(本音は…)


合宿は毎年レギュラーだけで行き、場所も毎年同じ宿泊施設だ。
まさか、宿敵の誠凛高校が同じところに泊まっているなんて思ってもいなかったけど。
みんながご飯を食べている間が唯一の休憩時間で、厨房のみんなからは影になって見えないところに座って休憩をとっていると誠凛高校の監督さんが厨房に入ってきた。
このかんとくさんが料理をしている間は見ているこちらがハラハラしてしまうほど危なっかしい。
思わず手伝いましょうかと言いそうになってしまうが、初日に彼女を手伝って宮地くんに怒られてしまい、少し声をかけるのに躊躇してしまう。
だけど、合宿のときのご飯を作る大変さは知っている。
さっき見たときは、あの明るい髪をした頭を見ていないのでよしっと思い腰をあげた途端後ろから声がした。

「手伝おうとしてんじゃねーよな?」
『み、宮地くん…』

ギコギコと言った音がつきそうな動きで後ろを振り返り見ると、顔は笑っているが目が笑っていない宮地くんがいた。
そんな彼に冷や汗が流れる。

「今は休憩時間だろ。ちゃんと休憩しろ。お前がぶっ倒れたら俺らが困るだよ」
『ごめんなさい…』
「ま、手伝おうって気持ちだけでも十分じゃねーの?ほらよ」
『わっ…?!』

カウンター越しで飛んできたものを咄嗟に受け取った。
一般的な運動能力しか持ち合わせていない私はギリギリでそれを手におさめた。

「とりあえず、今日の仕事は終わりだろ?」
『うん』
「メシ食って部屋に上がれよ」
『でも、片付けとか…』
「それぐらいやってやる」
『だめ!それだけはだめ!』
「あ?なんでだよ」
『片付けまでが仕事だから』
「手伝ってやる」
『でも…。宮地くんだって練習で疲れてるんだからちゃんと休まないと!』
「大丈夫って言ってんだろ」
『でも…!』
「何を言い合いしているんだ?」
「お、宮地は先に来てたのか」
『大坪くんに木村くん!』
「食堂に声が響いているぞ。怯えてるやつもいるから声だけは抑えろよ」
「なんだぁ?痴話喧嘩か?」
「ちげーよ!片付けぐらい手伝うっつってんのに、こいつ全然聞きやしねーんだよ」
『だって…』
「片付けか…。みょうじ。片付けは俺たち3人でやる。どうせこのタイミングなら最後まで残っているだろうし、少し俺たちだけで話したいこともあるからな」
『大坪くんまで…』
「ただ、部屋に上がる前に少し寄ってほしいところがある」
『寄ってほしいとこ?』
「あぁ。部屋に行く前に高尾のところに寄ってくれないか?」

入部して1年生の間にすぐにレギュラーになるのは、秀徳高校男子バスケ部としては珍しい方で、その上スタメンにもなっている高尾くん。
体力面的には一番心配な子だ。
私が得意とするデータ分析の数値でも、やはり高尾くんの体力アップが課題となっている。
補足だが、私の持っている能力は選手一人ひとりの筋肉の状態や体力をグラフ化や数値化して、その人にあった個人練習メニューや試合に向けて万全の状態に整えること。
簡単に言えば誠凛の監督さんがやっていることにほぼ近い。
厳しい練習が続くこの合宿。
帝光中出身でキセキの世代である緑間くんはさすがと言うところだが、やはり高尾くんはそうはいかなかった。
ご飯を食べていなかったり、休憩中にもどしている姿を何度か見かけた。
大坪くんは目の前にいる3人の誰が見るよりも、私が見た方がまだ気楽だろうと考えていたみたいだ。

「今は予備の部屋で寝ているはずだ。頼んでもいいか?」
『うん。緑間くんは大丈夫なんだよね?』
「腹立つほどに元気だっつーの」
『そっか、わかった。片付けをお願いしてもいいかな?』
「あぁ」
「だから、さっきからやるっつってんだろ」
「まぁまぁ宮地。こういうのは押し付けてもダメなんだぞ」
「うっせーよ!」
『3人ともありがとう。食器は洗ったら水切り籠の中に入れるだけでいいから』
「わかったから、早く行ってやれ」
『うん。お願いします』

そう言って食堂を出ていったみょうじの背中を見送る。
なまえの姿が見えなくなってから後ろに振り向くと、木村がニタニタと笑っていて、大坪が微笑んでいた。

「本当は行かせたくないくせに」
「宮地。悪いな、気が利かなくて」
「〜〜〜っ!!うっせーー!!」

食堂に響いた宮地の声に、その場にいた2年生のレギュラーたちが怯えていたのは無理もない。
彼らは、キャプテンと副キャプテンの2人にあまり宮地をイラつかせないでくれと祈るばかりだった。


(引き止めても良かったんだぞ?)
(顔に書いてあったぞ。行くなって)
(しつけーんだよ!おまえら!!)


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