ST!×1 | ナノ
「ここ、どこ」
ああ、そうだ。折原さんの家だった。
そんなベタな寝ぼけ方をして、私は夢から目が覚めた。
けれど、一体どんな夢を見ていたのかといわれれば、自分でも覚えていない。まあ、夢なんてそんなものだと思う。
跳ね気味の髪を押さえながら時計を確認してみると、すでに7時前だったので身体を起こしてベッドから降りた。
折原さんは、いつも何時に起きてるんだろう。
タンスから適当に服をみつくろいながらぼんやりと考える。もしも、もう起きていたのなら、明日はもっと早めにおきない、と。
まだぼんやりとしている頭で扉の前から机をどけて、ドアノブを捻る。外を窺うと静かに朝日が差し込んでいるだけで、特に変わったことはなかった。
洗面所で顔を洗って、寝癖を直して洗濯機を見て、私は腕を組み少し唸る。
「この中って、私の洗濯物だけ……か」
それとも折原さんのものも入っているのか……後者の場合、中をあらためるまえにスイッチを押してしまいたい。
いや、でも結局干すときにはってもういやだ私はそういうの駄目なんだってば言葉攻めは耐えられるけどっていうかむしろ反論してやるけど物理的なものは回避不可能ッ。
さて、私が何について悩んでいるかというと、言わなくても分かると思う。
そしてそういうところを絶対に折原さんには知られたくない。
できる限り心を無にして、何も考えず、表情も一定調子に合わせて、洗濯機の中を見た。
「……あれ」
中には、私のものだけが入っている。ああ、よかった。
って、それはつまり折原さんは着替えてないということだろうか。
……仕事で徹夜してしまったとか?
さすがにひとり分で洗濯機を使うのはどうだろうと思い(ひとり暮らしにこの洗濯機は大きすぎる)、後で手洗いすることに決めた。
とりあえず、折原さんの生存確認をしよう。
「と、思ったんだけど……」
リビングに入ると、ソファで寝ている折原さんらしきものを発見した。
でも、これって本当に寝てる?寝息聞こえないし、布団頭からかぶってるし。
死んではいないとおもうけど。
なんて、物騒なことを平然と思いながら、折原さんらしきものはスル―させてもらう。
まあ、寝ているだけだろう。人の寝顔を拝見するのも悪い気がするし、朝食作ろっと。
♀♂
「今、何時?」
キュウリを斜め切りにしていたとき、とても寝起きとは思えないしっかりとした声がソファあたりから聞こえた。
時計を少し見上げて、
「7時15分です」「8時に起こして」
ほぼ間髪いれずにそれだけ言って、また沈黙。
なにいまの。今まで起きてたんじゃないかっていうぐらい、眠気さを感じさせない声だったんですけど。
もの凄く、寝起きがいい人なんだろうか。
とりあえず、起きたらベッドで寝るように言おう。
音をたてないようにして料理をするのは、とても気を使うから。あと折原さん自身のためにもよくない。
そうして無難な朝食を作り終えた後は洗濯物を洗って、自室に干した。
あまり部屋に干すのは好きじゃないんだけど、まあ仕方ない。
できるだけ静かにリビングへ戻って時間を確認してみたらちょうど8時前だった。
さて、起こそうか。
「折原さん、8時です」
「……」
無反応。さっきの寝起きの良さはどこへ行ったんだ。
今度は肩らしき部分を叩きながら、同じことを言ってみたけれど、それでも反応なし。
「折原さん、待ち合わせがあるんじゃないんですか」
「昼過ぎだから、大丈夫」
「眠いなら、寝室で寝てください。言われた時間に起こしますから」
先ほどとは打って変わって、少し眠そうな声が聞こえたことに驚きつつ、私はそう言った。
まさか、私がこの部屋にきたときも起きていたから、声がはっきりしていた、とか。
この人、仕事には真面目なんだな。
「いや、いい。起きるから」
…………折原さんがそう言って、1分が経過した。また、寝た?
声をかけようか寝かせるべきかと悩んでいたら、布団から折原さんのものらしき手だけが伸びてきたて私はそれに首を捻る。
なぜか手招きをしているように見えたので、左腕だけを伸ばしてみたところ、
いきなり腕を掴まれてバランスを失い、ソファの方へダイブしてしまった。
え、なにこれ。とか思っているうちに今度は視界が真っ暗になる。
「折原さん、これはなんていう嫌がらせですか」
「寝起き見られるの嫌いなんだよね」
寝顔見られるのはもっと嫌いだけど。
そう言って、私の頭に布団を被せたまま、折原さんは部屋を出て行ったようだ。ドアがガチャリと音をならした。
「はいはい、と」
軽く息をついて布団をたたみ、ソファの上におく。
さて、パンを焼こう。
(なら自室で寝なさい)
……よく考えたら、1時間も寝てないんじゃないの?
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