矛盾しない

「カタクリ様って本当にすてき!強くって逞しくって凛々しくってまさに完璧!」
「おーおー、そうかよ」

確かにカタクリは強いし女に人気もあるが、それは俺の膝の上でする話なのか?
適当な返事に気を掛けるでもなく、ミョウジ・ナマエは延々とカタクリを褒めちぎっている。近い将来シャーロット家と婚約することが決まっている、ミョウジ王国のお姫様だ。最も、本人はそんな気品などこれっぽっちも持っちゃいないが。ママとミョウジ国王が契約をして、ナマエは万国でその身を預かられていた。その実は人質と変わらないのに本人は暢気なもんだ。能天気と言った方がいいかもしれない。ささやかな譲歩として、兄弟の中から結婚相手を選ぶ権利は多少与えられているらしいから、コイツはきっとカタクリを指名するのだろう。ママは許可しないかもしれないが。そうなればモンドールあたりで妥協するだろうか、ナマエはチーズケーキが一番好きだからな。カタクリじゃなかったら全員同じ、くらいのことは思っていそうだ。

「ダイフク様、聞いてらっしゃる?」
「あ?聞いてる聞いてる」
「そう?やっぱりカタクリ様はね─────…」

カタクリが優れた男だというのは認めるし、兄弟として誇りに思ってもいるが、それを聞かされ続けるのは些か不愉快なものだ。自分だって戦えば弱くはない。同じ血を分けた兄弟なのだから、なんとなく自分の方だけ否定されているような気分になる。こんなふうに思うのは初めてだが、これだけカタクリの話を続ける女というのが初めてだからそのせいだろう。お前が思っているような完璧な男じゃないぞ、と言ってやりたいがそれはカタクリの矜持のために黙っておく。立場を利用して俺からカタクリの話を引き出そうとしないところは評価できる女だが、それでも苛々することに変わりはない。大体、俺が聞いてるかどうかは関係ないんじゃねェか。わざわざ確認してくるな。ああ、むかつく。

「お前、なんたって俺の前でカタクリを褒めるんだ、本人に伝えてやりゃいいだろ」
「え?恐れ多いわ、ふふふ」
「じゃあ他の女のところに行け。フランペあたりが喜んで相手するだろうさ」
「そんなこと言わずに聞いてくださいな、もうしばらくしたら言えなくなるんですもの」
「ハァ?」

クスクス笑ってカタクリ賛歌を再開したナマエの、言葉の意味を理解するのは、その晩ママに呼び出された後のこと。




「結婚したら、夫以外の男性を褒めるなんてできなくなるもの」
「お前…そんなことちっとも言ってなかっただろうが」
「あら、ダイフク様ったらわたしのことどんな男の膝にも座る阿婆擦れだと思っていらしたの?それじゃあダイフク様はどんな女でも膝にお乗せになるのかしら」
「…は…ああ?お前そんなわけ…ああ?」
「ダイフク様の妬いてる顔も見納めだと思うと寂しいわ」
「………ナマエ、お前思ってたより性格悪いなァ」
「国ではいい性格してるって言われてたのですけれど」
「同じ意味じゃねェか」



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