(決意の日)


あの対戦から数カ月。
私は地元の学校ではなく、バスケで有名な聖歌女子中学校に進学した。
幼なじみの涼ちゃんには同じ学校の帝光中学校に一緒に行こうと誘われたけど私の決意は変わらなかった。
帝王に行っておけばよかったと、後悔することになるなんてこの時は全く思ってもいなかった。
入学してすぐに私はバスケ部に入部届けを出した。
そして私の実力が認められて、嬉しいことに一軍に入れてもらっている。
数カ月後には夏の大会が控えている。
その大会に向けて私たちは猛特訓中。
来週にはその大会の予選が始まる。
気合を入れて練習をしていた。
…けど、ある日…。

『…?』

練習中に膝に変な違和感を感じた。
そんな私の様子に気が付いた先輩が話しかけてくれた。

「どうしたの?」
『少し違和感がして…』
「膝?」
『…はい。でも大丈夫です!』
「本当に?無理してない?」
『大丈夫です!きっと気のせいですから!』

みんなに迷惑はかけられない。
私は膝に少し違和感を覚えつつも練習に参加していった。
数日経っても膝の違和感は消えるとこはなかった。
そして、予選1回戦目。
スタメンだった私は序盤からとばしていた。
シャッターアイ
それは私が持つ能力の名前。
物の動きや人の動きが一枚の写真のように見ることができる。
小さい頃は使い分けができなくて苦しんだが、今では使い分けもできるようになった。
そして、この目のおかげで敵のブロックやガードから逃れ、パスを奪いスティールすることができる。
また味方の動きも写真のように見分けれるのでパスなどにも役立っている。
この能力を活かすために見に付けた技術。
それは…。

「なまえ!!」
『はい!』

先輩からボールを受け取り、その場でシュートの構えをとる。
それに気づいた敵は私のシュートをブロックしようとした。

「やらせない!」
『無駄です。このシュートはブロック不可能です!』

私はシュートの為、飛ぼうとした。
それに合わせて相手も飛ぼうとした。
その瞬間をシャッターアイでみる。

そして、私はシュートのフェイクをかけた。
それに騙された相手は空中で反応した。
が、私は相手が着地寸前。
分かっていても反応できない瞬間。
私はボールを高く空中に放った。
それはキレイな弧を描きながら静かにリングに通った。
一瞬、沈黙に包まれた会場は瞬く間に歓声で騒がしくなった。

「あの子、すごい!!」
「あれだけ高く打っても入るの!?」
「それにシュート前のフェイク!」
「まるで飛ぶのが分かってたみたいだね!」
「あれは分かってても反応できない!」
「着地寸前でシュートなんて!」
「着地してもあれだけ高かったら飛んでも届かない!」
「確かにブロック不可能!」

なまえに向けられる歓声は人それぞれだった。
そう。
私が見に付けた技術は3Pを高確率で決めること。
今日はもう10本目だ。

『よし!いい感じ!』
「ナイス!みょうじ!!」
『ありがとうございます!』
「味方でよかったわ」
「本当にね」

そのまま、ゲームは聖歌の流れで進んでいった。
体力と左右されるので100%入るとは限らない。
だからスタメンで序盤に入れれるだけ入れて点数を稼ぐ、という作戦だ。
作戦通りに3Pを決めていく。
そして本日15本目を打とうとしたときだった。

『…っ!』

突然の膝の痛みを感じながらもシュートを打つ。
そんな私の様子を監督が見ていた。

「選手交代!10番!」
『え、私?』
「なまえー。交代よー。お疲れさま」
『あ、はい!』

先輩をハイタッチをしてベンチに座る。
そんな私に監督が話しかけた。

「いつからだ?」
『え?』
「膝だ。いつからおかしい?」
『!…えっと…』
「…………」
『先週ぐらいから、です…』
「はぁ…。なぜ早く言わなかった…」
『すみません…』
「なってしまったことはもう仕方ない。だが今日はもう試合には出せない」
『はい…』
「みかん!なまえの膝を冷やしてやってくれ!右膝だ」
「了解です」

監督に指示された先輩マネージャーは私の膝をアイシングしてくれた。

「痛くなったのは今日が初めてだったの?」
『はい…』
「そっか」
『すみません…』
「気にしないで。次の試合からは念のためにテーピング巻いて出るようにね」
『はい』
「テーピングは巻いてあげるから」

そう言って先輩は優しく微笑んでくれた。
その日は快勝だった。
それからも予選と膝の痛みは続き何とか勝ち残って本戦に出場することができた。

全中。
みんなはそう呼ぶ。
全国中学校バスケットボール大会。
毎年8月に行われている。
9ブロックに分けられた地域予選を勝ち上がった23校に開催都道府県から1校を加えた24校が出場できる。
地域予選を勝ち残り全中に参加できるのは関東では4校。
東海・近畿・九州は各3校。
北海道・東北・北信越・中国・四国は各2校だけ。
私たちは関東の4校の中に入れた。
全中の大会が始まってから監督と一つ約束をした。
私がでるのは第1Qと第4Qだけだ、ということ。
膝に負担をかけることはできないので、少しでも負担を軽減するために、試合の出場時間を減らしたのだ。
それで私たち聖歌女子バスケ部は全中第一戦目を快勝で終わらせた。

「いやー。第1Qでなまえが得点を稼いでくれるから最近快勝続きだね」
「でも、なまえだけに負担はかけれないよ」
「わかってるって!」

部長の言葉は監督となまえの話し合いを一緒に聞いていたからこその言葉だった。

『でも、うちは昔から強豪校だったんですよね?』
「そーだよ。全中優勝を何度かしてる」
「ちょっと前までは男子バスケと言えば帝光。女子バスケと言えば聖歌だったらしーよ」
『それは初めて聞きました…』
「今年も帝光は強いらしいね」
『帝光…。(私も行くはずだった学校か…)』
「同じ関東だけど全然会わないよねー」
「まぁ性別が違うじゃない」
「でも会場は同じだから見ようと思えば見れるんじゃない?」
「まぁ、確実に予選リーグを勝ち残るね」
「私たちも残るよ!」
「『はい!』」

私たちは意気込んだ。
そして3校1グループで分けられる予選リーグを1位で突破した。

『……っ…』

試合に出るたびに痛む膝。
日々にその痛みは酷くなり回数も増えていった。
いつの日からか試合に出るためにはテーピングが必須となっていた。

「なまえ?」

仲良くなった同級生のチームメートでもある藍川萌。

『…っ萌?…どうしたの?』
「更衣室に行ったきりなかなか出てこないから…」
『ごめん…』
「膝、痛むの?」
『…ん、ちょっとね…』
「無理しないほうがいいんじゃない?」
『大丈夫だよ』
「でも…!」
『大丈夫。ありがとう』
「………私ね…」
『ん?』
「なまえがどこかに行ってしまう感じがして嫌なの…」
『萌…』
「おかしいよね…。どこにも行くはずないのにさ。…いつか離れるんじゃないかって思うの…」
『………』
「だから無理しないで?」
『うん…。ありがと』

そう萌に微笑むと萌も笑ってくれた。
すると更衣室の扉が開いた。

「そろそろ帰るよ、二人とも」
「『あ、はい』」

会場を歩いていると見たことのある金髪の後ろ姿を見た。
その人の周りには黄色い声を上げていた。

「何だろね、あれ」
『何か見たことある…』

その金髪は周囲の女の子を軽くあしらいながら誰かを探しているみたいだった。
そしてこっちに振り返った。

『…あ……』
「あ!いたいた!なまえ!」
「えっ!?あれモデルの黄瀬くんじゃない!?」
「なまえ、知り合い!?」
『はぁー…。だから来るなって言ったのに…』

幼なじみの黄瀬涼太。
モデルをしているので超有名人。でいつも"何か"を連れて来る。
こうなることが分かってたから来るなって言ったのに…。

『バカ!何で来てんのよ!!』
「だってー、なまえの晴れ舞台を…」
『来んでいい!』
「そんな冷たいこと言うなってー」

何も考えずに話しかける涼太。
ちょっとはこっちのことも考えてよ!
毎度毎度この視線!
私を刺すような視線が突き刺さる。

「このまま帰り?」
『そーだけど…』
「そっか。とりあえず、お疲れさん」
『ありがと』
「また腕上がったんじゃね?」
『そう?』
「動きが変わってる」
『涼太が言うなら、そうだろうね』

普通に歩きながら話していると後ろから先輩が抱き着いていた。

「なまえー!」
『うわっ!』
「お二人は、どういう関係で?」

私と涼太に向けられた視線。
先輩は何気ない言葉のつもりなんだろうけど周囲の涼太を取り巻く女の子たちからすれば気になる内容だろうな…。

「俺たちの関係っスか?」
「そうそう!結構仲良いみたいだし?」
「付き合ってるの?」

他の先輩も話しかけてくる。

『付き合ってませんよ!』
「ま、そうなってくれればいいんスけどね」
『はぁ?何であんたと付き合わないといけないのよ』
「……」
「……」

私の言葉に先輩たちは何故か黙ってしまった。
そして、そんな私に涼太は溜め息を吐いた。

「ほんと、なまえ鈍感すぎ…」
『は?』
「いや、なんでもない」
『?』
「(あれなら普通は気づくでしょ?)」
「(なまえって鈍感なんだ…)」
「(ちょっと黄瀬くんに同情するわ…)」

なまえの鈍感さに黄瀬に同情したバスケ部一同だった。

「で、なまえ」
『んー?』
「膝どうした?」
『…気づいたの?』
「あぁ…」
『最近痛み出して…』
「大丈夫なんか?」
『たぶんねー』
「無理すんなよ?」
『わかってるって』
「ま、また時間があれが来る」
『はいはい』
「じゃ行ってくる!」
『行ってらっしゃい』

手を振って先に行く涼太に私も手を振った。
そんな私の両脇を先輩たちに確保された。

「なまえさーん」
『な、なんですか…』
「どういう関係で?」
『どういうって…。ただの幼なじみですよ』
「ただの?」
『そうですけど…。なんですか?』
「好き、とかはないの?」
『ないです』
「即答?」
『はい』
「じゃ他にいるってことー?」
『えっ…』
「あー図星だなぁ?」
「誰だ、誰だ?」
『ちょっと…先輩…』
「吐いちゃえー」
『吐いちゃえ、も何も…名前は知らないんですよ…』
「知らない?」
『はい。一度去年にバスケで1on1をして…。でも名前聞き忘れたんです』
「歳は一緒?」
『たぶん…』
「情報少ないなー」
「でも、なまえとするぐらいだからバスケは上手いでしょ?」
『はい。上手かったです』
「じゃ。きっと今も続けてるだろうし、いつか会えるわ」
『だったらいいんですけど…』
「まぁ。そのためにも頑張って勝ちましょう」
「『はい!』」

私たちは、その日を境に勝ち続けた。
そして決勝戦までのぼりつめた。

「さぁ!泣いても笑っても今日が最後よ!」
「『はい!』」
「全力で行くよ!」
「『はい!!』」
「じゃぁ…。聖歌ー!!」
「『ファイ、オー!!』」

そして始まった決勝戦。
決勝戦の相手はさすがに手強い。

『(今まで勝ってきただけある…!)』

シャッターアイを使いフルに活動する。
スリーポイントを決めても相手がシュートを決めてくる。
それでも、何とかスリーポイントの差が徐々に出てきた。
そして10点差で第1Qは終了。

「なまえ。今日はお前なしでは厳しい。続けて行けるか?」
『はい!』

そして私はフルで出ることになった。

『(この人、何気にディフェンスうまい…!)』
「なまえ!」
『!先輩!』

シャッターアイで先輩が取れる位置を見てパスを出す。
何とかカットされずに得点につなげた。
段々と体力的にも厳しくなる。
…第3Qのラスト10秒でスリーポイントを打った。
リングに通ったと同時にブザーが鳴った。

「ナイス!なまえ!」
「あんた最高!」

先輩たちに頭をくしゃくしゃと撫でられる。
チームに貢献出来ているんだと実感した。
そして運命の第4Q。
点差は20点。
だけど気は抜けない。
そう思った開始2分で事故は起きた。
シャッターアイの後にスリーポイント。
いつも通りの動き。
でも、同じではないものが今回はあった。
それは今まで何ともなかった膝に今までとは比べものにならない激痛。
そのため、バランスを崩して倒れてしまった。

「なまえ!」
「なまえ!?」

そんな私に先輩たちが駆け寄る。
激痛のあまり呼吸が乱れて声にならない声。

『った……。〜っ…!』
「なまえ!」
なまえの様子に異常を感じた審判は試合を一時中断した。
そして担架を持ってなまえの所へ来た。
心配した監督が駆け寄ってくる。

「なまえ!大丈夫か!?」
『か、ん…とく…っ……』
「このまま病院に連れて行きます」
「お願いします」

そして、私はみんなの視線を感じながら担架で運ばれ、救急車に乗り病院に運ばれた。
応急措置が施された。
今は鎮痛剤を打たれてベッドの上。
ジーッと窓の外を見ていた。
右膝には頑丈にテーピングが巻かれている。
しばらくして病室にノックの音が響いた。

『…はい』
「なまえ?」
「大丈夫?」
『先輩…。みんな…』
「なまえのおかげで貰えたよ!」

そう言って先輩は私に優勝トロフィーを見せてくれた。

『…優勝…?』
「そうよ!私たち日本一よ!」
『日本一…。日本一…!』

先輩の言葉に涙が流れた。
そんな私を見て、みんなは私に抱きついてきた。
数分間。
私たちは優勝と言う喜びに浸った。
監督もやれやれ、と言ったように溜め息を吐いたが、その表情は満更でもなかった。
そして、キリのいいところで厳しい顔に戻った。

「なまえ」
『!…はい』
「どうだった?」
『………』
「…みんなにも伝えてやれ」

突然、静まり返った病室。
私はゆっくりと口を開いた。

『…右半月板損傷、でした…』
「やはり、そうだったか…」

私の言葉にみんなは意味を悟ったみたいだった。

「…どうするつもりだ?」
『…バスケは諦めたくないです』
「では…」
『手術します』

その宣言にみんなの顔は悲しみの色に染まった。

『リハビリも頑張って最短に終わらせます』
「いつまでだ…?」
『……来年…。来年の全中までには…!』
「そうか。では来年に待ってるぞ」
「なまえ。頑張って!」
「応援してるから!」
「なまえがいてこその聖歌女子バスケット部だからね!」
『うん!』

そして私は、その一週間後に手術を受け松葉杖を手に取り、リハビリに専念した。


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