牛島選手の追っかけを辞めたい。 | ナノ

08



「返事を聞かせて欲しい」

その夜、本当に家に来た若利くんを玄関で出迎えると開口一番に若利くんがそう言い放った。

「今すぐは、できない」

若利くんの目を見て、はっきりとそう答える。

「それは、俺が相手では不満ということか」
「違う。若利くんのことは今も昔も、これから先もずっと好きだよ」
「ならば、」
「若利くん。聞いて?」

若利くんに優しく握られた手を見つめ、もう一度若利くんの顔を見る。

「若利くんが何を焦ってるかは知らないけど、わたしはちゃんと若利くんのこと好きだって気づいたしもう逃げないから」
「そうか」
「でもね、全部捨てて若利くんと一緒に仙台に行くほど若くもない。言ってる意味わかる?」
「ああ」
「だから、まずは彼女にしてよ」

若利くんの顔を真っすぐ見たままそう告げる。若利くんは試合の後わたしの顔を見た時と全く同じ表情をして、微笑んでくれた。ああ、あの時の顔ってわたしのこと好きだって顔をしてたんだ。なんて、少し自分にとって都合の良い解釈をしてみた。

若利くんは最初に抱き締めて来た時とは別人のように、そっとわたしを抱き締めてくる。なんだか、こっちの方が恥ずかしいんだなと照れてしまうと大きな手が頬に触れる。あ、キスするんだな。なんて思った瞬間にはもう唇が重なっていて体の内側から幸せが溢れて止まらない。

「好きだ、なまえ。迎えに来るのが、遅くなった」
「...ほんとだよ、若利くんのバカ」
「だがこれからは、もうお前を離しはしない」
「しっかり捕まえといてよね」

若利くんの胸元におでこをこつん、とぶつけると若利くんがわたしのつむじにそっとキスをしてくる。目が合って、泣きそうになる。いや、多分もう泣いてた。「上がってもいいか?」なんて若利くんがいきなり空気も読まずに今更言ってくるから、思わず笑ってしまってその衝撃で涙が溢れる。

靴を脱いだ若利くんがわたしをそのまま抱き上げ、部屋の奥へと足を進めていく。ふわふわとした浮遊感が余計にわたしの羞恥心を高め「降ろして」と暴れてみるが何の意味も持たない行動だった。
そっとベッドに降ろされ、さあ今からと身構えたタイミングで若利くんが「洗面所はどこだ」と聞いてくる。

「そこの左、うん。そこ」
「借りるぞ」

そう言って若利くんが手を洗ってうがいをする音が聞こえて、身構えていた体はいっきに力が抜けてベッドにそのまま仰向けで倒れ込んだ。思ってたより緊張してたんだなぁ、なんて思いながら戻ってきた若利くんに体を起こされ後ろから抱きしめられる。

そこから、会えなかった期間を一つずつ埋めるように。2人の気持ちを答え合わせしていくように夜が明けるまでたくさん話した。

話をすればするほどに、わたしは若利くんのことが好きだと自覚したし若利くんもわたしのことを好きでいてくれていると思えた。たった一晩でわかってしまうくらい、お互い思い合っていたのにすれ違って遠回りして。それでもわたし達にはこれが正解だったような気がする。

今はまだ、ただ若利くんを好きなだけだけど。そのうち若利くんのために何かしてあげたい、側で支えてあげたい。そう思える日が来るのかな。昔の自分に教えてあげても、絶対に嘘だと疑われるくらい未だに自分も嘘なんじゃないかと疑ってしまう。でも今は、肌に伝わるこの温もりだけを信じて前へ進もうと思った。

ー若利くん、好きになってくれてありがとう。


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