ST!×2 | ナノ

『静雄に比べれば頼りないかもしれないが、一人でいるよりずっといい』


 バイクから降りて見せられたその文章に、私は素直に頷いた。
 やはり多少運動神経が良い程度では危険すぎると正論つきつけられたため、頷かざるを得なかった。
 足手纏いになって余計な迷惑をかけるわけにはいかない。さすがに、そこまでして自分の意見を通そうとは思わなかった。

 そこでセルティさんが呼んでくれたのが。


「やあ、久しぶりだね」
「その節は、お世話になりました」


 新羅さんだった。
 数ヶ月前に風邪を引いときに診て貰って以来、今回が二度目ましてとなる。
 確かにセルティさんはこの辺りに自分たちの住んでいるマンションがあると言っていたが、町中で白衣は、どうだろう。


「セルティからの呼び出しなんて滅多にないから一体何事かと思ったよ。呼び出しメールに『臨也にだけは会わせるな』って書いてあったんだけど、臨也がどうかした?」
「喧嘩……のようなものをしてしまって」


 どう説明すれば良いのかわからずそう答えると、新羅さんが不思議そうに首を捻り、腕を組んだ。


「相手から恨みを買われるのはいつものことだけど、臨也が静雄くん以外と喧嘩なんて珍しいね。あれも喧嘩と言って良いのか微妙なところだけど」


 どちらかと言えば殺し合いだからね。
 朗らかにそう言った新羅さんに、何とも言えない気分になった。そんなことをさらりと言わないでください。
 

「まあ、あまり詮索はしないことにしよう。それよりも早く建物の中へ入った方がいい、今の池袋はどこも危険だから」
「……そう、ですね」


 私が頷いたのを確認して、新羅さんは歩き始めた。
 対する私はと言えば、セルティさんの気遣いを嬉しく思う一方で、ここまでしてもらっていいのかと思う。
 新羅さんは普通の人間なのだから、できるだけ外には出て欲しくないとセルティさんは思っていたはずだ。
 
 せめて切り裂き魔が現れる前に、新羅さんの言うとおり建物に入らなければ。この人になにかあったら、大変だ。
 少し自分の状況を置き違えているような気がしたけれど、とにかく足早に新羅さんの後を追った。


「そういえば、臨也と静雄君と僕が元同級生だっていう話、聞いたことある?」
「はい、一応」


 唐突に切り出された話題へそう答えると、新羅さんがうんうんと満足そうに頷いた。
 

「僕と臨也が中学からの知り合いっていうのは?」
「それは、初耳ですね」
「なるほど。じゃあ、中学生だった頃の臨也の話とか興味ある?俺も部分的なことしか知らないんだけど……まあ、今としていることの本質は同じだね」
「……遠慮します」

 
 いい話が聞けるとは思えない。
 首を横に振ってそう言うと、新羅さんは少し残念そうに「ああ……そうなんだ」と呟いた。そんなに話したかったのだろうか。


「それなら、静雄君と小学校が同じだっていうのは?」
「え、そうなんですか」
「これには食いつきいいんだね」


 若干、苦の混じった笑みを浮かべた新羅さん。自分でもあまりに露骨だと思ったが、反応してしまったものは仕方がない。
 

「僕が静雄君に興味を持ったのは、彼をからかった子へ静雄くんが机を投げつけたときなんだ。それはもう、小学生とは思えない規格外のスピードだったよ」
  
  
 そんな言葉をかわぎりに、平和島さんの武勇伝(?)が次々と語られた。
 小学生の頃は身体が力へ付いていかず、頻繁に骨折をしていたこと。年上相手でも構わず今のように放り投げていたこと。
 何度か身体の検査を申し入れたが、全部断られたこと(普通は断るだろう)。
 他にもいろいろな話を聞いたけれど、新羅さんの言葉を聞く限りは、あまりそういうところに変化はないようだった。


「実を言うと、今回も妖刀相手にどう闘うのか気にはなっているんだ。ええと、セルティから罪歌の話は聞いてる?」
「セルティさんからは聞いてませんけど、妖刀の話は知ってます」
「ああ、折原君から聞いたのかな。それにしても、本当に静雄君は興味深いよ。医者として」


 今度、採血だけでもさせてくれないかなあ。
 本当に考え込むような口調でそう言った新羅さんに、折原さんがこの人のことを「変人」とか「変態」と言っていた理由が少し分かった。
 折原さんも人のことは言えないような気がするけれど。

 新羅さんの話しに相づちを打つ形で会話をしていると、いつの間にか大きなマンションの目の前にいた。


「多分臨也は来てないと思うから、安心して入ってくれて構わないよ」
    

 多分ね。
 そう付け加えられたものに、それは何かの振りですかと言いたくなった。

 

 (緊張感のない夜道で)



今頃、平和島さんたちはどうしているんだろう。


*前 次#

戻る
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -