牛島選手の追っかけを辞めたい。 | ナノ

05



その日は思ったより早くて、今日若利くんのプレイヤーとしてのバレー生活が終わる。当事者じゃないんだけどなんだか実感はないし、また来週からも外国でプレーしてるんじゃないかなんて思ってしまう。

飛空と飛茉は相変わらず影山くんのユニフォームを着て、影山くんのファンに囲まれている。

「なまえちゃん!」

飛空がわたしに気づき満面の笑みで名前を呼ぶので、わたしも笑顔で手を振り駆け寄ってきた子供達を抱きしめる。

「きょういっしょにパパみる?」
「一緒に見るよ!まあ、わたしが見るのは若利くんだけど!」
「パパ見よーよ!」
「なまえちゃん、これどうぞ」

友人(影山夢主)ちゃんが差し出してきたのは若利くんの今のチームのユニフォームで。日本ではもう売り切れで買えないと諦めていたので大喜びで受け取る。

「いいの?!」
「ふふ、やっぱりなまえちゃんがそうやって牛島選手のことで喜んでるところがわたしは好きだなぁ」
「...ありがとね、連れてきてくれて」
「ううん、よかった。来てくれて」

そう言ってふわ、っと微笑む友人(影山夢主)ちゃんは控えめに言っても天使で。子供達も可愛いし、今日はなんか色々?忘れて楽しむって決めた。だって、今日で全部全部、終わっちゃう。

そう思った瞬間、耐え難い喪失感が今更自分の中に生まれてきて身体中から力が抜けそうになる。あれ?もしかして、今日終わったら一生若利くんに会えない?だってそうじゃん、今までは試合見れば若利くんはそこにいて。わたしが会いたいと思えば、いつでも会えたはずなのに。なんでもっと、会いに行かなかったんだろう。わたしがどんな顔をしてたかはわからないけど、飛空が「なまえちゃん?」と不安そうに覗いてくるので「大丈夫だよ」と返事をしたかったのに声が出なかった。

コートに、若利くんが出てきて。真っ直ぐに、わたしを見ている。こんなに広い会場なのに、たくさん人もいるのに。涙が、止まらなかった。もう、若利くんのこと好きじゃないとか散々、散々バカなこと言ってきたのにこんなにも好きだなんて。なんで、今更気づくんだろう。何もかも、もう遅いのに。なんでもっと会いに行かなかったんだろう、なんで、もっと好きだって言わなかったんだろう。なんであの日、若利くんに好きだと言えなかったんだろう。今日が終わったら、もう会えないのに。そんなことを考えながらぽろぽろ涙を流していると、隣の飛空がハンカチで涙を拭いてくれてもう絶対わたし飛空と結婚するわ...!と少し元気になった。

「飛空くんはなまえちゃんと結婚しないよ?」
「うるさいな!こういう時はわかったって言っとくんだよ!」
「えー?」

飛空の不満そうな頬をむにむにと摘んでやる。ああ、本当にちょっと元気なってきた。若利くんの大事な最後の試合にわたしが泣いてたら、きっと若利くんも喜んでくれない。わたしはもう大人だから自分の機嫌自分で取れるもん。あの頃とは違うんだ。


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