散歩と老人

 
グラウと外を歩いていた。

目は包帯グルグ巻いてんのに、よく見えるなって思わず突っ込みたくなる程、グラウは初めてのモノに興味を出していた。

〈マスター!あの動く乗り物は何ですか!?
あの箱に人間が入れるのですか!?
あれは!?〉

車、電車、飛行船、テレビ、パソコン。
目に映るモノ全てに小さな子供のようにはしゃいでいた。

質問する度に、念で文字を出す。
其れにしても俺と鹿丸は異世界から来たから初めてのモノに興味はあったが、グラウは何故こんなに知識がないのか不思議だった。

死んだって言っても、俺たちみたいに異世界からって訳じゃなさそうだし。
念使えるだけあって此の世界なのは確か。

〈マスター、どうかしましたか?〉

「グラウ、お前って死んだの何年前だ?」

〈…えっと、記憶が正しければざっと200年くらいです〉

サラッと言ったグラウに頭を抱えた。

そら車やテレビなんかはない時代だな。
つか、200年前でも念は使えてたのか…?
其処にかなり驚くんだけど。

「其の時何してたんだ…」

〈私は生きた生贄でした〉

生きた生贄って何。

「どうゆう意味だ…」

〈国の為、長の為に身を持って御守りする事が私たち生きた生贄のすべき道でした。
言い方を変えれば、戦闘用の奴隷みたいなモノです。
お金で買われた人間が生きれる道は1つ。
必死にしがみつく事で、生きてこれたと思います。
でも実際、其れが嫌になって身を投げたのですが成仏出来ずに彷彿っていたのですけど…〉

まともな生活は送ってはなかったろうな…。

〈あ、因みに長の夜のお相手もしてました!〉

「其処はいらねぇだろ…」

〈え?そうですか?〉

夜のお相手って事は、其の、アレだろ?
えっと、ニャンニャン的な?←

俺と鹿丸は恋人だから、其らラブがあるけど…。
グラウと長はどうだ?
国の長と生きた生贄なグラウの間にラブがあったかどうか…。

普通はねぇよな…。

〈長はもうすごかったですよ♪〉

な に が ? ! ←

つか、本当にいらねぇから其の情報!!

「他人のそんな話聞きたくねぇんだけど…」

〈マスターはしないのですか?〉

「何をだ…」

〈そんなのセック…〉

言葉が分かっていたからか、俺はグラウの念で作り出した言葉を遮った。

「皆まで言うな!!」

〈アレ…マスター何だか顔が赤いですよ?可愛い♪〉

からかわれてる…!!!

「煩いぞ!ったく…変な事言うと消すぞ!?」

〈ああっ其れは嫌ですよっ!!
まだ見たい所がっ!!〉

焦り出したのもつかの間、グラウはすぐ穏やかな表情をしていた。

〈マスターと出会えたのには何か意味があるのだと思います。
なので、マスター?私を使って下さい〉

急に何を言い出すかと思えば…。

「俺はさ、能力が言葉を理解したり発したり自ら行動が出来ないなら、使っていいとは思った」

〈…マスター…では、私は…〉

口がへの字になり、暗くなったグラウに苦笑いを零す。

「最後まで聞けって。
普通は自分の能力なんだから使って当たり前だろ?だけどお前は違う。
自分の足で言葉で行動出来るなら、使うじゃなく此れは契約だ」

〈…契約…?〉

「そう、契約だ。
呼び出した時は何かを手伝ってもらう時。其れで構わないなら、俺と契約しろグラウ」

〈マスターのお役に立てるなら、私は頑張ります!〉

「ふふ。お前が成仏出来るまで、其の器にいればいい。
霊ってのは必ず何時かは成仏する。
其の時が何時かは分からない。
だけど、そんなの考えたって仕方ねぇじゃん?」

だからいっその事、

「お前が成仏するまで、一緒に楽しもうぜ?」

返り咲きしたんなら、生きてた頃に楽しめなかった分、今を楽しめばいい。

〈…はい!〉

其の後もグラウの好奇心は絶えなかった。
見るモノ全てが新しく、ハイカラなんだと。

食べ物も食べれるらしく、アイスを食べた瞬間、冷たかったのが衝撃的だったのかちょっと興奮してた。

「満足したか?」

〈はい!ありがとうございます!マスター……〉

「グラウ?」

急にグラウが立ち止まった。
其れに、クンクンと辺りの匂いを嗅いでいる。

〈死の匂い…〉

「…死?」

〈彼処にいるお爺さんから匂ってきます…〉

グラウの目の先にいたのは、息苦しそうにしてる爺だった。
信号待ちしている所なのか地面に座り込んだ姿が目に入る。

「死ぬのか?」

〈死に近い者から漂う匂いです。
未来、死ぬような出来事が起こる前触れと言うモノです。
でも、回避も出来ます…〉

回避…。
助けたり?

俺は絶対しないな。
鹿丸やゴンたち以外どうでもいい。
だから、あの爺さんが此の先どんな事が起きて死のうが興味がない。

其れに今日の出来事全てがあの爺さんのした事なら、其れは爺さんの運命なんじゃないかって思う。

だけど、グラウはそうじやないらしい。
爺さんを心配そうに見つめているのを、隣にいて無視は出来そうにない。

「グラウは?」

〈…はい?〉

「あの爺さん助けたいのか?」

〈…出来るなら…〉

生きた生贄であったグラウ。
自分が死んでる事を棚に上げて、人の死、未来を変えたいと…?

ゴンなら見つめる前に体が動いてるか…。

「…今回だけだからな」

〈Σっ…マスター!〉

爺さんに近付いた。

「大丈夫か?どっか痛いか?」

「…く、薬…!」

爺さんのカ鞄に入った薬を取り出して其れを飲ませてやれば、少しは呼吸が安定してくる。

「近くに病院があるか分かるか?」

〈マスター、あっちにあります!〉

爺を担ぎ上げ、其の病院へ向かった。
多分、あの爺さん心臓が悪いんだろうと思った。

其れから病院へ爺さんを連れて行くと、すぐに手術しなければならない程、悪かったらしい。

「君、此のお爺さんのご親族かい?」

「いや」

〈私たちは通りすがりです〉

あの爺さんの主治医が偶々此の病院にいるらしく、連絡したら待ってもらうよう伝えられた。
早く帰りたかったのに…。




















手術が無事終わり、俺たちは爺さんの病室にいた。

目が覚めるまで少し時間はかかったが呼吸も安定し普通に会話も出来ている。

「本当に助かったよ。ありがとう」

「大した事じゃない」

「いや、私にとっては大問題だった。
元々心臓が悪くてね。あまり外を出歩かないよう言われていたんだ」

〈どうして外に?〉

「魔が差したのかな…部屋の中にこもってばっかりだったから」

穏やかな表情を浮かべる爺さんは、続けてこう言った。

「お礼と言っては何だが、私のコレクションの1つを譲りたい。
此の年になって、もうアレは私が持っていても仕方がない。
今私の家族が其れを持って向かってるから遠慮なく受け取ってくれたら私としても嬉しいよ」

病室も此の病院で一番いい部屋らしく、此の爺さんはどっかの金持ちなんだろう。

しかし、コレクションって言っても色んなのがある。
まさか、恐竜の糞の化石とか?

本当に其れだったら何処に捨てよう…。←
いや、オークションで競りにかけたほうがいいか。

「お父さん!」
「お爺ちゃん!」

勢いよく開かれたドアから、気品ある夫人と子供が部屋に慌ただしく入ってきた。

「こちらの方ですか?お父さんを助けてくれた方と言うのは!」

「お兄ちゃんたちありがとう!」

「いや、別に…」

そして、爺さんが言ってたコレクションを手渡され、固まった。

「此れはっ」

「当時58億だった品物だ。運よく手に入れたが此の先長くない私にも家族にも、持っていても何の価値もないモノだから」

「…こんな高価なもんもらっていいのか?」

「命の恩人に安物でお礼出来ないよ。
オークションにかけるなり、好きにしてもいい」

此れは願ったり叶ったりだな!
こんな所でこんなモンをもらえるとは!

グラウの言う事聞いてよかったぜ!!
 

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