牛島選手の追っかけを辞めたい。 | ナノ

02



なんやかんやで、準備に追われ若利くんとゆっくり話す間もなくわたしは仙台にいた。現地で搬入や事前準備をスタッフ達と一緒に行い、気付けばどっぷり日も暮れていた。スタッフ達は既に仙台に移住をしている人もいれば、新しく仙台で雇った人もいて。わたしはとりあえずホテルを予約していた為、ホテルに戻る。

若利くんの家に行っても良かったけど、さすがにいきなり押しかけるのもな…と急に気が引けてしまい結局まだ連絡すら出来ていない。小腹も空いて、コンビニへ行こうとホテルを出ると近くの居酒屋から若利くんが出てきて驚いた。だがもちろん若利くんは1人ではないようで、咄嗟に身を隠し様子を伺うことにした。

「牛島さん!今日はありがとうございましたぁ」
「ああ」
「みんな来れなくなって残念でしたね〜!」
「そうだな。偶然も重なるものだ」
「私としては、牛島さんと2人っきりで楽しかったですぅ」

謎の女が若利くんに「酔っちゃいましたぁ」と甘えた声を出し、腕に絡みついていた。こう言う時、自分の彼氏にキレるタイプと、相手の女にキレるタイプがいると思うがわたしはもちろん後者だった。

「また良かったら2人で行きませんか?」
「申し訳ないが、君と2人で食事をすることはもうない」
「彼女、さんですか?」
「ああ。結婚も考えている」
「でも遠距離なんですよね…?私、牛島さんとならそういう関係だけでも…」

若利くんが一切相手にしていないのがわかっていたから、相手の女を脳内でボコボコに殴るだけで留めていたが女が若利くんに抱き着いた瞬間自分の堪忍袋の尾が切れた音が聞こえた。でもちょっと、お風呂入る前で良かったと思いながら2人の前に出たので、割と脳内は冷静だったと思う。

「ちょっと!離れてもらっていいかな!?」
「…何?」
「その人、わたしのなんで!」
「なまえ…!」

ブチギレながら声を荒げるわたし、若利くんに抱きつきながら顔を青くしてる女、嬉しそうな若利くん。はっきり言ってカオスな状態だった。

「アンタがどんだけ頑張っても、若利くんはわたしのもんだしセフレにもさせないから」
「…な、!」
「てかさ、若利くんに相手されてないのわかんないわけ?」
「う、牛島さんの彼女、さん…?!」
「ああ、そうだ」
「わかったらとっとと帰りな?!」

若利くんはぺりっと簡単にその女を引き剥がしわたしの方へと向かってくる。わかるよ、若利くんの彼女がこんな下品な女って言いたいんでしょ?そういう顔してるし、散々言われ慣れてるからもはや新鮮さもなくてつまんない女だなと思ってしまった。ごめんね?

「なまえ、どうした」
「…会いに来たの」
「連絡は来ていなかったが、もしかして俺が見落としていたか?」
「ううん。サプライズで来たの。びっくりした?」
「ああ、嬉しい」

若利くんは人の目など関係ない、と言った様子でわたしだけを視界に入れていた。大きい手がわたしの頭、耳、頬それから肩に添えられ少しお酒の入った柔らかい表情でわたしにキスをしてくる。あの牛島若利が路チューなんて、わたし若利くんの親御さんに顔向けできないわ。

「ん、会いたかったぁ」
「俺も同じ気持ちだ」

酔っ払っているのか、いつもより少し高い体温の若利くんにドキドキしてしまう。

「家に来るか?」
「…いいの?」
「当たり前だろう、彼女なのだから」
「じゃあ荷物取ってくるね!」
「危ないから俺も一緒に行こう」

そう、言っていたはずなのに。ホテルの部屋に入った瞬間気付けば廊下で押し倒されていて、あれ?危ないのは若利くんだったのかもしれないと呑気に考えてしまった。そんな思考すら若利くんには読まれていたのか「他のことを考えるな」と何度も唇を食べられてしまった。


×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -