お手と再出発 鹿丸side
「よくやったもんじゃな…」
「ミケが俺たち以外に懐くとは」
いや、だから懐くっつーより寧ろ支配されてんの。
此処10日、鳴門はミケと戯れていた。←
追いかけ回してミケに恐怖を与えて鳴門と言う存在を教え込ませる。
怯えながら逃げ回るミケを楽しそうに追いかける鳴門がいた。
途中、当たらないようクナイとか投げてたけど…。
2日目、3日目になるにつれ、ミケは鳴門の支配下になっていった。
犬をペットとして飼ってる奴なら誰しもやった事があるだろう。
そう、取ってこい、だ。
普通ならボールかオモチャなのだろうが鳴門の場合は違った。
本当に小さな鉄の球を、放り投げミケに取って来させる。
臭いも分からないようにして、其れはもう徹底的に。
少しでも持ってくるのが遅かっただけでも許さなかった。
そうして付いた恐怖からの服従。
「よし、次は三回回ってワンだ!」
「ガルル…?」
「…やれ」
「Σっ…!」
「…出来ないなんて、言うんじゃないよなぁ…?」
「…っっっ」
鳴門、やり方くらい教えたれ…。
番犬の脅威は何処いった。
ミケちょっと涙目だぜ…?
「よかったのぉミケ。鳴門が遊び相手になってくれて。ミケも喜んどるわい」
「本当だね。初めて見る顔だよ」
「いや、どっちかと言うと逆だって…」
静かに突っ込む俺。
ゼノの爺さんやイルミ、何処をどう見てミケが喜んでるように見えんの?
「三回回ってワンくらい覚えてろ!
お前は言葉理解出来ねえのか!?あ!?
三回回ってからのワンだ!やれ!」
てか、もう必死だなミケ。
涙目で三回回ってからの…
「ガォ!」
「ワンだ!」
犬じゃねぇんだから、其処はガォでもよくね?
「ワン、言ってみろ」
「…ガォ…」
「…ワン」
「…っガォ…」
「テメェ、舐めてんのか?」
「Σっ!!」
可哀想な事に、あれからずっとミケはワンと言うまで言わされ続けていた。
半月が過ぎた頃。
ミケは見違えるように、鳴門に絶対服従と化していた。
「よし、三回回ってワン!」
「…ワン!!」
「いいぞー!よし、次は取ってこい!」
毎日同じ技を繰り返す中俺は何時ものように傍らでミケの安否を祈りつつ、木の上で仮眠を取っていた。
すると、サッ、と現れた己の分身。
「ゴンたちが試しの門を開けた」
「そうか…」
ゴンの腕も治ったらしく、今は執事室へ向かっているらしい。
レオリオが2の扉まで開けるとは意外だな。
「キルアもこちらに向かってる」
「…分かった」
また分身はサッ、と姿を消した。
「鳴ー」
「次はいよいよ、お…ん?」
「ゴンたちが試しの門クリアしたってよ。
キルアもこっち向かってる」
「…ミケ、待てだ」
「ワン!!」
既に犬と化したか…。
「…鳴門と鹿丸だ!」
執事室へ行く途中に待ち伏せていた俺ら。
ゴンたちと合流した。
「鳴門たちは今まで何してたの?」
「手懐けてた」
「手懐けてた?何だ其れ…」
「…まさか、ミケをか…?」
「そうだけど」
信じられない、そんな顔をしてる。
無理もないか…。
「呼んでやろうか?直ぐ来るぜ?」
ピィーーー、と指笛を吹く鳴門。
そして、5秒とせずミケがやってきた。
「本当に、来た…!」
「マジかよ…」
「どう手懐けたのか気になるな…」
鳴門の前に座り、伏せの状態。
其のミケの頭を鳴門は撫でていた。
「どうして仲良くなろうと思ったの?」
「仲良くじゃねぇだろ!」
「楽しそうだったから」
「…え?」
「だって、ゾルディック家の人間にしか懐いてない番犬だぞ?
ヒマだったし、何より楽しみだったから」
「楽しみ?」
「芸を教え込ませるの」
「そんな発想鳴門以外思いつかねぇって…」
「あの番犬見てそう思える鳴門が凄いな…」
言えてる。
「よしミケ!特訓の成果をみせてやれ!」
伏せの状態だったミケが、鳴門のかけ声により素早く立ち上がる。
「お手!」
左前足を鳴門の掌に。
「おかわり!」
右前足を鳴門の掌に。
「三回回ってワン!」
「…ワン!!」
端から見れば、ちょっとデカい普通のペットだな。
ゴンたちは芸がちゃんと出来る度、拍手を送っていた。
「宙返りだ!」
ジャンプした反動でクルリン、と一回転。
「バーン!」
ミケは大股開いての死んだフリ。
其れからミケの芸はまだまだ続いた。
何時の間にそんだけ覚えさせたのかと疑問に思うが、まぁ鳴門が楽しめたなら俺は其れでいいっちゃいいんだが。←
「凄いね鳴門!」
「此れだけの芸をよく覚えたな…」
「全くだ。其れだけミケが鳴門に心を開いたと言う事だな」
違う。
無理矢理開かれたんだ。←
恐怖と言う恐怖を与え続けた結果が、此の絶対服従だ。
つくづく思うよ。
ミケも運が悪かったって。
「…可哀想に」
ミケの芸を見ていると、キルアの気配がすぐ傍までやってきていた。
そして…
「お、いたいた!」
「キルア!」
「お前ら執事室に来るんじゃなかったのかよ」
「行こうとしてたんだけどね?鳴門が…」
「つか、ミケお前、此処で何してんの?」
ミケの存在に気付いたキルアはミケに近付いた。
そして、ミケを普通に撫でていた。
「今ゴンたちにミケの技を見せてた所だよ」
「…は?芸?」
今までミケは番犬としての役目があり、芸を教え込ませる事は誰もやって来なかった。
いや、やる必要がなかったんだよな。
番犬であって、可愛がって遊び相手になるよう飼ってる訳でもないからな…。
「此処に来た時、ゾルディック家以外の人間に懐かないって聞いてやる気が出たらしい…メンドクセェよな」
「よく懐いたな…」
「知ってるか?人間に限らず、恐怖心は中々癒せないもんだ。
与えた相手に嫌でも刃向かえない」
そう言えば頭の回転が早いキルアは直ぐに理解したらしい。
大きな溜息を付いていたから。
「止めろよなぁ…使い物にならなくなったらどーしてくれんだよ鳴門」
「心配するな、問題はない。
芸も可愛さの1つと思えば、楽しいぞ?」
「いや、別に可愛さは求めてねーし…」
普通の人間からしたら、馬鹿デカい獣なのだろうが、鳴門からしたらただの動物にしかない。
だから、人間様々俺様な鳴門にとって反抗や牙を向くなんて事は絶対に有り得ない事で、地獄を見る事となる訳だ。
「つーか、早く行こうぜ?母さん煩いから何処でもいいから行きたいんだけど」
「あれ…キルア、スケボーは?」
「嗚呼、使わないからカナリアに預けてきた」
門へ向かう俺たちの後ろをゆっくりミケもついてくる。
待てって言われてないからか?
「ミケ、俺の顔忘れんじゃねぇぞ?」
「其れは大丈夫だろ」
忘れたら、其りゃもうミケが大変だろうからな。
「お手」
「ワン!」
鳴門は今までになく優しい顔で、ミケに近付き、寄ってきた顔を抱き締める。
「またな、ミケ」
ゼブロのオッサンにも別れを告げ、俺たちはククルーマウンテンを後にした。
クラピカとレオリオは此処てお別れ。
クラピカは同胞の緋色の瞳を探すべくコネを探すそうだ。
レオリオは医者になる為猛勉強するとか。
「じゃあ、また何処かで」
「嗚呼」
「元気でね!」
さて、次は何処に行こうか。
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