(新たな一歩)


ストバスの帰り。
私と涼太は並んで歩いていた。

「そーいや…」
『ん?』
「なまえが探してる人、分かったっぽい…」
『ほんと!?』
「でも、まだ分かんねーし…。もう少し待って」
『うん!』

しばらく歩きながら帰っていると、後ろから車の音がしてきた。

「…。なまえ」
『なに?』
「………」
『ちょっ…』

黄瀬は車道側だったなまえと場所を交代した。

『涼太…。…ありがとう』
「どういたしまして」

お礼を言った後、すぐに後ろからクラクションが鳴り響いた。
ゆっくりと、こっちに向かってくるトラック。
目を見開く私と涼太。
こんな時もこの"目"が使えるなんて思ってもいなかった。
トラックが勢いよく瓦礫に突っ込む。
涼太の背中に飛びつくように、涼太の背中を押した。
そして、道路に倒れこんだ私たち。
それとほぼ同時に感じた右足への激痛。
あまりの痛さに声がでない…。

「…ってー…」

私に突き飛ばされた涼太が、ゆっくりと体を起こす。
そして、私を見てこれでもか、と言うぐらい目を見開いた。

「なまえ!!!!」

俺を突き飛ばしたなまえ。
そんななまえを見て、心臓が止まるような衝撃を受けた。
下半身が、崩れた瓦礫で埋もれているなまえ。

「なまえ!!しっかりしろ、なまえ!!」
『っ…。……りょ…た…』
「なまえ!救急車っ…!」

俺は、急いでポケットにあった携帯を出した。
震える手でしっかりとボタンを押していく。
そして、俺は救急車が来るまで、ずっとなまえの手を握り続けた。
救急車や消防車、パトカーが見知った道を埋めていく。
事故があってからなまえが救急車に運ばれたのは約20分ほどだった。
付き添いで一緒に乗った俺は、病院についてすぐに手術室へと運ばれていった。
それを見送った後、病院の公衆電話で、ゆっくりと震える手でボタンを押していった。

「なまえ…」

電話をした後は、手術室の前の椅子に座っていた。
いまだ、"手術中"というランプはついたままだった。
俯かせていた顔を一度上げると、パタパタと走る足音が聞こえてきた。

「涼太くん!」

そう叫びながら姿を見せたのはなまえのお母さん。

「……おばさん…」
「なまえは?」
「まだ手術中で…」
「そう…」

おばさんの言葉に一度上げた顔を下げた。

「涼太くん。怪我は?」
「えっ…」

おばさんの言葉に驚いていると、ふいに頭に重みを感じた。

「…おじさんも……」

見上げると、なまえのお父さんもいた。

「怪我はないか?」
「お、俺はかすり傷程度っス…」
「そうか。なら良かった。ご両親も心配していたよ」
「…。でも、俺のせいでなまえが…」
「大丈夫。あなたのせいじゃないわ」
「でも…!」

俺が声をあげたと同時に"手術中"のランプが消えた。
そして、眠ったままのなまえが手術室から出てきた。

「ついていってあげて?」

おばさんのその言葉に俺は無言でうなずいた。
部屋についた後も、なまえは眠ったままだった。
手を握って、なまえが目を覚ますのをじっと待つ。
すると、部屋の扉が開いた。

「涼太くん。どう?まだ寝てる?」
「はい…」
「そう…」

そのまま何も話さずに、ただなまえを見ていた。

『……んっ…』
「!…なまえ!?」
『……りょーた…?』
「目が覚めたみたいね」
「はい」
『…お母さん』
「大丈夫?しんどくない?」
『……うん…』
「なまえ…」
『…涼太。怪我は?』
「…俺は大丈夫。かすり傷程度…」
『そう…。よかった』
「っ…。何がよかっただよ!俺よりも自分のことを…!」
『涼太。私は涼太を庇ったの』
「………」
『涼太を助けたかったの』
「………」
『なのに、涼太も怪我をしてたら私が怪我した意味ないでしょ?』
「………」
『涼太』
「…ごめん……」
『ごめん。よりもほしい言葉があるんだけどなぁ?』
「…なまえ……。…ありがとう…」
『うん』

小さく呟かれた言葉になまえは微笑んで頷いた。

「なまえ」
『なぁに。お母さん』
「…少し覚悟して、お母さんの言うこと聞きなさい」
『…うん』
「…あなたの右足。今はギブスをしているけど…。どうも複雑な骨折だそうよ」
『………』
「治るのは治るんだけど…」
『………』
「……っ…」
『お母さん。大丈夫、言って?』
「…バスケは、もうできないって……」

オレは、その言葉を聞いて全身の血が引いたような感覚に陥った。
なまえの表情は、髪の毛で隠れて見えない。

『…お母さん』
「なに?」
『涼太と話。してもいい?』
「ええ。じゃあお母さんは外に出てるわ」
『うん。ありがとう』

そして、お母さんは静かに病室を出て行った。
お母さんの背中を見送った後、涼太を見た。
涼太の顔は真っ青だった。

『…涼太』
「………」
『…私の分も頑張って』
「!?」
『私の分も頑張って、強豪校から推薦もらって?そしたら私は涼太が行く高校を受験する!』
「…なまえ……」
『それで、男子バスケのマネージャーするからさ!』
「でも…」
『もうバスケはできないかもしれない。でもバスケに関わることはできるでしょ?』
「…約束は…?6年の時の…」
『あー…。あれは諦める。仕方ないもん。だから、例え見つけたとしても彼にも私にも黙っておいて?』
「…わかった……」

そして、私は萌と連絡をとって事故のこと、怪我のこと、バスケのことをすべて話してバスケ部のみんなに伝えてもらった。
みんなに伝わった後は、メールがたくさん来た。
そんな、みんなの思いを背負いながら、私は受験勉強に励んだ。
涼太が、どの高校から推薦をもらっても行けるように勉強だけを頑張った。
そして…。

「なまえ!」
『涼太!』
「どうだった!?」
『………』
「…ゴクリ……」
『見事合格!!』

私はそう言ったと同時に合格通知の紙を涼太に見せた。
涼太は自分のことのように喜んでくれた。

「よっしゃ!」
『足も走れるようになったし!バスケは強いし!』
「いいことづくしだな!」
『うん!一緒に全国上位目指そう!』
「どうせなら日本一だな!」
『そうだね!』

そして、私たちはそれぞれの思いを抱きながら、それぞれの中学を卒業し、海常高校に入学することとなったのだった。


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