牛島選手の追っかけを辞めたい。 | ナノ

06



「は?キモいのはアンタたちだわ」
「え、何?やば」
「この人あれ。牛島選手の厄介」
「なーにー?聞こえてますけどー?てか、さっきの話取り消せよ」
「何ですかぁ。怖いんですけど」
「影山くんが友人(影山夢主)ちゃんのことキモいって思ってるわけねーだろ!お前ら頭沸いてんのか?!」
「あー、ハイハイ。すいませんでしたぁ」
「やべーやつじゃん、こわぁ。牛島選手もこんなファン飼って大変だね」
「聞こえてるつってんだろ!」
「聞こえるように言ってんだわ!お前みたいなやつ痛いんだよ!」

思わずお互い声が大きくなり、周りが騒然とする。睨み合いが続き、周りがどんどん騒がしくなる。相手が何か言おうと口を開いた瞬間マネージャーが走ってきて止めに入る。

「はーい、そこまでです。皆さん見てるからね、ほら、はい離れて。落ち着いて話し合いしましょう」
「話すことなんかないです」

そう言ってわたしと口論した2人組は走り去っていった。

「なまえさん、前も言ったと思うけど」
「もういいよ、出禁で」
「はい?」
「わたしなんかが好きじゃ、若利くんに、迷惑だし、もう、いい」

なんで泣いてるか自分でも分からず、子供のようにわんわんと泣きじゃくってしまう。井上さんは困った顔をしてわたしをそのまま連れて関係者入口へ入れてくれた。多分あのままあそこで泣いてる方が迷惑だったんだと思う、ごめんなさい。

「まあ確かになまえさんはちょっとやり過ぎちゃうとこはあるけど」
「もういいの、ほんとに。わたし若利くんのことフツーに好きだし付き合いたいだけだし、バレーとかもうどうでもいい」
「ほらそんなこと言わないで」
「井上さんから言っといて、もう来ないって」
「俺を巻き込むなよ...」
「うう、もう消えたい。若利くんに迷惑かけちゃった」
「今?!?!」
「うるっさいな、井上さんモテないでしょ」
「なまえさんは可愛いんだから早く彼氏作りな」
「ほんと!!!うるさい!!」

泣いてんのか怒ってんのか、笑ってんのかわかんなくなってぐちゃぐちゃの感情のまま井上さんの肩にぐーでパンチする。泣いたら思いのほかスッキリしてしまって、このままもう帰っちゃおうという気分になった。

「井上さん、なまえが来てないんですが知らないですか?」

のに、この男はなんでこうタイミング良く?悪く?現れるのだろう。

「わ、かとしくん」
「なまえ?なぜお前がここに...?泣いてるのか?」「あーーー、もう俺は何も見てないからな。牛島も時間だけ気をつけてくれたら何も言わない」

そう言って井上さんが部屋から出て行ってくれて、まじ良い人。ありがとう、って気持ちだった。

「友人(影山夢主)ちゃんのこと悪く言われて、他のファンの子達と喧嘩しちゃって」
「また揉めたのか」
「でも今回は絶対謝りたくない。わたし、友達のことあんな風に言われて黙ってらんなかったの」
「そうか」
「でももう、わたしみたいなのが若利くんのファンだと若利くんに迷惑だから辞める」
「...」
「前みたく、引き止めて欲しくて言ってるわけじゃない。本気、だから」
「ああ」
「でも、わたし」

涙が込み上げてきて上手く話せない。若利くんが優しくわたしの手を握ってくれて優しさで余計に涙が出る。ひっく、としゃくり上げながら話を続ける。

「若利くんのこと、本気で好きなの。付き合いたいの」
「知っている」
「だからね、今日待ってる。今日、来てくれなかったら諦めるから。付き合ってくれるなら来て欲しい」

若利くんが困っているのがわかる。待っていると伝えた場所はわたしが気に入ってると以前伝えたことのあるカフェだった。若利くんもそのカフェのことは知っていると前に言っていたので賭けに出た。もう、この際どっちでもよかった。ただ、自分の気持ちに折り合いをつけたかったし若利くんへの気持ちと決別するにはハッキリとフラれる必要があるなと自分で思ったから。最後まで面倒くさい女でごめん、そう思いながら若利くんと最後の握手をして別れた。

ーもちろん、若利くんは来なかった。


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