ST!×1 | ナノ
『で、こいつらを公園のベンチに座らせて終わりか?』
PDAに打ち込んだ文字を依頼人に向けると、彼は札束を数えながら楽しそうに笑い、「そ」と言った。
「本当はサラ金とかに連れてっていろいろしたかったんだけど、正直、もう飽きた」
『飽きたってお前』
臨也から運び屋の依頼を受けてカラオケボックスに向かったセルティは、店員に案内された部屋で女性二人をスーツケースに詰めている臨也の姿を見つけてしまった。
そしてなんなんだこれはと突っ込みを入れる前に手伝いをさせられ、その2人の女性が入っているスーツケースをこの公園まで運んで、現在。
「飽きたし、儲けるにしてはそれ程割に合わないんだよね」
恐ろしいことをさらりと言いのける臨也の言動には大分慣れてきているセルティだが、それでも何も思わないわけではない。
特に今日は、見慣れないものを部屋につく前に見ているため尚更だった。
『カラオケボックスへ入る直前、2ヵ月前の女子高生を見かけたんだが……まだ連絡をとりあっていたのか』
かつて屋上から飛び降りようとする少女を助けてやってくれと臨也に頼まれたことがあった。
もはやそれは運び屋の仕事ではないのだが、生死が関わっていたので何も言わずにセルティは彼女を助けた。
あの男のことだから、純粋な慈善事業というわけではないだろう。そう考えていたため、その子がその後どうなったのかということが気になっていたのも確かである。
おまけに、その次の日に行きつけのチャット部屋へ現れた新参者がその少女だとしか思えないことを書き込み、また臨也と接触することを仄めかしていた。
私の忠告は聞き入れられなかったのか。
ない口からため息が出ることはないが、こういうときに出すものなのだろう。
「ああ、彼女なら俺の家に住んでるよ」
『なに!?』
勢いよくPDAの画面を臨也に突き出すと、当人は特に変わった様子も見せず、
「まあ、今日は怒って……っていうより、呆れてかな?先に帰って行ったけど」
『まさか自殺のことを種に強要しt』
「ストップ。俺は強要もしてないし、あんたが考えてるような目的で彼女を住まわせたわけでもない」
臨也の言葉に、セルティはPDA持っている手を降ろした。
確かに臨也にはそういう性的な意味での欲求はあまりないようなことを新羅から聞いた気がする。別のことに関する欲求が強すぎるからその分減退しているとかなんとか。
なら、
『どうして同居なんかしているんだ?』
「えらく今日はつっこんでくるねえ、普段は仕事以外の話はしたがらないのに」
『私はあの子が気になるだけだ』
「1回助けただけの女子高生に、なんでそこまで執着してんの?」
あんたらしくもない。
そんな臨也の言葉に『私の何を知っているんだ!』と突き出してやりたくなったが、さすがによくいくチャット部屋の常連仲間だからとは言えない。
あれからもあのユウキと名乗る少女はチャット部屋に来て楽しげにレスを交わしている。
確かに変わった子ではあるようだが、決して悪い子ではない。臨也と同居だなんて、考えただけでも恐ろしい。
だから、気にならないわけがないのだ。
『ただの興味本位だ。まさか付き合ってるのか?』
「そんなことあると思う?」
『ないな。だとしたらあの子が不憫過ぎる』
「それどういう意味?」
『そのままの意味だ。本当に妙なことをしていないだろうな?』
「してないよ」
そのあとに、何か付け足すように呟いていたが、セルティに聞こえることはなかった。
「むしろ、俺が押し倒されてるから」
『……なにかの間違いだろう』
「で、私のことが嫌いかって聞かれてね」
普通は好きかどうかを聞くものだと思うんだが。
心の中でそうつっこみつつ、PDAに文字を打ち込む。ユウキちゃん、何を思ってそんな告白まがいなことを……。
『それで、なんて答えたんだ?』
「嫌いじゃないって答えておいた」
『それで納得したのか?』
「さあ?とりあえず、俺は愛してるんだって言ってみたよ」
落としそうになったPDAを何とか取り落とさず新たな文章を作成していると、臨也が言った。
「まあ、人間という存在の1人として愛してるんだって言ったんだけどね」
『………………』
呆れてものも言えないということを三点リーダで表現する。
『それで、呆れて帰って行ったのか。当たり前だな。むしろお前は殴られるべきだ』
「俺も平手ぐらいは飛んでくると思ったんだけどねえ、いつも以上に無表情な顔をして出て行っただけだったよ」
『もう帰ってこないんじゃないか?』
「ああ、それは大丈夫」
なぜか自信ありげに笑みを浮かべる臨也にセルティは嫌なものを感じた。
「ユウキは俺から離れられないから」
『…………妄言か?』
「いや、そのままの意味さ。俺がどれだけ酷いことをしても、最終的には絶対に帰ってくるよ」
『そこまであの子から好かれている自信があるのか……』
「好かれているかはともかくとして……もう、ユウキには居場所がないからさ」
他に帰る場所がないんだよ。
そう言って当たり前のように笑う臨也をセルティは訝しみ、同時に嫌悪した。
自殺をしようとしていたような子なのだから、何か問題があって自分の居場所をなくしてしまったのだろうか。
けれど、
『お前が、奪ったんじゃないだろうな』
「何を?」
『あの子の居場所を、だ』
聞くと、その男は不敵に笑って、
「それは、彼女の落ち度だよ」
(情報屋と運び屋の会話)
嘘だろうと言いたかった。
*前 次#
戻る