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 雑務といっても、本当に家事ばかりしていた。
 朝は朝食の用意と後片付け、掃除と昨日の晩からのお風呂の水を捨てて軽くそれも掃除、少し早いけど昼食でも作ろうかなと野菜を切ったりしたところで。


「折原さん、何か仕事ありませんか」


 することがなくなった。
 もともと部屋はあまり汚れていなかったし、掃除のやり甲斐もなかった。
 やるべきことは自分で探せとよく言うが、食材の買い出しにでも行かない限り、そのやるべきことは見つかりそうもない。
 ちなみに、外出するときは折原さんから許可をもらうことを朝食の時に義務付けられた。
 まあ、新宿にはあまり詳しくないから、ひとりでどこかへ行こうなんてしばらくは無理なんだけど。

 パソコンのディスプレイを眺めていた折原さんは、いつもの笑みを浮かべ顔をこちらに向けた。


「やることがないときは自由にしてくれていいよ。テレビを見てもいいし、本を読んでいても、自室にいってくれてもいい」
「それじゃ、仕事にならないじゃないですか」
「あくまで、ここにいるのは仕事だからって感じだねぇ」
「仕事です」


 当然です。それ以外の事情なんて、持ち合わせていませんとも。
 そうきっぱり言うと、折原さんが苦笑いを浮かべた。 

 ……いや、だから。


「……だから、折原さんが仕事をしているのにくつろいでるのは、どうかなと」


 一定感情でそう言い、私は視線を落とした。
 誰かが働いている傍で自分が何もしないという状況が、私には耐えられない。   

 そうしばらく沈黙を挟んで、折原さんが「別に」と口を開いた。


「これ、仕事じゃないよ」


 どこか可笑しそうに笑って、折原さんは言った。


「じゃあ……」
「趣味みたいなものかな。今日会う予定の二人のことをちょっとね」


 趣味って……仕事じゃなかったのか、その2人と会うのは。
 でもそれで趣味って……一体どんな趣味?


「まあ、そこまで暇なら待ち合わせの時間までぶらつく?」


 私の思考を遮るように折原さんはそう言って笑った。
 ……この人、私が池袋中に地雷を抱えているのを知って言っている。趣味が悪い。人も悪い。
 

「でも、昼食作りましたよ」
「早めに食べて行けばいい」
「ぶらつくって、池袋をですよね。どこにいくつもりなんですか」


 まさか、2か月前と同じルートを回るなんてことは……この人なら本当にしそうで怖い。   
 そんな私の疑心など気に掛けず、折原さんはこちらをしばらく見た後、


「ユウキ、エプロンとか持ってないの?」


 そんなことを聞いてきた。


「持ってませんね、どうも必要性を感じないので」
「なら、買いに行こうか」
「……何かたくらんでませんか」
「別に?料理するときに、付けてた方が雰囲気でるからさ」


 何の雰囲気だろう。家政婦ですかお手伝いさんなんですか。


「どれかというと、新妻の方?」
「そうですか。とりあえず、まともなものなら使います」
「あれ、流した?やっぱり普通の会話じゃあんまり乗せられないよね、きみって」
「いちいち間に受けていられませんから」


 私は純情少女じゃないからむしろ少女というの年齢すらこえてるから。
 そんなものを間に受けていたら1日中赤面していなくちゃいけないだろうし……あ、なんか折原さんってホストとか向いてる気がしてきた。

 
「それじゃ、昼食よろしくね」
「はい」


 
 ふざけた妄言を言うのはやめにして、私は指示通り台所へと向かった。




 (安穏としているような気がする会話)




 気がしているだけじゃないといいんだけど。


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