ST!×1.5 | ナノ
平日とはいえ夏休み。到着したその遊園地には、おそらく学生だろう若者が溢れかえっていた。
男女のカップルに交合グループ、女の子だけ、男の子だけの集団もあれば、二人きりで楽しそうに歩く女の子も見かけた。
それに少しだけ目を伏せて、すぐに視線を上げる。なにも落ち込むためにきたわけではないのだからと、自分に言い聞かせた。
「お休みの日じゃなくて、よかったかもしれませんね。平日でもこんなに人がいるなんて」
「だな」
頷く平和島さんの隣で、入場する時にもらったマップを広げる。
昨日きちんと調べておけばよかったのだが、どうにも忘れてしまっていた。一体どこに何があるのだろう。
「平和島さんは、絶叫系とかホラー系とか、好きなタイプですか」
思っていたよりアトラクションの数が多く、マップを眺めながらそう尋ねる。
「こういうとこ来んの自体久しぶりだからな……どうだったっけか。まあ、苦手ってわけじゃねえと思う」
お前は?
そう聞かれたので、そうだなあとアトラクション名を見ながら考えた。
「落下系は、苦手ですね。ホラーは大丈夫なんですけど」
「そんなら、この辺はやめとくか」
そう言って絶叫系が集まっているエリアを指差す平和島さん。
こういうものが好きな人だったら申し訳ないけれど、どうやらそういうわけでもないらしい。
そのことに安堵しながら「そうしてもらえると」と言いつつ、視線を上げた。
上げてみたら、とても近い距離に平和島さんの顔があって心臓が飛び上がったような感触がした。
ああ、でも、そう、ですよね。身長差半端ないですもんね、近づかないと、何かいてるのか、わかりませんもんね。
ドキドキというよりドドドドと鳴る心音を感じていると、「なんだ?」と不思議そうに首を傾げられる。
「な、なんでも、ありません……ありません」
「気分悪いなら言えよ?」
「大丈夫です……」
絶対にこういうことになると思って、水分は余分に持ち歩いている。頭が茹って熱中症、なんてことにはらないと信じたい。
今日で、私は、平和島さんに耐性をつけるっ。
「まずは、どこに行きましょうか」
そう意気込んで尋ねると、平和島さんは「そうだな」と少し考える様な間をいて。
「お前の好きなもんから」
そう言った。
「え、いいんですか」
「? 当たり前だろ」
そう言葉の通り、当然という表情で頷く。
そういえば、今日は一応『お詫び』のお出かけなんだっけ。だから平和島さんにとっては、当たり前なのかもしれない。
では、ここはお言葉に甘えて。
「私、これに乗りたいです」
♀♂
同時刻
「遊園地、遊園地だって!」
「これはもう決まりっすね!」
なぜかはしゃいでいる狩沢と遊馬崎を見ながら、門田は結局ここまで来てしまったことに深々とため息をついた。
遊園地など滅多に来る場所ではないが、まさかこんな理由で来てしまうことになるとは思ってもいなかった。
さっさと二人を連れ帰るつもりだったというのに、狩沢から謎の力強い説得を受け、最終的には入場まで果たしている。
自分は一体なにをやっているのかと、頭を押さえたくなっていた。
「それにしても、よく見ると可愛い子だねー。高校生かな?」
「それってどうなんすかねえ。個人的に女子高生はロリコン対象外だと思うんすけど」
「まー、ロリじゃないでしょ。でも、三次元でのお付き合いはちょっとヤバめ?」
「いや、大丈夫っすよきっと。相手が女子高生でもイケメンなら許される、それが世間の風潮っすから」
「ただしイケメンに限る! ってことね。まあ、絵的に仕方ないか。ドタチンはどう思う?」
「どうも思うか」
「そりゃ、ドタチンは男前だからねー」
そう冗談めいた口調で続ける狩沢に対し、門田はただ呆れた表情を浮かべた。
かと思えば遊馬崎が「なんか並び始めたっすよ!」と声を上げる。
「どれどれ一個目はーっと……!」
「コーヒーカップとは、なかなか絶妙なところをついて来るっすねー」
♀♂
「いっぱい、回していいですか」
そう控えめながらも瞳をきらめかせて言うユウキに、静雄は「構わねえけど」と返事をした。
どこか幼いその雰囲気へ、静雄は妙に安心する。具体的にどうとは説明できないのだが、ユウキは時折、心ここに在らずという調子で呆けるのだ。
本当は来たくなかったのだろうかとも考えたが、どうやらそれは違っているらしい。
そうして安心する反面(嫌々では詫びの意味がない)、本当に体調は大丈夫なのかと気になった。
そんなことを考えている間に、周囲から賑やかな音楽が鳴り始める。
動き出したカップへユウキは心なし嬉しそうに、中央のハンドルを握った。
普段は物静かなだけに、こういう仕草がやけに子どもっぽく見える。
「そういや」
そこでふと、昨日先輩であるトムから言われた言葉を思い出した。
「お前、年いくつなんだ?」
「今年で二十歳です」
「…………おう」
――十代じゃなかったのか。
そう驚いていたのも束の間、ユウキが「いきます」と宣言した。
数分後。
「いいですね、回転系。目が回って楽しい」
そう身体をぐらつかせながら、停止したカップの中を立ち上がった。
目が回って楽しい、という感覚は静雄にはよくわからないが、楽しかったならいいかと自分も立ち上がる。
そうして先にカップから降り、本当に目が回っているのか足元がふらついているユウキへ手を差し出した。
「え」
するとユウキは、ぎしりと固まる。
「目ぇ回ってんだろ。転ぶぞ」
「……ああ、そういう」
そう何度も頷いて、「ありがとう、ございます」と言いながらそろりと静雄の手をとった。
その瞬間に頬を紅潮させたユウキだったが、静雄は彼女が足を踏み外さないかということに目を向けていたため、気づくことはなかった。
♀♂
「なにあれ王子? 王子的な? シズちゃんなかなかわかってるー!」
「なるほど、これは確かにコーヒーカップならではのイベントっすね」
「……お前ら、楽しいか?」
「割と!」
「それなりに」
「そうかよ」
(クルクル目が回る)
ついでに頭もクルクルと
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