俺はお前で、 | ナノ

僕と君は、 第09話
(9/12) 

「…よう、遅かったじゃねーの。お二人さんよ。」

僕は昨日と同じように項垂れた。けれど人が居るのでばれないように目を伏せるだけにした。
僕達は昨日宣言した通り早めに部室へ訪れた。具体的に言えば最後の時間のチャイムが鳴った瞬間教室を出て部室に向かった位には。
しかしそこには既にテニス部レギュラー、僕の後ろに居る忍足君以外が揃っているようだった。計画が台無しだ。

「…皆さん全員お集まりの様で。いったい何時からここに居たのですか?」

「最終授業が始まってからだ。こいつらのクラスの授業を自習にしたからな。
で、遅れてきたお二人さんは詫びはねぇのか?」

「あるはずないでしょう。貴方は放課後と指定しました。何時何分、それは指定されていませんでしたし、僕たちのクラスは自習ではありませんでした。早く来るなんて不可能でした。学生の本分である学業を疎かにするな、と母に言われていますので。」

「ハッ、言うねぇ。まぁ良い。座れよ。」

「あぁ…せやな。」

僕達は入り口から中へ入ってくるように促され忍足君はいつも部活で使っているであろう椅子に座った。僕の椅子は無いようだから奥の壁際で立っておくことにした。
これから話し合いが始まる訳だが、僕は傍観に徹しようと思う。既に出鼻を挫かれた身としては相手の出方を見て見たい。忍足君には悪いけれど、一人で進んでいってもらおうと思う。まぁ、そもそもが忍足君の更生が目的でもあるから主に一人で頑張ってほしいね。

しかし僕の対して一体どんな噂を流されているのか、さっきから跡部会長と忍足君以外の視線はこちらに刺さってくる。ヒソヒソと話をし始め正直いい気分ではない。

「おい岳人あいつだぜ?青学から来た転入生。」「へー俺初めて見た。ぱっとしねぇなぁ。」「だろ?あいつ転入早々忍足なんかと関わって、頭いってんじゃね?」「違う違う。この学校で人助けをしたゆーめーじんになりたかったんだって。」「ぶはっ岳人冗談言うなって、不覚にも笑っちまったじゃねーか。有名人ってあいつもう有名人じゃんか。別の意味で。」「確かにそうだよな。」「ねー、二人ともあの噂知ってるー?」「なんだよジロー。」「あのねー。青学って何か事件あったでしょ?ちょっと前の。」「あぁ、あったな虐め、だっけ?」「ああ、虐められた生徒は自殺したって話の奴?」「そーそーしかも俺らと同級生で結構驚いたよねー。でさ俺思ったんだけどあいつ加害者じゃね?」「は?あんなもっさいやつが?」「うん、なんか俺も噂でしか聞いてないんだけど自殺に直接関わった生徒は退学になったらしくて、で、一番凶暴だった奴がどっかの学校に転校したらしいC。」「なんで一番危険な奴が退学処分じゃねーんだよ。」「それは知らないC。俺だって噂でしか聞いてないもん。だから転校で来たんじゃないかなーって思って。」「だったら自殺した生徒可哀想じゃね?こんなやつに虐められてたなんて。でのうのうとこの学園で過ごしてるとか。」「それで人助けて株をあげようって思ったんじゃね?」「馬鹿だよねー。軽蔑するC。ヒトゴロシは埋もれていけよ。」「ジローそれ酷くね?」「なにいい子ぶっちゃってんのーキモイC。そんな正義感あいつにあげれば?って言うかその笑いを我慢するの止めよーね。ブッサイクだよ。」

あぁ、そうですか。勝手に言ってろ。気分が悪い。噂話とはここまであてにならないものなのか。真実がねじ曲がってまったく別の何かになっている。僕は学んだな。この先一切噂話は信じない。

次に僕は忍足君と跡部会長の会話に耳を傾けた。

「さて、忍足。話そうじゃねーの。」

「さぁ、何を話そうか景ちゃん?」

「胸糞わりー呼び方してんじゃねーぞ。」

「そら悪いことしてもうたなぁ、堪忍な。」

忍足君は既に心を閉ざしかけている。相手を躍らせてその隙に自分だけの世界を作り出そうとしている。なんて鮮やかな手法だ。それに跡部会長は気づいたのか眉間にしわが寄った。

「…でだ、お前は今の環境に満足か?
お前が一言、止めてくれって言えば明日からでもお前の周りは元通りだ。」

「めっちゃ満足しとるでぇ?ここはユートピアや言いたいぐらいや。
それに…自分に頼ったらその時点で俺は自分に恩義を感じて過ごさんとあかんやん。息が詰まるわ。」

「ああ、何度も聞いた返答をまたしてくれたな。お前、Mか?」

「かもしれへんな。」

「お前はそいつを巻き込んで何がしたいんだ?」

「俺はこいつを巻き込んだ覚えはないで?強いて言うならこいつが自分から俺に巻き込まれてきたんや。」

「おいお前、俺は楽しく学校生活を送れるように餞別のつもりで忠告してやったんだがなぁ。」

「跡部会長。お言葉ですが僕はあの時言っています。僕は楽しい学園生活とは無縁です、と。」

「ハン、確かにそうだったな。」

「跡部会長は恩着せがましい事を忍足君にしていますが、意図はなんですか?」

「そんなもの必要か?俺は生徒会長として公平に平等に救われるよう声をかけているだけだか?」

「あぁ、そうでしたね。貴方は私情を挟み公務を行っていますものね。」

「それは嫌味か?」

「いえ、違いますけど。」

何と言うか、こうと言うか。この二人は見栄を張りあって重要なことを言っていない。言葉足らず舌足らず。すれ違いの繰り返し。
僕は両方から意見を聞いた。二人とも相手を嫌っていないのに、互いにいがみ合って何が楽しいのだろうと今の僕は思う。

「忍足、俺はお前のその飄々とした態度が気に入らねぇ。」

「知っとる。何遍も聞いた。それで俺はいつもこう答えとるな。自分に関係あらへん。どうせ理解してくれへんのやろって。」

「お前が心閉ざしてんのにどうやって理解すればいいんだろうなぁ?」

「さぁ?」

「話しに何ねぇな。おい。」

「はい、なんですか?」

「お前、こいつに言ってねぇのか。」

跡部会長は忍足君と会話することを放棄して僕に話しかけてきた。
確かにらちの開かない話し合いだったからね。忍足君が本当に心を閉ざすとは考えたくなかったけど、こう言った場合の対処考えてきてよかった。
忍足君の思いを跡部会長たちに吐かせる前に先に跡部会長の言葉を忍足君に伝えてもらおう。そうすれば忍足君も動揺して心を開いてくれると思うし。
と言う訳で手っ取り早く挑発してのってもらいましょうか。

「言ってませんよ。それは跡部会長の言葉で言って意味を成すんですよ。人伝の言葉なんて意味がないですよ。
それともなんですか。僕に言ってほしいのですか?跡部会長は弱虫ですね。」


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