ST!×1 | ナノ
≪着信:六条千景≫
「…………出た方が、いいか」
「なん『お前っ、いつ埼玉出た!?』
「……千景、まず落ち着こう。深呼吸を3回ほど繰り返して」
『あ?ああ……』
「はい、それでもう一回」
『お前、いつ埼玉出たんだ?就職がどうとか聞いたけど……』
「出たのは一昨日。理由は東京の、お店みたいなところに就職したから。でも、誰に聞いたの」
『お前んとこのうぜぇオヤジ』
「ああ……なるほど。それで、そっちは元気?」
『おう、今久々にユウキの声聞けたからな!』
「そう。私も千景と話せて良かったよ」
『……今にも電話切りそうなこと言わないで、頼むから』
「いや、本当に話せてよかったと思ってるんだって。新しい環境に馴染めないっていうか……仕事場の人と、うまくやっていく自信がなくて。悩んでたところだから」
『ああ。お前、人見知り激しかったもんな』
「違う違う。私の人見知りどうこうより、価値観の相違というか、向こうが何考えてるのか分からないの。それで、ちょっと言い合いみたいになっちゃって」
『相手男?』
「秘密。男だってなったら、千景が今にもやってきそう。で、血の雨が降りそう」
『当たり前だろ。気に食わない野郎がいたら、いつでも言ってくれ』
「絶対に言わない」
『……そう言われる気はしてたけどさ。とりあえず、愚痴程度ならいくらでも聞くから。そんで、寂しくなったら帰ってこい』
「……ありがとう」
『やけに素直に礼言ったな……。いつもは「うん、とりあえず千景の縄張り以外の場所に帰るよ」とか言ってくるのに』
「そう言ってほしかったんだ」
『ごめん、本当はマジで嬉しかった。で、これから毎日電話、』
「されるといろいろ大変だから、やめて」
『……じゃあ、いつならいいんだよ』
「私から週に一回は連絡いれる」
『週一!?そんなに忙しいのか?』
「けっこう時間が不規則な仕事だから」
『そうか。まあ、ちゃんと休めよ』
「うん」
『……それで、ユウキ。お前――――え、何だよ?』
「……(向こうで会話中っぽいな)」
『時間?そんなもん待たせておきゃいいんだよ、第一しかけてきたのは向こうだろうが!俺の至福の時間には変えられ「うわ、また女に電話してたんだ」「ホントこりないよね、相手誰だと思う?」「木ノ原先輩とかじゃないですか」「あの人にはこっぴどく振られたじゃん」「そうだっけ?ろっちーの彼女多すぎてわかんないよ」「さっきユウキって言ってなかった?」「ああ、ユウキさんね」「「「ホントこりないよねー、振られたのに」」」お前らいつの間にきた……?』
「ろっちー、私もそろそろ仕事」
『え?いや、俺のことは気にしなくていいから。っていうか、いきなり呼び方変えたな』
「本当に仕事なんだって。それじゃ、ノンちゃんたちによろしく」
『……ああ。絶対に週一忘れんなよ!約束したからな』
「忘れない忘れない。できるだけ、怪我しないようにね」
『ユウキと話せたから、傷一つ負わねえよ。じゃあな』
「じゃあね」
≪通話時間:5分10秒≫
「……このタイミングで……」
(彼だけは、悲しむかもしれないから)
そうしてベランダから身を引いた。
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