牛島選手の追っかけを辞めたい。 | ナノ

01



とうとう、この日が来たと言ってもいい。若利くんと付き合ってから、約1年ほどが過ぎ今日は若利くんの誕生日。2回目の、誕生日。

の、一ヶ月くらい前。

「来月はちょっと仕事が忙しくて、会えそうになくて…」
「そうか、ならば仕方ない。なまえに会えないのは残念だが仕事が忙しいのは何よりだ」
「若利くんこそ夏休みで忙しいんじゃないの?」
「そうだな…夏休みが終われば代表決定戦もはじまるから気は抜けない」
「若利くんの学校の子達、春高で応援するの楽しみだなぁ」
「ああ」
「じゃあね、おやすみ」
「おやすみ。良い夢を」

罪悪感で胸がはち切れそうになるが、サプライズなんだから仕方ないと自分に言い聞かせる。そう、今年の誕生日は東京ではなく仙台で過ごすつもりだった。

そして、もう一つ若利くんには黙っていたが報告しないといけないことがある。

「今更なに怖気付いてんの〜!」
「だって…!一回断ってるんだよ?どの御身分で…とか若利くんに思われてたら無理」
「大丈夫だって!」
「良い歳していきなり仙台に押しかけていいのかな」
「…まあ、なんとかなるんじゃない?」
「ほら!友人(影山夢主)ちゃんだってやばいと思ってるじゃん!」
「いやでもほら、最悪住む場所はあるんでしょ?」
「いや、まあ…一応断られても大丈夫なようにはしてるけど…」

夜遅くに申し訳ない、と思いながらも友人(影山夢主)ちゃんと電話をしていると影山くんの声が聞こえてくる。

「友人(影山夢主)さん」
「あ、ちょっと待ってね」

友人(影山夢主)ちゃんはそう言って、影山くんと話し出す。ミュートにし忘れたのか盗み聞きの様な形になってしまうが忘れたの友人(影山夢主)ちゃんだしいっか!という気持ちで聞いていた。

「電話、誰?」
「なまえちゃんだよ」
「ああ。まだ終わんねぇの?」
「ちょっとだけね」
「…早くしろよ」
「ごめんね?…ん、」
「待ってるから」
「はぁい」

甘々の、胸焼けしそうな話が聞こえてきてこのまま何も聞かなかったフリをして電話を切った方がいいのでは。と思うが電話を切るより友人(影山夢主)ちゃんが戻ってくる方が早かった。

「あ!やだ…ごめん、ミュートなってなかった…?」
「うん。でもまあ、ほら…なんも?聞いてないよ?」
「それ絶対聞こえてたじゃん〜!」
「まあいつも通りラブラブでご馳走様ですって感じよ」

そう笑って伝えると電話越しにも友人(影山夢主)ちゃんが照れてるのがわかり、何年経ってもこの夫婦はブレないなぁともはや尊敬の域に達する。

「でも、なまえちゃんと気軽に会えなくなると思ったら寂しいなぁ」
「影山くんの里帰りがてらいつでも会お?」
「うん、そうする!」
「あと3人目はぜひうちの病院でよろしくね」
「ええ…!?3人目、かぁ」
「お宅はまだまだ現役なんだから、その気があったらすぐ出来るよ」

そう言って友人(影山夢主)ちゃんを揶揄うと「やめてよ〜」と笑っていた。そろそろ影山くんに怒られそうだな、と思い電話を切るとさっきまで賑やかだった部屋がシンと静かになる。

今まで、東京から出たとこのないわたしが仙台で暮らしていけるんだろうか。そんな不安ももちろんあるが、それより若利くんに少しでも嫌な顔をされたらどうしようと結局何も言えないままわたしの仙台移住の日が決まってしまった。

そう、わたしは来月から仙台の産院で働くことになっている。親戚の病院が閉業すると聞き、うちの親が買い取ってわたしにそこを任せたいと言ってきたのだった。もしかして、と勘繰ると「彼氏、仙台なんでしょ?」と悪びれもなく言ってくる親にわたしは一生この親に甘やかされて生きていくんだろうなと思ってしまった。


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