ST!×1 | ナノ

「ひとつ突っ込みを入れていいですか」
「なに?」

「どうして、私の荷物が入ってる段ボール箱の封が、全部開けられているんですか」 


 自室だと案内されたその部屋は、シンプルでとても私好みな内装だった。
 今は段ボール箱が乱雑に置かれているせいで散らかっているように見えけれど、整理すればかなり使いやすそうだな、なんて思ったのに、

 すべての荷物が開封済み状態。これってどういう……。
 
 そう一定調子の視線を室内に向けていると、


「ただの荷物検査みたいなものだから」


 そんな言葉が隣から聞こえてきた。
 あえて折原さんの顔はみないことにして、


「このマンション全体でされてるんですか」
「まさか。個人情報だとかプライバシーの侵害だとかで、そんな案は通らないよ」
「つまり、折原さんが個人的に開けたんですね」
「まあ、そういうことになるね」


 いや、そうとしかならない。
 

「確かに私には前科がありますけど、あからさまな凶器を持ち込んだりはしませんよ」 
「カッターナイフは入ってたけどね」
「それがないと封が開けにくいじゃないですか」
「ボールペンも凶器なるって知ってた?」
「そんなことを言ってると、日常用品すべてが凶器になります」


 息を吐いて部屋の中に入り、段ボールの中をよく確認してみた。
 あからさまに探られた様子はないけど、カッターナイフって……間違えて奥の方に入れたはずなんだけどな。
 どうして奥に入れたものが判明しているのかな。


「折原さん。あなたは意識してないかもしれませんけど、私も女なので見られたくないものの一つや二つあります」


 例えば下着とかアルバムとかいろいろと恥ずかしいメモ帳とか。特にメモ帳の方を見られると羞恥死してしまう。
 下着よりそれを見られたくないっていうのも変な話だけど。

 あ、本気で見られてないか心配になってきた。


「……あの」
「意識してないのは、きみの方だと思うけどね」


 そう言って浮かべられた笑みは、私がついさっきからずっと見ているはずのもの。
 それなのに、言葉の意味を考えてみれば、こちらは笑っていられないものだと気付く。


「今日は荷物の整理で手が回らないだろうから、雑務は明日からでいいよ」
「……」


 まだ何か言われるかと思っていたのにいきなり違う話をされて、不意打ちをくらったように閉口する。
 けれど、やはり折原さんは平坦な笑みを浮かべている。
 そうして首をかしげながら目を瞬かせているうちに、その人はさっさと扉の方へ戻っていく。

 って、いやいや。さっきの言葉は何だったんですか?


「あ、そうだ。ユウキ」


 思いだしたようにかけられた言葉へ、咄嗟に「はい」と返事をした。
 すると、折原さんはひらりと手を振って、



「この部屋、鍵ついてないから」



 少し黒いものが見え隠れする笑顔でそう言った。



(よくある展開、では困る) 



これからは扉の前に机を置いて寝よう。


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