擦鳴+擦鹿
とある寒い夜。
任務を終えて木の葉の領土内にある、少し開けた場所で酉の面を被った奴を見つけた。
背中まで達した黒髪を一つに結った其の男は、見た目20前後くらい。
30人くらいの相手に囲まれていても焦る事なく、其奴は圧倒的な差を見せ付けていた。
今まで見てきたどの忍よりも無駄のない動き。
中々の腕の持ち主だ。
俺より弱いけど、木の葉で例えるなら鼬とイーブンってところか。
戦闘が終わってから俺は其奴の前に降り立った。
「…っ誰だ!」
「そう身構えんなよ」
敵だと勘違いされ、其奴は殺気を放ちながら俺に刀を向けていた。
「俺はただ、お前と話がしたかっただけだ」
「…」
少し後退りした其奴は刀を下ろした。
が、まだ殺気は向けられている。
「お前、何処の里の暗部だ?」
「木の葉だ…アンタは?」
「俺も木の葉だ」
お互いマントを羽織っていたから腕の刺青が確認出来ない状況。
そう言うしかなかった。
しかし、木の葉にこんな腕の立つ暗部がいたとはな。
爺も何で黙ってるかな…。
「名前は?」
「人に聞く時は自分からって言うだろ…」
「ふ、悪かったな」
中々面白い奴に出逢ったかもしれない。
1人で行動する俺にとって、話し相手なんている筈もなく、しかもこんな真夜中に誰かと話す事自体がレアだからな。
クスリと、笑った。
「俺は蒼翠だ」
「俺は翔嚇」
一纏めにされた艶のある長い黒髪は、肌寒い風に揺られ靡いていた。
其処から目線を下にズラすと、腰に挿してあった刀に目がいった。
「…暗部用の刀じゃないんだな?」
「嗚呼、此奴の事か?朱羅時雨って名前の妖刀だ。
俺は朱羅って呼んでる。俺の相棒だ。
そうゆうアンタこそ、刀は持ってないのか?」
「俺には必要ねぇもんだからな」
チャクラ刀があるし。
「アンタ、蒼翠とか言ったな…」
「ん?」
「何処に所属してんだ…?」
翔赫とか言う奴も俺に興味を持ち始めたらしい。
いつの間にか殺気もなくなっていた。
「其れは秘密」
「…」
俺の名前を聞いた事がないらしい。
まさかのひよっこ暗部か…。
「ま、何れ分かる時がくるさ。
今日は驚かせてすまなかったな?久しぶりに楽しめたよ」
そう言って、俺は其奴の前から姿を消した。
其の足で俺は執務室へ。
「ほら、報告書だ」
「うむ」
報告書投げやり、俺は近くにあるソファに座り込む。
「今日さ、面白い奴に出会った」
「…珍しいのぉ?蒼翠がそうやって言うのは」
「まぁな。だから価値があんだよ」
「言えとるの」
報告書に目を通しながらの返事。
俺はさっき出会った翔赫の事を思い出していた。
「木の葉の翔赫って言う暗部」
「蒼翠もいいところに目を付けるのぉ。翔赫はな?最近暗部に入ったばっかりでの、中々の腕前じゃろう?」
「まぁ、其処ら辺の暗部なんて歯が立たねぇだろうな」
ワシも評価しておる、なんて。
俺の名前聞いても顔色一つ変えなかったのは、やっぱりひよっこ暗部だったんだな。
「鳴門と同じ一匹狼じゃよ」
「ふーん…」
一匹狼ねぇ…。
「所属せぬか?と闘いても、お主と同じ答えが返って来るだけじゃ」
仲間なんていらねぇ。
いたら邪魔。
「いいな、其奴」
「…本当に、珍しいのぉ…」
また何処がで会ったら…。
あの日から、もう何週間と経った。
翔赫にはあの日以来、顔を合わす事もなく何時も通りの日常を送っていた。
「桜ちゃんやっぱり早いってばよ…」
「鳴門が遅いのよ!」
今日の任務は何も聞かされていなかった。
時間と集合場所たけ。
其の集合場所に2番乗りした俺。
佐助の姿はなく、もちろん案山子の野郎も。
「佐助いないってばね…」
「ま、佐助くんは兎も角、あの上忍はまた遅刻だから気長に待ちましょう?」
「だな!」
「今日の任務何かしらね」
「また同じような任務だってばよ」
草むしりとか落とし物とか。
あ〜ぁ、下忍任務って本当につまんねぇよな。
「ふぁ〜…!」
「何、寝不足?」
欠伸が出た事に俺自身もかなり吃驚していた。
「…昨日、夜中に隣の人が壁をコンコンコンコンしてて寝れなかったんだってばよぉ…」
「何其れ怖っ…!」
咄嗟に思い付いた内容で誤魔化したけど、日頃の疲れが出始めてんな…。
「桜、アンタ本当に真面目ねぇ」
「よぉ鳴門」
「お早一鳴門、桜」
桜と話の途中。
突然現われたのは亜須磨班の3人だった。
「猪?」
「今日はよろしくねー」
蝶辞の言葉の意味。
「あぁんのタレ目上忍!!」
「こんな大事な事黙ってるなんて!」
亜須磨班との合同任務と言う事だ。
「何、聞いてなかったのー?」
「何時もよ!大事な事は特にね…」
「ちょっとぉ、アンタたちの班大丈夫なのぉ…?」
此ればっかりはな。
案山子が遅れて来る理由は知らなくもないが、俺にはどうする事も出来ねぇし。
「…」
其れより、さっきから凄く気になるのがある。
「?鳴門?どーした?俺の顔に何かついてっか?」
「ううん、何でもないってばよ」
鹿丸の体から、複数人の血の臭いがするんだ。
確実に人間のものの血の臭い…。
たかが下忍なら無理な話。
体に染み付く程の血を相手に流させる事が出来るか出来ないかだ。
ただ其れだけ。
奈良 鹿丸は其れが出来てしまうって事なのだろう。
興味が湧いた。
遅れて登場した案山子に桜の鋭い突っ込みが入り、任務開始。
今日は、木の葉の里の近くの村からの依頼だった。
山から動物が降りてきて、畑を荒らされるとの事。
其の動物を突き止める事が最重要。
「取り敢えずチーム組んで」
ツーマンセルを組んでの探索。
もちろん俺は…
「鹿丸!俺と組もうってばよ!」
「あ?んまぁ、いいけど」
他は佐助と桜、猪と蝶辞のツーマンセルとなった。
「トランシーバー渡しとくから見つけたら連絡する事、分かったかー?」
「佐助たちは南、猪たちは東、鳴門たちは西を頼む」
「「はぁい」」
「では、散!」
鹿丸と俺は西の方向の山に足を運ぶ。
のほほんとした空気。
嫌いじゃないよ?
てか、寧ろ落ち着くから好きかも。
「なぁ、畑の野菜を食べる動物って何だってば?」
「猿、猪、狸、犬、猫。
あの村は木の実も豊富に揃ってっから草食動物もいるだろうよ」
「やっぱ頭いいな鹿丸ってば!よく見てるし、すぐ答えが出てくる。
いいなぁ、欲しいなぁ…v」
「…鳴門?」
「あ、ごめんってばv」
よし、正体バラしてもらおうか。
まず何しようかな…。
手始めに…。
俺は片手で素早く印を結んだ。
「Σっ…!」
すぐ気付いたし…。
分身だけど3体程作ってみた。
すると、
「鳴門、俺ちょっと小便」
「ん?分かったってばよ」
そう言って森の奥へ消えてった。
「面白くなりそーだな」
鹿丸の後を追う俺。
もちろん、高みの見物でこっそりと木の上から眺めていた。
俺の分身に囲まれる鹿丸。
鹿丸からすればただの暗部。
ただ、暗部を前にしても動じない其の態度が逆に俺の遊び心に火を付けた。
(ちょっと遊んでやれ。傷、付けんじゃねぇぞ?)
((御意に))
「奈良 鹿丸、だな?」
「だったら何だよ」
「悪いが死んでもらう」
カチャリと鞘から刀を抜けば鹿丸の表情が一変した。
何時もの緩い表情とは真逆だった。
あんな顔するんだな。
「俺に喧嘩売るなんてな…」
鹿丸はポーチの中から巻物を取り出した。
そして、カリっと親指を噛み切れた傷口から流れ出る血を其の巻物を開くと同時に線を引くように…。
ボフン、と煙りの中から出てきた刀を見てロ端を持ち上げた。
何だ、彼奴だったんだ。
「行くぞ、朱羅…」
『何時でもよいぞ……』
今の声は…?!
まさか、あの刀喋れんの!?
すっげーな!!
鹿丸にもっと興味が湧いた。
(適当にやられろ、後は俺がする)
((御意…))
手を抜いているとは言え、鹿丸の攻撃で分身が煙りと共に消えれば鹿丸の顔が強張っていた。
「何処だ!何処にいる!?」
辺りを見回し、本体である俺を探していた。
そんな鹿丸を見ながら、チャクラ刀を右手に作り…
ーサッ…
瞬時に鹿丸の後ろに降り立ち、すぐさま首元にチャクラ刀を突き付けた。
「Σっ……!」
「まだまだだな、奈良 鹿丸。
心臓の音を察知すれば見つけられてたものを………………ってのはなしにして」
首元からチャクラ刀を離し、鹿丸が振り返るのを待った。
「……………な、ると…?」
俺だと分かった今、鹿丸は此れでもかって程目を大きく見開いていた。
「…どーして、」
「何が?」
はぐらかすような言い方をしてみた。
鹿丸が聞きたがってんのは1つしかないのにね。
「………………」
おー考えてる考えてる。
さぁ、答えが出せるか?
「今日のは全部、鳴門の仕業でいいんだな?」
「まぁね」
「…何で俺だったんだ。一番…」
「麻痺ってっから教えてやるけど、鹿丸お前、血の臭いしすぎ」
「Σっ?!」
一番、何?
狙われ難いキャラ演じてた?
キャラじゃ騙されない。
だって、俺も一緒だからな。
「案山子たちは気付かなかったが、もし牙がいたら気付かれてたな」
「何で牙なんだよ…」
「お前彼奴を其処ら辺の下忍と一緒にすんじゃねぇの。
犬塚家の奴ら犬並みに凄い」
彼奴の嗅覚は上忍以上だから。
俺も気付かれたし。
「鳴門…お前…」
「って訳だからさ、一緒に組まない?」
「…組むって?」
「ん?一匹狼なんだろ?翔赫」
「Σっ……何で知ってっ」
其の名を口に出して言えば、鹿丸の表情がまた強張る。
「俺が其の名前を知ってるのか、の理由についてはノーコメント。
自分の頭で考えな」
「…………………………」
ちゃんと答えが導き出せるか?
「…まさか、蒼翠、か…?」
「短時間の中で其の答えをよく出せたな?お前は本当にいい人材だよ」
何週間も前で覚えてるか微妙だったんだけどな。
「三代目から蒼翠の事を聞いた」
「爺に?」
変な事吹き込んでないだろうな…?
「忍の世界で、色んな意味で蒼翠を超える事は不可能だとよ」
色んな意味って何だコラ。
「一緒に組もうって鳴門は言ったが、今俺たちは任務でツーマンセルとして組んでるし、しかもさっきの事を考えたら蒼翠しか思い浮かばねぇ…」
本当、勿体ねぇ。
「実はさ、俺もまだ何処にも入ってねぇんだわ」
「暗部、でか?」
「嗚呼。わざわざ弱い奴らと仲間ごっことかマジ無理だしって思ってた訳。
あの日、お前を見つけた時、お前が欲しいって思っちまったんだよ」
ニヤリ、と笑みを零せば鹿丸は何故か顔を赤くさせていた。
「Σっ…!」
「…?大丈夫か?」
「…不意打ちとか、マジ勘弁…」
「??意味不明……
取り敢えず、日にち変わる頃執務室来いよ。話しは其れからだ」
「分かった…」
俺はもう鹿丸とタッグ組む気満々だけどな。
「じゃあ、任務の続きすっか!」
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