俺はお前で、 | ナノ

僕と君は、 第08話
(8/12) 

「やられました…。」

「そんな落胆するほどの事かいな。」

僕は項垂れた。とてもわかりやすく。
深い深いため息をついてしまいたいくらい。いや、無意識のうちについてしまったかもしれない。
どうして僕がこんなにも落胆しているかと言うと先手を打たれてしまったからだ。
僕が時間を、場所を指定して有利な環境を作っておきたかったのに、やられた。跡部会長がしてして来た時間は明日の放課後。場所は氷帝学園テニス部レギュラー部室。

「落胆するほどの事なんですよ。いいですか、環境を支配することは大切なんですよ。
例え話です。インテリ組vsスポーツマン組でクイズ大会を行った場合普通の早押し問題だとどちらが勝ちますか?」

「そりゃインテリ組やろ。」

「ですが、その早押しのボタンが地上5mなどの場所にありロッククライミングをしなければボタンを押す事すら出来ない状況だとどちらが有利ですか?」

「んー…スポーツマン組や……あ。」

「つまりそう言う事です。僕達をスポーツマン組だと考えるとより鮮明ですよね。相手の土俵だと勝てないのですよ。こっちに有利な条件にしてやっと有利。勝ちではないですよ。不利なんです。これで僕が落胆していた理由を分かってくれましたか?」

「……理解したわ…。」

「…フゥ…僕としては視聴覚教室や理科室など彼らに縁のないところに呼び出して対等になっておきたかったのですが…詰みましたね。
しかし手はない事も無いです。僕達が彼らよりも早く部室に行けばいい話です。先に部室を陣取って僕達色に染め上げてしまいましょうか。」

しかしどうやったら僕色に染めることが出来るだろう。
ノリで言ってはみたものの…物の場所を僕の好きな位置に移動させればいいのだろうか。

「まぁ…自分のしたいようにすればええやん。俺はテニス部部室っちゅーても俺にとっても部室やもん。」

「そうでしたね。僕だけでした部外者は。うっかりしていました。
しかし忍足君。今の貴方はとても穏やかですが。何を思っているのですか?明日、貴方は貴方を助けてくれないお仲間と対決するのですよ?」

「別段どうも思わへんよ。やって今までも普通に部活してこれとったし、あれ等から殴る蹴るは受けとらんし、強いて言うならシカト位な可愛いもんやし。
今の会社みたいなもんやろ。出社して帰社したらもう他人やろ。嫌な奴と同じ部署になっても会社の為にちゅーて適度に付き合うやろ。そういうもんや。それに出る杭は打たれる言うて、杭は杭らしく打たれんとおえんのや。やから俺は黙って打たれるんや。」

確かに忍足君の言う事は合理的だ。
僕も同じことを考えているのでぐうの音も出ない。

「…貴方の言う事は分ります。
しかし、それならば跡部会長も出る杭のはずです。彼は貴方と同じ様に…出ている存在です。」

「せやなー。やけど考えてみ?出過ぎた杭はどうなる?叩くより先に抜いてしまった方が早いやろ。」

「つまり跡部会長は別格だといいたいのですね?」

「正解や。」

「なら貴方もそうなればいい。貴方もそうなればいいのに。それを望めば貴方も別格になれるはずでしょう。」

「俺はいっぺん叩かれとる身ぃや。俺は打たれてそこで曲がったんや。抜けんくなってしもうた。
俺が始めから跡部みたいにすればよかったんやけど、俺は目立つことは嫌や。陰に隠れてほそぼそやっていくはずやったんやけど、人生上手くいかんなぁ。」

「貴方はそのことを跡部会長達に一言でも言いましたか?」

「いんや、言っとるはずないやん。こんなこっ恥ずかし事。
仮に言うたとしてどうなるん?俺が元の関係に戻ったとする。俺は抜けることが出来た存在やとする。そしたらどや?これで終りか?ちゃうわな。終わるわけないわな。
テニス部レギュラーは才能に恵まれとるんや。俺を妬ましい鬱陶しい煩わしい苛立たしい疎ましいそう思って俺を暴行してきた奴が次に狙う天才は誰や?他でもないテニス部の仲間や。
そう言う事もあって俺は言わん。メリットが見出せん。俺は心を閉ざせばいくらでも耐えれる。あれ等にそう言う便利なもんないもんな。」

確かにこれは人に言うのは恥ずかしい言い分だ。
でもその分、とても素敵な事だと思う。こんなにも仲間を思って自分は耐えれているから平気だなんていう人立派で素敵で憧れられるべき人間だと思う。僕は少なくともこの考え方を持つ忍足君は素敵だと思う。
けれどこの考えは他人に広まって忍足君はこの様な素敵な人格者であることを知らしめるべきだと僕は考える。目立つことは嫌いだとしても共有の秘密だと言って仲間には伝えるべきではないか。

「…不条理だ。こんなにも優しい忍足君がこう言った目に遇うことが、僕は信じられない。」

「この世の中不条理でまわっとる。そう言うもんや。」

「明日、この事を彼らに言うつもりは?」

「毛頭ないわ。」

「…そうですか。」

「それよりもや。」

「なんでしょう?」

「俺も分からんことがあるんや。答えてくれるか?」

「僕で答えられる範囲であるのならば。」

「自分は何の目的で俺に近づいたんや。
あれから考えてみたわ。自分のエゴ、俺に似とる価値観、それを元に色々考えさせてもろうたわ。けど全くわからん。自分が言うたエゴだからっちゅー理由嘘やろ。」

「半分正解、半分外れです。鋭いですね流石忍足君。
僕のエゴでもあり、エゴでない部分もあります。それは認めましょう。」

忍足君は人と関わるときは自分の事を悟られないようにするくせに人の事はサトリの様に理解してくる。
僕の中身を知られるのも時間の問題かもしれない。嬉しい事なのか、悲しい事なのか。とりあえずこんなに僕の事について考えようとしてくれる人は貴重だ。

「やったらなんや?金か、地位か、名声か、」

「全部外れです。
残念でした。答えを教えろと言われたら僕は全力で逃げます。それこそこんなこっ恥ずかしい事、誰にも言いませんよ。」

「なんや、自分俺の恥ずかしい事聞いといて自分は言わんのか。」

「忍足君が語り始めたことでしょう。僕は無実です。」

「自分…よう分らんわ。」

「分ろうとしてはダメですよ。僕の様な腐った蜜柑の存在の事なんて理解するだけ無駄ですから。」

「嗚呼、分らん自分はなんなん。」

「なりそこなった人間ですよ。」

友哉の様な真っ直ぐな人間に。


[ 86/97 ]

[*prev] [next#]
[mokuji]

mark
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -