黒幕一護

 

――――闇…。


こんな響きのいい言葉は他にはないよ。

ねぇ、此の世の全てを真っ暗な闇で埋め尽くしてやらない?
恐怖や絶望で平伏す死神を見てみたいと思うでしょ?

屈辱で歪む顔とか、助け乞いする死神を嘲笑いながら、苦しもがく様を此の目で見たら、ゾクゾクしちゃうよね…v

そんな世界を作ってさ、俺たちの楽園を作りたいんだ。
邪魔者がいない、そんな世界。

きっと、毎日が楽しいよ。














大きさの違う画面が何個も設定されているモニター室。

其のモニター画面を見つめるのは犯罪者として虚側へついた藍染 惣右介。

カツカツカツと、藍染に近付く足音。

「一護かい?」

「惣右介」

そう呟き、橙色の髪の少年、黒崎 一護は後ろから藍染の首に腕を回し、抱き着いた。

「また観賞?」

「此れも大切な事なのだよ」

クスクスと笑いながら、回された腕に触れる。

「ふ〜ん…」

モニターに映る仮面の軍勢のアジトや尸魂界や現世にいる死神たちの姿が映し出されていた。
仮面の軍勢のアジトでは一護と瓜二つの少年が斬魄刀を振り回している姿も…。

「其れにしても、別に鏡花水月使わなくてもよかったのに…」

じっとしてるとつまんねぇ、そう言って口を尖らせた一護。

「ダメだよ一護…」

藍染はクルリ、と椅子を回転させて一護の体を抱え、膝の上に座らせた。

「キミの体に傷が付いてしまうじゃないか」

見てご覧、と仮面の軍勢のアジトが映る画面に指を指した。

修行だの何だのいい様に殴り蹴られしている。
其れらを見ながら、藍染は怒りを覚えていた。

「私の一護を…例え鏡花水月であっても許し難いよ…」

「あっちの方がまだマシだけどな…」

「何か言ったかな?」

「何でもないよ。でも、こうしなきゃダメなんだろ?」

「其れも致し方ないんだけどね…」

「しかしなぁ、かなり退屈してるんだけど…?」

一護は拗ねたように口を尖らせた。
其れを見て藍染は一護の頭を撫で、クスリ、と笑った。

「心配はいらないよ一護。
キミにはとっておきを残しているから、そう拗ねる事はない」

「本当に?」

「あぁ、本当だよ。キミが傷付かない方法でもあるし、キミも存分に楽しめる」

「もう邪魔しても宜しおすか?」

藍染でも一護でもない声がモニター室に響いた。
姿を現したのは狐顔の男、市丸ギンだった。

「ギン、何で隠れてたの?」

ギンは一護の問い掛けに、深い溜息を付いた。

「はぁ…そら、一護ちゃんたちの邪魔せんようにしとったんですよ。
せやけど、こっちも任務やからね」

「悪かったねギン。
ウルキオラたちに、任務だと伝えてくれるかい?
前に話した内容通り頼むよ」

「はいはい。ほな、2人ともごゆっくり楽しんでや」

そして、ギンは瞬く間に姿を消してモニター室には藍染と藍染の膝の上に乗る一護の2人となった。

「ねぇ、惣右介。今回は何をするの?」

「今回はね、ちょっとだけ死神たちに悪戯をしようと思ってね。
ウルキオラに頼んだ任務が終わってから、一護、キミの出番だよ」

「本当に?楽しみだなぁv」














今回の任務。
ウルキオラ・シファーが尸魂界へ向かい、井上 織姫を拉致する事だ。

現世にも破面を数体送り込み、死神の目をそちらに向けさせる為。

無論、死神たちは現世に現れた破面に気を取られてしまい、破面の時間稼ぎとも知らずに戦ってしまう…と言う事となる。

其の隙にウルキオラが織姫に接触をし、言葉巧みに誘い込む。
どんな手を使おうが、其れはもうこちら側は悪なのだから、手段は選ばない。

藍染も破面たちも、一護が楽しめる状況を作り出す事に精を出しているのだから。














虚夜宮、玉座の間。
仲間を守る為、1人犠牲となって虚圏にやってきた織姫は、藍染 惣右介を始めとする尸魂界を裏切った市丸 ギン、東仙 要、1〜10の数字を持つ十刃に囲まれていた。

「よく来たね織姫…歓迎するよ」

強張った表情の侭、藍染のいる玉座に視線を向けると、藍染と同じ場所にいた一護を見て織姫は目を見開いた。

「…く…黒、崎く…ん?
何で此処に黒崎くんが、いるの…?」

何時もの死神の黒い死覇装ではなく、白い死覇装を着ている一護の姿だった。
普通なら、目は黒いのだが、一護の場合、白い所は黒かった。
一護が虚化した時のように…。

「久し振りだな…井上」

一護の表情は今まで見た事もないぐらいに冷たくて、見つめられる其の目に震えが止まらない程の恐怖を感じる。

現に、織姫は両腕で自身を抱き締めながら、カタカタと震えていた。

「何で…黒崎、くん…」

どうして此処にいるのかと。
貴方は死神ではないのかと。
貴方は仲間ではないのかと。

そんな言葉を込めた視線を一護に送る織姫。
だが…一護は笑みを零した。
訴えが分かったからこそ、そんな織姫が可笑しくて仕方がなかった。

そう、勝手に仲間だと思い込んでる織姫に対して。

「井上、知ってるか?
破面にはヴァストローデ級より、十刃より上がいるんだよ…」

「…ぇ…」

「其れは王だ。
虚夜宮の王、破面の親玉であり破面wの、此の俺だ」

口端を持ち上げて目を細めて笑うが、其れも織姫にとっては恐怖にしかならなかった。

「な、んで?黒崎くんは…人間…でしょ…?」

「俺はとっくの昔に死んでるぜ?母さんと一緒にな」

「っ…!?」

「死んだ時から俺はずっと破面であり王だったんだよ。
死神は最初から敵だったんだよ、殺したいぐらいに憎い敵だ…そう、敵」

そう言うと、一護は織姫のいる所へと飛び降りた。

「っ…」

「井上…お前は何の為に此処へ来た?」

「!…っ」

一瞬だけ、目を見開くが織姫はゆっくりと決意をしたかのような顔で一護を見据えた。

「あたしは王の為に、此処へ来ました…」

「いい子だ織姫…」

スゥ、と織姫の頬に手を添えて一護は目を細めた。













其れから、織姫は部屋に連れてこられて渡されていた白い死覇装に着替えた。

「…」

目を閉じていると、今までの一護が脳裏に浮かぶ。

学校の時、修行の時、尸魂界の時、仮面の軍勢のアジトの時…。

強くて、正義感があって、仲間を大切にして、何時も助けてくれて、守ってくれた。

「…嘘…だと、言ってよ…」

そんな一護が、人間じゃなくて破面だった…。
其れに私たちの敵だった。

織姫にとっては、かなりのショックだった。

―ギィイ…

其処へ、部屋にウルキオラが入って来た。

「女」

「え、あ…はい…」

「一護さまに迷惑をかけるではないぞ。
例え捕虜であったとしても、殺す」

冷たい目を向けられた織姫は、顔を反らしてしまった。

此の虚夜宮では、一護は絶対的な存在。
其れを知らしめるかのように…。




あの後、ウルキオラは部屋を出て行った。

「…」

皆を守る為に、1人犠牲となったのに…。
あんな恐い一護を見るのも初めてたが、目を合わせただけで恐怖を感じさせた一護。
あの目を思い出すと、またカタカタと震え始めた。

「無理…だよ…」

十刃よりも上で、王の一護に、死神たちが敵う筈がない。

震える体を抱き締めて、織姫は助けが来ない事を願った。

「お願い…来ないでっ…」














織姫の願いは叶わず、織姫を助けに死神たちが虚圏へと乗り込んできた。

「来たね…」

「どうするんだい?一護、行ってくるかい?」

「もちろん行くよ。
こんな面白いシチュ見逃せないってv」

「あまり無理をしてはダメだよ?」

「分かってる。じゃあ、また後でね」

チュッ、と藍染にキスを送り一護は部屋を後にした。














藍染の鏡花水月と上手く入れ替わり、一護は笑みを零した。




さぁ、まだ終わりじゃない。
始まったばっかり。

本当の恐怖を死神たちに与えてあげるから、楽しみにしておいてよ。






End...

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