪悪感は残るかな。
誰にも伝わらないけれど謝っておこう。


「ごめんなさい。」


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