(変わった日々)


リハビリに専念するためにバスケ部を休部。
一年の冬はバスケから離れた。
そして、復帰することなく私は2年生になった。
2年生になって変わったこと。
それは私に話しかける人が多くなったのと、バスケ部の後輩たちが私にバスケのことを聞くようになってきた。
そして、リハビリもしながらバスケ部の練習を見学し、思ったことや気づいたことを言うようになった。
そして、もう一つ変わったことがある。
それは…。

『えっ?バスケ部に入ったー?』
「そう!」
『今更?』
「うん」
『……あほ?』
「違う!…すげぇ、かっこいい人を見たんだ」
『なるほどね』
「あの人は本当にヤバい」
『帝光のバスケ部ねー…』
「その人2年だけどエースでな!毎日1on1してる」
『へぇー…。どんな人?』
「すごい!」
『それじゃ、わかんないんだけど…』
「今までスポーツやっても、すぐできたし相手もすぐにいなくなった」
『うん。それは知ってる』
「けど、あの人は俺では敵わない」
『は?』
「たぶん、一生勝てない」
『涼太が?』
「あれを天才って呼ぶんだろうなぁって」
『あんたも十分天才だけどね…』
「ほんと尊敬する。まっ、同じバスケ部になった。ってことではなまえのことも尊敬してるけどな!」
『尊敬されるほどじゃないし』
「でも、結構有名みたいだし?」
『そうなの?』
「部長と副部長は知ってた」
『聞いたんだ…』
「まぁね!」
『まぁ、いいけど…。そうそう』
「ん?」
『来週から復帰します!』
「おー!おめでとう!!」
『ありがと!』

ニカッと笑って、私の頭をポンポンっと叩く涼太に私は微笑んだ。
それから一週間後の放課後…。
一度、病院に行って最終診察。

「うん。もう大丈夫そうだね。よく頑張ったよ」
『じゃあ…!』
「もうバスケしても大丈夫だよ」
『やったぁ!!』
「でも、少しでも痛みを感じたら必ず診察に来るように」
『はい』
「あと、バスケをするときは必ず、これをつけること」

そう言って先生は私にサポーターを渡した。

「この二つが守れるなら戻ってもいいよ」
『必ず守ります!』
「いい返事だ。じゃあ行っておいで」
『ありがとうございました!!』

そして、私は急いで学校に戻った。
更衣室に入って着替え、バッシュを履く。
久しぶりに感覚に口の端が上がる。
そんな高ぶる感情を抑えることなく、そのまま勢いよく体育館の扉を開けた。
その音に、中にいた人たちは驚いてこっちを見ている。
そして、私の存在に気付いた人たちが次々へと駆け寄ってきた。
その中でも、一番早く私に気付いたのは萌だった。

「なまえ!!」
『萌!』

私たちは抱き合った。
また、この人たちとバスケができる。
コートの上で一緒に汗を流すことができる。
そんな思いでいっぱいになった。

『はぁー!久しぶりに体動かしたー!』
「明日筋肉痛になるんじゃない?」
『うわっ。なりそー…』

久しぶりに部活に私は全力で練習に励んだ。
そして、部活帰りに萌と一緒にアイスを食べながら帰る。

「今年も全中優勝は聖歌だね!」
『もう…。今年はどうなるかわかんないよ?』
「何言ってんの!なまえが戻ってきたんだから、優勝しかないでしょ!」
『まぁ、でも…。出るからには目指さないとね!』
「もちろん!」

いろいろと話しながら歩いていると、突然人とぶつかってしまった。

「っ!?」
『いっ…!?』

私とぶつかってしまった相手は、お互い反動で尻餅をついてしまった。

『いたた…』
「なまえ!大丈夫!?」
『ん、大丈夫』

人にぶつかってコケるって、どれだけの力でぶつかったんだか…。

「おい、テツ。大丈夫か?」
「大丈夫です」

向こうの人も、もう一人の人に立たせてもらっていた。

『ごめんなさい。大丈夫でしたか?』
「こちらこそ、すみません。僕は大丈夫です。あなたは?」
『私も大丈夫です。本当にすみませんでした…。…では失礼します』

ぺこりと一礼して、また私たちは歩き始めた。
そんな私たちをぶつかった相手ともう一人がじっと見ていた。

「…バスケ部だな」
「みたいですね」

2人はなまえと萌のカバンに書かれている"SEIKA"という文字を見た。

「せいか…?」
「聖歌女子中学校、のことだと思います」
「去年の女子全中優勝校か…」
「はい。確か一人だけオンリーワンの才能を持っている人がいるみたいです」
「何で、んなこと知ってんだよ」
「桃井さん情報です」
「さつきか…」
「確か"シャッターアイ"という能力だそうです」
「シャッターアイ?」
「物や人の動きが一枚の写真のように見えるらしいです」
「止まって見える。ってようなもんか」
「もしかすれば、青峰くんの動きも写真見たいに見えるかもしれませんね」
「はっ。所詮は女だ」
「女の人でも強い人は強いですよ?」
「…どうだろうな」
「…そういえば、青峰くん」
「んだよ」
「ずっと探している人がいるんですよね?」
「あ?それがどうしたよ」
「確か、オレンジ色の短髪でしたっけ?」
「そーだ」
「…さっきの彼女。オレンジ色の短髪でしたよ」
「あぁ!?なんでそれを早く言わねーんだよ!」
「気付いていると思ったんです」
「ったく…。聖歌か…」
「黄瀬くんの知り合いが聖歌だった気がします」
「だったら、明日聞くか…」

なまえがぶつかった相手は帝光中男子バスケ部の黒子テツヤと青峰大輝だった。
同じバスケ部として少し興味を持ったのか、2人はなまえたちの話をしたのだった。
その頃、なまえたちも黒子と青峰を同じように2人の話をしていた。

『まさか、人にぶつかるなんて…』
「珍しいね。その"目"があるから人とぶつかったのなんて久しぶりだったでしょ?」
『うん。…それにしても、さっきの人たちもバスケするみたいだね』
「…?」
『2人ともバッシュ持ってたよ』
「さすがなまえ。そこまで見てなかった」
『それに、あの制服…』
「制服…?」
『うん。たぶん、あの制服は帝光中の制服だと思う…』
「帝光中…!?」
『たぶんだよ…?…涼太が着てたのと同じだったような…』
「帝光中バスケ部って言ったら…」
『全中優勝校だね』
「でも、確かに1人大きかった…」
『確かに。涼太よりも大きかったな』
「あれが全国レベルかぁ…。って言っても全国レベルの人はすぐ隣にいるけど」
『私のこと?』
「なまえのことじゃないと誰のことよ。私の隣にいるのはなまえだけでしょ?」
『私だけだけど…』
「去年、部長が言ってたよ?なまえがいなかったら、この優勝はなかったって」
『先輩…』
「もっと自分の力に自信持ちなよ!」
『萌…。ありがとう』

私は心から復帰できてよかったと思った。
けど、こんな怪我は始まりに過ぎなかったと思うのは、もっと後の話。

『ただいまー』

萌とは途中で別れて家に帰る。
玄関に入ると、何やらいつもより靴の数が多い気がする…。
家に上がろうとしたら、インターホンが鳴った。

「はいはーい」

インターホンの音を聞いて、お母さんがリビングから出てきた。

「あら。いつ帰ってきたの?」
『今さっき』
「ちょうどいいわ。出てくれる?」
『そのつもりだった』

上がりかけた足を下ろして、玄関の扉を開ける。
門の前には金髪。
それを見ただけで誰だか分かるってのもスゴイよね…。

『涼太ー?』
「よっ!」
『今日って何かあるの?』
「あれ、聞いてないの?」

そう言いながら門を開けて入ってくる。
私も聞きながら玄関の扉をもう一度開けた。

『何も聞いてない』
「今日一緒にご飯食べるんだと。金曜日だから」
『あぁ。なるほど』
「たぶん。俺の母さんと父さん。もういると思う」
『うん。靴が多かった』
「やっぱり」
『………』
「どした?」
『いや。なんでもない』
「?」

そして、私たちは久しぶりにみょうじ家と黄瀬家で一緒にご飯を食べた。
大人たちは、お酒で盛り上がっている間、私と涼太は私の部屋で寛いでいた。

「…もうすぐ地域予選かー…」
『そうだね。涼太は出るの?』
「まさか。出してくんねーよ」
『そうなの?』
「たぶん」
『ふ〜ん…。まぁ帝光中の優勝は決まってるでしょ』
「天才揃いだからなー」
『あんたもでしょ』
「俺?」
『…なんでもない』

なまえはゴロンとうつ伏せにベッドに寝転がった。
そんななまえのそばに黄瀬が座った。
そして、なまえの頭を優しくなでる。

「どうだった?今日の練習」
『膝のこと?』
「あぁ…」
『大丈夫だったよ』
「そっか」
『これがかかせないけど』

そう言ってなまえは自分の膝を指差した。
なまえの膝にはサポーターが巻かれていた。
それを見た黄瀬は顔をしかめた。

『何で涼太がそんな顔してるの』
「………」
『大丈夫。もう無理はしないから』

そして、なまえはゆっくりと瞳を閉じた。

「なまえ?」
『…Zzz……』

なまえの変化に気付いた黄瀬は、小さくため息を吐いて、なまえに布団をかけ、電気を消して静かに部屋を出て行った。
そして、数日後に地域予選が始まった。
私たちは、去年と同様でつまずくことなく全中の予選リーグの出場が決まった。
会場から、萌と一緒に帰っていると、いきなり携帯が鳴った。

『もしもし?』
《なまえ!!!》

キーン…。
例えるなら、まさにそんな音。
スピーカーから聞こえたのは予測もできないような大きい声。
その大きさに顔を歪めた。
そんな私を見て萌は苦笑していた。
きっと今ので電話の空いたは分かっただろう…。

『…なんなの』
《試合!どうだった!?》
『どうもなにも普通に勝った。…っていうか声が大きい!!耳痛い!』
《ごめん、ごめん!勝ったのか!》
『どうしたのー?』
《いやー、ちょっと気になって…》
『そっちは?』
《勝ったよ》
『ま、当たり前って言っちゃ当たり前ね』
《まぁエースがいるかぎり負けは考えられねーな》
『ふ〜ん…。試合には出れたの?』
《ちょこっとだけ》
『そっか。もし出るの決まったら見てあげる』
《マジ!?じゃあ頑張ろ!》
『はいはい。頑張って』
《おう!じゃあ、また!》
『はいはーい』

そして、電話を切った。

「黄瀬くん?」
『あ、やっぱり分かってた?』
「うん。なんて?」
『勝てたかー、だって』
「本当に仲いいね」
『そうー?』
「付き合わないの?」
『………は?』

萌の言葉になまえの目が点になった。

『付き合う…?…涼太と?』
「うん」
『…………ないかな…』
「えー?どうして?」
『どうしてって…。涼太はそんなんじゃないし…』
「お似合いだと思うんだけどなー」
『そう見えるだけじゃない?』
「ま。そういうことにしとく。(黄瀬くん、頑張って…!)」

なまえの鈍感すぎる所に、萌は心の中で黄瀬にエールを送ったのだった。
そして、2日後…。

『ごめんね。付きあわせちゃって』
「いいよ!帝光中のバスケを見るのも悪くないしね」
『ありがとう、萌』

私と萌は全中の会場に来ていた。
昨夜に1件のメールが私の元に届いた。
差出人は涼太だった。
その内容は…。
【明日、試合に出る!】
というものだった。
今日は試合はないので、休息がてら涼太の試合を見に来たのだ。
会場に入ってしばらくすると帝光中バスケ部が出てきた。
その瞬間、会場に歓声が響いた。
席に座ろうと思ったけど、空席はなかった。

『仕方ない。立って観戦する?』
「そうだね」

そして立って観戦しようと思っていたら、2人の男の人たちが席を譲ってくれた。

『え。いいんですか…?』
「もちろん!こんなことで怪我に負担かけたくないだろう?」
『「!?」』

1人の男の言葉になまえたちは目を見開いた。

『なんで…?』
「聖歌女子中学校の2年エースのみょうじなまえ。去年の全中の決勝戦中に膝の故障。…じゃなかったっけ?」
『…よく知ってますね』
「ははっ。そんな怪しいもんじゃないさっ。ただそっちに知り合いがいるだけでな」
『知り合い?』
「そ!3年の部長。オレの幼馴染でな。いろいろ聞いてる」
『部長の…』
「オレは木吉鉄平。よろしく」

そして、差し出された手。
私は素直にその手をとり、譲ってもらった席に座った。
すると、ちょうど試合が始まろうとしていた。

「黄瀬くん。スタメンだね」
『ほんとだ。頑張れ、涼太ー』

それほど大きな声で言ったわけじゃないのに涼太は私を見つけだして手を振った。

『…よく気が付いたね、涼太』
「あはは…。(それはなまえのことが好きだからだよ)」

萌はまたまた心の中で、そう呟いた。
そして、試合は瞬く間に帝王の流れへと変わっていく。

『あの人、スゴい…』
「一人だけずば抜けてる…」
『相手も、手も足もでないみたいだね…』
「うん。なまえ”見えてる”?」
『一応見えてる。あの人、形がない』
「形?」
『あのバスケスタイルはストバスでつけたものだ』
「ストバス…」
『形がない。変化自在。あの人どんな形でもシュートできると思う』
「変化自在…」
『こんな人見たことない…。(これが涼太の言っていたスゴい人…)』
「でも、黄瀬くんも中2から始めたとは思えない…」
『涼太は何でも一度見るとできてしまう』
「黄瀬くんも天才だね」
『うん。それも発展途中の天才だしね』
「これからが楽しみだね」

そして、試合は帝光の圧勝だった。
試合後、私は涼太に会いに行った。
会場から出てきた涼太の腕を掴む。

『涼太!』
「なまえ!ここにいたんか」
『お疲れ様!久しぶりに見たけど、また上達してたね!』
「マジ?なまえにそう言われるのが一番うれしい」

黄瀬となまえが話しているのを、帝王レギュラー陣が見ていた。
一番初めに反応したのは黒子テツヤだった。

「あの人は…」
「あん?知り合いか?」
「何言ってるんですか、青峰くん。この前僕がぶつかった人ですよ」
「!」

その言葉に青峰はなまえたちの方を見た。
そんな青峰の後ろから、赤髪の少年が口を開いた。

「聖歌女子中学校バスケ部2年エースみょうじなまえ」
「赤司…。知ってんのか?」
「女子バスケ部なら有名人なのだよ」

そう聞いた青峰の横から緑色の紙の少年が口を開いた。

「シャッターアイ。人や物の動きが一枚の写真のように見える。彼女は、その能力の持ち主なのだよ」
「………」

青峰はその言葉に、この前黒子が言っていたことを思い出した。

「とりあえず行くぞ。帰ってミーティングだ」
「黄瀬ェ!帰るぞ!」

その言葉に黄瀬はなまえと別れて、みんなの所に走って戻ってきた。

「お待たせしましたっス…!」
「あぁ…。行くぞ」

そして、赤司は歩き始めた。
そんな赤司にみんなもついて行く。

「…おい、黄瀬」
「何スか?青峰っち」
「今の知り合いか…?」
「幼なじみっスよ」
「そうか…」
「それがどうかしたんスか?」
「いや、なんでもねー…」
「青峰っち」
「あ?」
「6年生の時、女の子とバスケしてないっスか?」
「女?……覚えてねー」
「そっスか…」
「どうした?」
「いや、なんでもないっスよ」
「?」

一度、首を傾げた青峰だったが、さほど気にせず前を向いた。
そんな青峰の背中を見て、黄瀬はある決意をした。

「(なまえとあの時バスケしたのは青峰っちで間違いないはず…。だとすればなまえの好きな人は…。…負けないっス。…絶対に)」

その後も、去年と同様で男子では帝光中。
女子では聖歌中が全中の優勝を勝ち取ったのだった。
全中も終わり、今は真冬。
そんな中で、少女と少年の2人がバスケットコートでボールをついていた。

「…はっ……」
『…っ……』

2人の力はほぼ互角。
少年がシュートを決めようとしたとき瞬間、少女が少年の手からボールを弾いた。

「あぁー!もう!」
『まだ甘い!』
「もう無理…!」

そう言って少年はコートに寝転がった。

『でも、涼太。本当に強くなったね。この”目”がなかったら無理だもん』
「なまえ。本当はディフェンスのほうが得意っしょ?」
『バレた?』
「バレバレ」
『だって、ディフェンスのほうが目の能力を引き出せるし』
「確かに。カットし放題!」
『し放題ってわけでもないけどね。涼太のとこのエース』
「…!」
『あれは、私でも止められないと思う』
「…ってことは!」

そう言って黄瀬は勢いよく立ち上がった。

「なまえに止められなくなったら青峰っちに勝てる確率はちょっとはあがるってこと…!?」
『まぁ、そうだね』
「よし!そうなったら、もう一回…!」
『と、行きたいとこだけど雪が降ってきたから帰るよー』
「えー。折角気合い入れたのにー…」
『仕方ないでしょ。また今度ね』
「はいはーい」

そして、私たちは持ってきたボールやタオル、ドリンクを持って家に向かった。
この帰りに悲劇が待ち受けている、と言うことはまだ知らない…。


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