ST!×1.5 | ナノ
「ホント、びっくりするほどリア充だよ。でも、どう見てもテンパってるの女の子だけだよね。もしかすると、恋人じゃなくてあの子の片思い?」
「やっぱり狩沢さんにもそう見えます? なんというか、肝心な反応を見逃しまくってるっすよねえあの人。これじゃ建設フラグも根元からぽっきりっすよ」
「フラグクラッシャー、イマジンブレイカー的な?」
「『片想殺し』と書いて『フラグクラッシャー』っすねわかります」
「いいから黙って食えよお前ら」
園内にあるフードコートにて、周囲を憚ることなく考察を論じ合っている狩沢と遊馬崎、そのお目付け役である門田は昼食をとっている最中だった。
そしてその視線の先では、大量の食べ物を前にどう考えても困っている名も知れない女と、それを見て何事か話している静雄がいた。
それなりに至近距離で様子を見守っている(?)三人だが、当の本人、特に顔見知りである静雄ですらまったくそれに気づいていない。
――すぐにバレると思ったんだがな……。
さすがにバレたともなれば狩沢たちも諦めるだろうと思っていたのだが、どうにもバレる気配がない。
このまま最後まで付き合う羽目になるのではないかと、なんともいえない予測が胸中をよぎった。
「それにしても、あの子何者なんだろうね? シズちゃんなんて、こんなデートに漕ぎつけるのも大変でしょ。なんてったって池袋の『喧嘩人形』だし」
「まあ、一般人は基本的に近寄ることなかれな存在っすからねー。それはそれで、ボーイミーツガールの鉄板じゃないっすか? 危険とわかりながらも心惹かれる、メインヒロインのある種王道っすよ」
「そんなヒロインの猛アプローチにも気づかない主人公、ねえ。確かに王道かも。でもやっぱりさあ、『いやそろそろ気づこうよ』ってなっちゃうんだよねーそういう主人公って」
「恋愛ものの面白さなんて、両想いが成立するまでが九割っすよ。エンタメ追及するとなると、片思い期間はどうしても長くなるもんっす」
「それ言いだしたら元も子もないよーって、あれ? いつの間にかいなくなってない? あの二人」
脱線に脱線を重ねるのが定石である会話を繰り広げている間に、静雄たちは席を外してしまっていた。
門田はとうに気づいていたが、なにも狩沢や遊馬崎にわざわざ教えるものでもないと黙って見過ごしていた。
「ちょっとドタチン! 気づいてたなら教えてよ!」
そしてそんな門田に気付いたらしい狩沢は、慌てて席を立つ。
「早く追いつかないと見失っちゃうじゃん!」
「正気か?」
あくまで諦めないその執着心はどこからやって来るのかと、思わず声を上げる。
すると狩沢は「だって、ねー」と遊馬崎に視線を向けた。
「ここまで来れば、最後まで見守るのは読者の務めっすからねー」
「そういうこと」
「もう放っておいてやれよ……」
そんな門田の言葉に構わず、すでに席を離れ始めている二人だった。
♀♂
食べすぎました、ええ。
咄嗟の出来事とはいえ、すべてを空腹のせいだと言ってしまったのは完全に間違いだった。
平和島さんが気にかけてくれたことは嬉しかったけれど、まさかあそこまで大量の昼食をご馳走になるとは思っていなかったのだ。
どうにか食べ切りはしたものの、この状態で激しい乗り物に乗るのは自殺行為。自分のペースで歩けるような、そんなアトラクションが理想的だろうか。
「次はどこに行きましょう」
歩きながらマップを広げると、すぐ近くに良いものを発見する。
「これなんてどうですか」
「『恐怖!地獄病棟巡り目指せ仲間と共に商品ゲット』? わけわかんねえ名前だな」
平和島さんの言葉通り、確かに要素を盛りすぎている気もする。
まあ、内容は連想しやすいけれど。
「お化け屋敷と迷路を合体させたようなものみたいですね。似たようなものを、テレビで見たことがある気がします」
「ああ、ゴールまで一時間かかるっつーやつか? それなら俺も聞いたことあるわ」
「それです、それ。これは目安三十分だそうですけど」
三十分でも、お化け屋敷にしては十分に長すぎる。
けれど、腹ごなしの運動には最適かもしれない。
「じゃあ、行きましょう」
♀♂
「ホラー系きたー!」
「遊園地デートの定番イベントトップ3っすね!」
広い園内だというのに静雄たちを見つけることに成功した狩沢や遊馬崎は、いかにもおどろおどろしい外装の建物へ向かう二人を輝いた瞳で眺めていた。
「これはさすがに、いろいろ間近で反応見たいね!」
「ド定番を突き進むにしても、一見の価値ありっすよ! 果たしてフラグ建設なるか!?」
「……まさか、入るなんて言わねえだろうな?」
「入るに決まってるじゃん!」
というわけで、否応なしに尾行再開。
(……リア充?)
ならどんなに良かったか。
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