04
そこからはもういい年した男女が密室で、しかもお互いに好意を持ってるとわかっていればすることはひとつで。
もう、これ以上幸せな時間は来ないんじゃないだろうか。隣で寝ている若利くんを見ながら、わたしは一人で泣いてしまう。こんなに幸せなのに、好きなのに、言えない。言ってしまうと、若利くんを困らせてしまいそうで。
そっとベッドを抜け出して、足元に散らばっている下着や服をかき集めて帰り支度をする。若利くんが起きる前に、この幸せな夢から醒めなきゃ。
「...ん」
ベッドから若利くんの声が聞こえ、驚いて振り向くがまだ寝ているようだった。そっと寝室を抜け出し、ガチャリと玄関のドアを開けて外に出る。不用心だとは分かっているけどここに来るまでにオートロックだったし、若利くん男だし大丈夫だよね。とタクシーをスマホで呼んで家に帰った。
「で、その後なんもなかったの?!」
「...うん。多分、若利くんも1回えっちして満足したんじゃない?」
「牛島選手に限ってそれはなくない...?」
「うーん...」
「牛島選手にね、飛空のこと話したら場所を聞かれて」
「あ、そうだったんだ...」
「そしたら突然なまえちゃんの好きなお酒聞かれて...ああ、そういうことか...」
友人(影山夢主)ちゃんが全てが繋がったと言うような顔をして、はぁとため息をつく。
「なんでそんなに拗らせてんの?」
「うるさいなあ」
「ポーランド行かないにしろ、付き合っちゃえばよかったのに!」
「じゃあ友人(影山夢主)ちゃんだったら付き合う?!」
「...付き合わないね。抱いてくれてありがとう、って思い出にする」
「だから!!わたしは!!いまそうなんだって!」
机に顔を突っ伏して、あの日のことを思い出す。なんだか友人(影山夢主)ちゃんに言って記憶を思い返すと恥ずかしい気持ちになってきた。でも、本当にあの一晩は今まで生きてきた中で1番幸せな夜だった。
「で!どーすんの!」
「い、行くよぉ...」
「どうせ会場広いし見つからないから大丈夫だって!」
「いやいや、友人(影山夢主)ちゃんの隣で見る=影山くんが見つける=わたしも見つかるじゃん...」
「あ、そうだね」
友人(影山夢主)ちゃんはにこにこ穏やかに笑いながら、影山くんに連絡をしているようだった。
「もう飛雄くんに言っちゃったから、来てね?」
「あ、ハイ」
昔から友人(影山夢主)ちゃんのこういうところが好きだったし、心強かった。いつもわたしの前を歩いてくれて、連れて行ってくれて。今日だって、わたし1人じゃもう若利くんのところへ行く日なんて来なかった。それなのにこんな簡単に連れて行ってもらえて、よかったんだろうか。