06
「若利くんー!!!!!!!ナイスキー!!!!!」
わたしの声はよく届くと前に若利くんがよく言ってたけど、今日は本当に若利くんに届いて欲しい、届けたい。そんな気持ちを込めていっぱい応援した。
飛空も飛茉も、隣の友人(影山夢主)ちゃんもみんな影山くんのチームを応援をしてたけどわたしだけ若利くんのチームを応援していて自分で言うのもなんだけど変な空間だった。
試合はどちらが勝つか全く読めない状況で、手に汗握るとはこのことなんだなと興奮した状態で力一杯自分の手を握っていた。
若利くんは今日で引退するなんて、全く思わせないようなプレーでわたしが初めてみた若利くんといい意味で変わってないんじゃないか?と思わされるほどだった。
マッチポイント、最後の若利くんの攻撃が綺麗に決まり勝利は若利くんのチームだった。
今までのバレー人生、全てをかけたスパイクに見えてわたしはあまりの美しさにやっぱり泣いてしまうのだった。隣の飛空がまた泣いてると頭をよしよし撫でてくれて慰めてくれる。
「飛空、ありがとう〜...パパのとこ行ってきな?」
「うん。あとでひぃちゃんとママと行くからなまえちゃんここで泣いていいよ」
「なんでそんな優しいの?!親の顔が見たいわ!」
「ふふ、わたしが母親です〜」
友人(影山夢主)ちゃんがにこにこしながら膝に飛茉を乗せた状態で話しかけてくる。コートを見ていると、若利くんのチームが残っていて、若利くんが今からインタビューされるようだった。
「待って、若利くん喋るから、黙って!」
「1番うるさいのなまえちゃんだよ?」
「飛空、しっ」
飛空の口を塞ぐと飛空がくすぐったそうにケラケラ笑い出す。もう!ほんとに、若利くん話し出すから!
「まずは、今までお疲れ様でした」
アナウンサーの方がそう切り出して若利くんにマイクが渡される。試合終わりの若利くんはいつも色っぽくて思わずあの夜のことを思い出してしまう。
「はい、ありがとうございます。牛島若利です」
そう言って若利くんが話し出すと、会場中もいっきに静かになりみんなが若利くんの声に耳を澄ませていた。
「まずは今まで沢山の方に応援をして頂いて、本当にありがとうございました。ここまで怪我もせず順調にプレイヤーとして過ごせたことを、俺はやはり運が良かったのだと思います」
そう切り出した若利くんの話は、まるで魔法のようにわたしの体にスッと入ってきて。そのまま若利くんが今までの感謝を述べている様子をわたしはただ、泣くこともせずにただ見守っていた。このままコートに立つ若利くんが消えてしまうのが嫌でじっと、ただじっと見つめて目に焼き付けていたんだ。
「そして、今日が終われば仙台に戻って母校のバレー部の指導を行うつもりです。例え俺がプロとしてのバレーを引退しても、俺の意思を継ぐ選手を育てていきたい、そう思ったからです」
若利くん、仙台帰っちゃうんだなぁ。そんな気持ちで若利くんを見つめ続けていた。なんだか、わたしの気のせいでなければ何度か目が合ってる気がするけど、うん。きっと気のせいだな。
「最後に一つだけ、もう俺はプロを引退して一般人になるのでこの場で今から発言することを許して欲しいんですが」
「...なんでしょうか?」
若利くん、一体何を言うつもりなんだろうと見つめていると運営側も特に把握していないようで慌てた様子のスタッフさんが何人も見える。
「なまえ」
と、はっきり若利くんがわたしの名前を呼ぶ。さすがに聞き間違え、にしてははっきり聞こえすぎたし友人(影山夢主)ちゃんも子供たちもわたしの方を見て驚いている。周りの視線に耐えきれず逃げてしまおうか、そう思ったがどう考えても今下手に動けば余計に目立ってしまうような気がした。