ST!×1.5 | ナノ



 一瞬とはいえ平和島さんの手を握ってしまったのですけど、一体この熱はどこへ持っていけば良いのでしょうか。
 というわけで、水分補給。帽子をきちんと被り、体内の熱によって倒れることがないよう、自分でできることをした。
 これが折原さんなら私は……いや、そもそも折原さんとこういう状況になったことはなかったか。まあ、ここまでの反応は絶対にしないだろうけれど。

 そうハンカチでパタパタを顔をあおいでいると、隣を歩いている平和島さんが「あっついな……」と独り言のように零すのが聞こえた。


「確かに、今日もすごく暑いですね」


 帽子の縁を少し上げて見上げると、僅かに眉間へしわを寄せた平和島さんが。
 さすがに暑さでキレてしまう、なんてことはないと思うのだけれど、気休め程度にハンカチで風を送る。

 そんなことをしている間に、どこかから水しぶきと歓声のようなものが聞こえた。
 なんだろうと視線を向けると、どうやら最後に水辺へ降下する類のアトラクションが見えた。
 通路である柵の外にまで水しぶきが飛び、前方へ乗っていた人たちはびしょ濡れになっている。

 少しばかり落下要素もあるようだが、これは楽しいかもしれない。ついでに涼めてとてもお得。


「平和島さん」
「あ?」
「今日の服は、濡れても大丈夫なものですか」


 そう尋ねると、その人は「大丈夫っちゃあ、大丈夫だけどよ」と首を傾げる。


「雨でも降んのか?」 
「今日は一日快晴だそうです。天気じゃなくて、あれに乗っても大丈夫かなと」


 例のアトラクションを指差しながらそう言うと、合点がいったように「ああ」と平和島さんは言った。


「俺は構わねえけど、お前の方こそ大丈夫かよ」
「タオルは持ってきてますし、服も乾きやすいものなので大丈夫です」
「そんなら、乗るか」
「はい」 



 ♀♂



 ユウキが行くままに任せた結果、彼女は見事に最前列へと乗り込んだ。
 身に着けているものが弟である幽からもらった服というわけでもなく、何か濡れて困るようなものも今日の静雄は持ち合わせていない。
 自分自身はいくらでも濡れて構わなかったが、薄い生地の服を着ているユウキは本当に大丈夫なのかと内心思っていた。

 そして案の定、最後の急降下の先で全身ずぶ濡れになるほどの水しぶきが飛んできた。


「ここまでびしょびしょになるなんて、思ってませんでした」


 髪からも水を滴らせているユウキは、ベンチに腰掛けるや否やショルダーバッグからタオルを取り出す。
 そうして隣に腰かけた静雄へと、それを差し出した。


「どうぞ」


 びしょびしょだと言いながらも、どことなく彼女は楽しげだ。
 水に濡れて降りてきた髪をかき上げながら「いや」と静雄は答える。


「お前の方が、乾かした方が良いだろ。髪とか」
「もう一枚ありますから、大丈夫ですよ」


 ほら、とバッグからタオルを取り出しながら、自分の頭にそれをかける。


「……準備いいな」 


 サンキュ、と礼を零しながら、少しばかり表情を緩ませる。
 その瞬間に目を見開け、水も蒸発するほど顔を赤くしたユウキだったが、当の静雄は受け取ったタオルに視線を注いでいた。


「……今日、暑いので、何があるか、わからなかった、ので」


 しおしおと膝に置いた帽子に視線を向けつつ、ユウキは顔をタオルに埋める。


「確かに、わかんねえもんだな」
「もんです」
「そういや、そろそろ昼時か。混む前に、早めに食いに行った方が――」 


 髪を拭いながら視線を向けた先で、静雄はようやくユウキがタオルに突っ伏していることに気付いた。
 
 ――やっぱ、体調悪いんじゃねえのか? こいつ。

 そう考え、すぐさま「おい」と声をかける。


「なんですか」


 くぐもった声の主は、顔を上げることなくそう返事をした。
 しかし、顔が見えないことには、どうにも判断が付かない。


「顔上げてこっち見ろ」
「……な」


 息の詰まったような声を上げたユウキに、ますますもって静雄の目つきが険しくなる。


「ど、どうして、ですか」
「たまに呆けたり、顔突っ伏したりしてんだろ。気分悪いならさっさと言え」


 そう言うや否や彼女の手にしているタオルを手にすると、力が抜けていたのか、すんなりとそれを奪うことに成功する。


「やっぱ顔赤けえじゃねえか」
「!?」


 耳まで赤いユウキは、驚いたように目を丸め、ぱくぱくと口の開閉を繰り返した。
 

「昨日からだろそれ。熱でもあんのか?」
「――――っ」


 そうして頭に手を伸ばした瞬間、彼女は凄まじい速さでその場を飛び退いた。
 

「こ、これは、その、お腹がっ」
「あ? 腹痛?」
「じゃなくて、お腹が空いて力が出ないだけなんですっ」
「……は?」 


 思わず首を捻る静雄に対し、ユウキは「そう、それだけ、それだけ」と何度も呟きながら目を白黒させていた。
 そうして静雄が次の言葉を言う前に、彼女は静雄の手首を両手で掴む。


「だ、だから、早くお昼を食べに行きましょうっ」


 混んじゃいますから! 

 そう言葉を繋いで、静雄を引っ張るように手を引いた。
 対する静雄はと言えば、その有無を言わせない語調へ「お、う」とされるがまま立ち上がった。



 (「もう!」)



 これはこれでバランス的


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