高←銀←土

 
夕方の、橙色した空を眺めながら俺は堤防に腰かけて夕陽を見つめていた。

「………何でこうなっちゃったんだろうねぇ」

思い浮かべた顔が、ふと笑う。
そして、口元が弛んだと思ったら音が出ない映像で、其奴は「銀時」って言った。

昔に戻りたい。
攘夷志士の時に…また一緒に……
また、名前…呼んで欲しい…。

テメェの、顔に似合わない優しくて甘いキスが恋しくて堪らないんだよ…。

「…………高杉」

どうして俺たちは別々の道に走って行ったんだろうか…。

否、違う。
去って行ったのはテメェだ。
テメェは何も言わずに俺の前から消えた。
さよなら、も言わずに去って行った。

「…………」

俺はテメェの事、物凄く…す……

「万事屋?」

声をかけられて後ろを振り向いたら、其処にいたのは真撰組の副長さんだった。
よく見れば、隊服は着てないから今日は非番なのかな?

「多串くんどーしたのよーこんな所で、散歩?」

「………」

無言の侭、睨まれた…。

どーしてそんな怖い顔するのよ…。
銀さん何か変な事でも言ったか…?副長さんは何も言わずに堤防に登ってきた。
黙った侭、俺の隣に座って、煙草を吹かす。

「ふぅ…何か、嫌な事でもあったのか…?」

「え…?」

「泣いてんじゃねぇか」

そう言って多串くんは頬に伝う涙を指で拭ってくれた。

ってゆーか、泣いて…?

久しぶりに高杉の事思い出したからね…想いが高ぶっちゃったのかも。

其れにしても、多串くんがこんなに優しくするのが似合わないなんて…。
人間って不思議だなぁ。

「テメェも泣くんだな…」

「ちょっとぉ、多串くん其れはないんじゃない?
仮にも一応人間だからね?俺!銀さんのハートは脆いんだから…其りゃ、泣く事だって…あるよ」

ヤバいなぁ…また泣きそうだよ…。
人前で涙を見せるなんて、高杉以来…かな。

こんなに優しくされたら、また高杉を思い出すんだって…。

彼奴は何時も酷くて、優しさの欠片もない奴だったから。
でも、俺を抱く時は、酷く優しくて…こそばゆくて、大切にされてるって感じてた。

だから…日頃酷くされても、彼奴が大好きだった。

「万事屋…」

あれ、多串くんってこんなにキモいキャラだったっけ?

「……え、多串くん?」

突然、多串くんに抱き締められた…。

「ちょ……何、して……//」

さっきから予測不能な行動ばっかりなんですけどー!?
銀さん凄く頭がパニックになってるんですがっ!!
今、絶対顔赤いよ俺!!

「テメェにゃ涙は似合わねぇ」

「…多…串くん//」

「俺なら、絶対泣かせたりしねぇのに…」

何…此の状況は…?

フラレた友達を慰める…
そんで内に秘めた想いを………っていやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいや…。

違うでしょ俺!
友達じゃないし此奴!

敵じゃねぇ、か…。

俺の心を盗んで離さない、彼奴の敵だろーが…。

「ちょっと多串くん…
えっと、此れは一体何の冗談かなぁ…?
銀さん、からかわれてるとしか思えないんだよね…
つーか、多串くんがそんなキャラだったなんてって、ちょっとビックリしてるんだけど………ってそうゆう事じゃなくて!
じょ、冗談だよねっ?////」

抱き締められた腕に力が入って、ちょっとだけ痛い…。

「冗談なんかじゃねぇよ…」

「……////」

「テメェの心を占めてる奴がいても構わねぇ…
其奴の事が泣く程好きでも構わねぇ…」

「………………………
ねぇ、其れ愛の告白にしか聞こえないんだけど…銀さんの思い違い?そうだよね、うん、きっとそうだ…!
多串くんがそんな、男に興味あったなんて…しかも銀さんを、ね…ビックリなんだけ…ど…////」

腕がゆるんで、そして、真面目な顔をした多串くんと視線がぶつかった。

「俺はテメェが好きなんだよ」

愛の告白されちゃってるよ、俺。

真面目な多串くんの顔が面と向かって見れなくて、顔を反らした。

「っ…だ…ダメだよ…俺、情けない奴だし…////」

「其れがお前だろ?」

「そ、そうだけど…」

俺は高杉の事が忘れらんなくて…メソメソして…

「彼奴に、未練タラタラの、タラタラで…ちっとも…忘れ…らんなく、て…」

今ならはっきり分かる。
涙が溢れてる。

夕陽が涙で歪んで見えるから…。
きっと、凄く情けない顔してるんだと思う。

「…」

どんなに離れてようが、俺の頭の中は彼奴一色。
彼奴は、俺の中で一番…大きな存在だったから…。
昔も、今も…。

「ゴメン…でも、やっぱり忘れら…んな…い…よっ…!!」

本当に、本気で好きだったから…。
今も会いたいって思うし、抱いて欲しいとも思ってる。

そんな俺を好きになっても、多串くんが悲しむだけだから…。

「俺が其奴を忘れさせてやる…テメェには、笑ってて欲しいんだ」

「…ぇ…?」

多串くんから信じられない言葉が…。
其れを聞いて、俺は自然と多串くんの顔を見ていた。

「お前にそんな顔して欲しくねぇんだ」

そんな言葉をかけないでよ…

「俺じゃ…ダメか?
其奴の代わりになれねぇのか?」

なんで俺な訳?
真撰組は女なんて腐る程寄って来るでしょ?
副長さんにもなれば数だって半端ない筈なのに…。

「好きな奴がいてもいい…けど、俺は笑った顔したお前が好きなんだよ」

「狽チ……」

心が、揺らいでる。

多串くんを、格好いいって思ってる自分がいる…。

「こんな…こんな俺で、いいの?」

未練タラタラで
多串くんより年上だし
可愛くも綺麗くもないし

「俺はお前がいい」

「彼奴が俺の前にやって来て、より戻そうって言ってきたら…多串くんフっちゃうかも、しれないよ…?」
「其奴が来る前までに俺が忘れさせてやる」

だからもう泣くな、ってそう言って多串くんは俺をまた抱き締めた。

「俺色に染めてやるよ」

其処まで言うなら、多串くんのモノになってあげる。

でも、此れだけは聞かせて…

「…ねぇ、多串くん」

「何だ」

「急に消えたりしない?」

「しねぇよ」

「何も言わずに、俺の前からいなくなったり、しない?」

「する訳ねぇだろ」

また、同じ目にあいたくないんだよ。
多串くんを信じるから、だから…

「…じゃあ、いいよ。
銀さんを、多串くん色に染めて…俺から彼奴を忘れさせて…」

多串くんを見つめて、自分からそっとキスをした。

ほんのり香る煙草の匂いに、また彼奴を思い出した…。





End...

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