高銀←土
「何だよ、お前1人か?」
「俺が1人で来たら悪い?」
「否、悪かねぇよ」
人気のない、真っ暗ら倉庫の中。
俺は1人足を運んでいた。
其の倉庫には、俺を呼び出した張本人が既に待っていて、俺が1人で来たのが分かるとニヤリと笑っていた。
「お前の事だから、誰か一緒かと思ったんだけどよ…」
「何言ってんだよ…1人で来いっつったのはお前だろ?高杉」
高杉に近付いた。
此奴は、俺が1人で来る事を知ってた。
俺が誰かを巻き込む事が出来ないって、知ってるから…。
傍まで行くと、高杉は俺を抱き寄せた。
「其処がお前の甘めぇ所なんだよ」
自分でも分かってるよそんなもの。
自分でも分かってるからこそ、彼奴らを巻き込む事が出来ない。
俺1人の事だって分かってても、彼奴らは絶対関わってくるから…。
自分1人で背負うなって、絶対言ってくるから…。
「銀時、お前は俺のモンだ。誰にも渡さねぇ…」
俺は誰のものでもない。俺は俺のもの。
でも、彼奴らを守れるなら、俺1人の決断で守れるとするなら、俺はお前のものにも何にでもなってやるよ、高杉。
「そんなに俺の事好きなんだ?」
「ああ?」
当たり前だろ?みたいな顔で、高杉は俺を見た。
此奴が此れから俺に何をするかは分かりきってるよ。
誰の目も触れない所で俺を外へも出さないで、俺を縛り付けるんだ。
お前と言う人間にしか一生会わせないように、お前以外の人間を愛せないように。
お前はそんな人間なんだよ。
「此処に俺1人で来たんだから、約束は守れよ高杉…」
すると、いきなり倉庫の扉が開き、俺と高杉は其処に目を奪われた。
逆光で誰だか判別がつかない。
俺たち2人はただ、其奴が誰なのか顔の判別が出来るまで待つしかなかった。
コツン、コツン、と近付くにつれ、其奴が誰なのか、次第に分かってきて俺は目を見開き、高杉は眉間に紫波を寄せた。
「っ…トシ…?」
「…」
何で此奴、こんな所に…?
俺は、全部…捨てる気で此処に来たのに…。
何で来るんだよっ…!
「誰かと思えば、政府の犬っころじゃねぇか」
「高杉っ!」
高杉はトシの顔を見て、嘲笑ってた。
何しに来たんだって、そんな顔で嘲笑ってる。
「銀時、テメェ何してんだよ!」
「…っ」
何してんだよって…お前が何してんだよっ!!
俺は、俺は…俺だけが犠牲になればいいと思ったから…。
お前たちを巻き込みたくなかったから…。
首を突っ込んで、お前たちを死なせたくなかったから…。
だから、1人で来たのに…意味がないじゃないか…。
「其奴に何言われたか知らねぇが、お前は其れでいいのか?
新八は?神楽は?彼奴らはどうするつもりだ?」
いい?そんなのいいに決まってる。
俺が自分で判断して此処に来たんだから。
だから、いいんだよ。
新八も神楽も、俺と関わってたら高杉に何されるか…。
涙が出そうになるのをグッと耐えて、俺はトシを見た。
「何?高杉に何か言われたんじゃないよ、俺が自分から高杉に来いって言ったんだ」
「銀時っ…テメェ」
「…」
何とでも言えばいい。
そうやって俺を幻滅すればいい。
俺は汚い人間なんだって、其の頭に記憶してればいい。
「犬っころ。テメェも此奴に惚れてんのか?」
「あぁ、惚れてる。だから、取り戻しに来たんだよ」
「ふっ…聞いたか?銀時。
此奴、お前に惚れてんだってよ」
トシの言葉に鼻で笑い、俺の顎を掴んだ。
「俺は、高杉が好き…」
「だとよ。悪りぃな、此奴は俺のモンだ…」
そう言って、高杉は絡み付くようなキスをしてきた。
始めから濃い、キス。
「…っ!?」
俺も其れに応えるように高杉の首に腕を巻き付け、其れを受け止めた。
人前でこんなキスをするなんて、其れもトシの前でなんてとんだ屈辱だ。
だけど、此れも彼奴ら、トシたちを守る為なんだ…。
「んっ…ぁ…ふ、ぁ…」
泣きそうになるのを耐えるのが、こんなに辛いなんて初めて知ったよ。
本当は、高杉のモノになるのは嫌な筈なのに、其れも高杉自身分かってる筈で、俺が此奴らの為に泣きそうになってるのも全部お見通し。
「銀、と…きっ…」
トシの其の声が胸にグサリと突き刺さる。
ゴメンねトシ…。
俺、こんな形でしかお前たちを守る事しか出来なくて…。
「…ぅ…んぁ…っ」
そう思ったら、急に涙が溢れた。
ずっと、ずっと耐えてたのに意味がない。
こんなに脆いなんて…。
泣いてるのが分かってても、其れでも高杉は唇を離してはくれなかった。
目から零れる涙も、何もかも全部分かっていながら、高杉は心の中で笑ってる。
「くっ…!」
ゴメン。
ゴメンねトシ。
漸く唇を離してくれた。
俺は其の侭、トシに泣き顔を見られないように高杉の肩に顔を埋めた。
「残念だったな犬っころ。
折角此処まで来たってのに、無駄足だったな」
そして、高杉とトシの間の倉庫の天井がいきなり崩れ落ち、瓦礫と砂埃が立ち上る。
スローモーションだった。
瓦礫が落ちる音がゆっくりと俺の耳に響いていた。
「行くぞ銀時」
高杉は俺を抱き上げて、其の瓦礫を登って行った。
倉庫の頭上には高杉の仲間が乗ってる船がいて、其れに乗り込んだ。
「案外、素直に来たで御座るな。坂田 銀時」
「煩い…」
「止めろ万斉。お姫さまは今、ご機嫌ななめだからよ」
「お前も煩い…」
「ククッ」
喉を鳴らし、俺を抱えた侭高杉はスタスタと奥へ歩いた。
ずっと顔を上げてないし、船の何処かなんてさっぱり分かんない。
「着いたぞ」
中へ入った高杉は、部屋の床に俺を下ろした。
「…」
見渡した部屋の中は、和風。
何処かの遊郭みたいな綺麗な作り。
「なぁ銀時…思ってもねぇ事言うんじゃねぇよ」
隣に座った高杉からそんな言葉。
あぁ、倉庫でトシに言った言葉ね…。
「あんな所で助けてなんて言えばよかった?」
そんな事言ったら、絶対追い掛けてくるじゃん。
俺を取り戻しに、高杉を殺しに来るじゃん。
其れは駄目。
「其れでもいいじゃねぇか…其の方が少しは楽しめるだろ?」
「あれは、嘘じゃないよ…」
「ああ?」
「俺は、高杉の方が好き」
「俺の方が好き、ねぇ。
あの犬っころの事も少しは好きなのか」
「高杉にはない優しさがあるからね」
「ククッ、鬼の副長と言われるあの犬っころもそんな一面があるとはな」
喉を鳴らしながら笑う高杉を押し倒した。
馬乗りになる形となって、上から高杉を見つめた。
「彼奴の話はもういいから…」
「…」
其の高杉は、唇の端を持ち上げて妖しく目を細めた。
そして、上半身を起こした高杉に反対に押し倒された。
「此れから着物の下の服は着るな」
言いながら着物を脱がされ、中に着てる服も脱がされてあっと言う間に素っ裸になった。
「あ、んっ…」
首筋に這う高杉の舌。
胸の突起を弄る指。
全てが久し振りで俺の興奮剤となっていた。
トシは好き。
でも、高杉はもっと好き。
嘘じゃなく、本当の事。
だけど、俺だけ我慢してたら皆は助かる。
「いい声で鳴けよ?」
だったら、守り抜くだけ。
此奴から離れられなかった俺の責任だから…。
だから、どうか追って来ないで…。
End...
[ 2/5 ]
[
*prev] [
next#]
[
しおりを挟む]