今日の夕食は、野兎の肉と野菜のスープに決まった。
彼女はあまり肉の類いを口にしたがらないが、少しは食べてもらわなければ身体が弱ってしまう。
そろそろ彼女の待つ小屋へ戻ろうかと、脚を動かした直後にかすかな葉擦れの音が耳に届いた。
次いで聞こえた金属的な音に、考えるより先に飛びすさる。
派手な音を立てて飛んできたなにかが、自身のいた場所をかすめた。
「――チッ、逃げやがって」
「おい跡部、先走んなや」
草陰から姿を現したのは、猟銃を携えた数人の男たちだった。
まさかこんな森の奥地にまで狩りをしに来るとは、素直に驚く。
しかし、どうやら男たちはただ狩りをしに、ここまで踏み込んできたわけではないらしい。
「ふん……その黒い毛、間違いないな」
リーダー格とおぼしき男が、一歩進み出る。
「おい、テメェ人狼だろう」
初めから、男たちの狙いは人狼である己だったようだ。
「人狼のくせに、なぜ人を襲った」
狼の姿になると、人狼はただの狼と比べひと回り以上も大きさに差異があるが、だからといって人間を捕食対象にすることはない。
腕を伸ばした男は、自身の後方を指さす。
「この先に住むばあさんと――その孫娘を、なぜ殺した」
――誰が、誰を殺した?
孫娘? 彼女のことを言っているのか?
この爪で彼女の柔肌を切り裂き、この牙で彼女の柔肉を食い破ったとでも言うのか?
――笑わせてくれる。
「おい、聞こえてんだろ。答えろっ」
なぜ――それはこちらが訊きたい。
なぜ、己が花嫁を殺さなければならないのか。
……そういえば、彼女もそんなことを言っていた。
殺すなら殺せと。
そんなこと、できるわけがない。
欲しくて、欲しくて欲しくて、ようやく手に入れたのだ。
彼女さえいれば他になにもいらない。
ああ、早く彼女のもとへ戻らなければ。
「っ、あ……」
がさりと、離れた場所で草が鳴った。
先ほどの銃声を聞き、彼女の方がこちらへ来てしまったようだ。
対峙する形になる男たちを見留め、彼女は目を見開いた。
「えっ?」
「お前……生きてたのか……」
彼女の足が、後ろへと下がった。
現場に残った体毛と、世話役の目撃証言がホシの決め手。
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