牛島選手の追っかけを辞めたい。 | ナノ

02



「なまえか?久しぶりだな」
「若利くん?!?え、なんでここに、てか!え?!何?!」

いきなり大きい男の人に声をかけられ驚くも、声で若利くんだ!とすぐわかる自分も自分だなともはや呆れてしまう。突然現れた若利くんに、さほど驚くこともなく普通に会話を続けてしまう。

「元気だった?」
「ああ、俺はいつも通りだ。なまえも見ない間に随分綺麗になったな」
「親戚のおじさんかよ!」

わはは、と声を出して笑うと若利くんもつられて笑い出す。近所迷惑になるし、場所を移そうかと提案すると「家に来ないか?」と誘われる。わたしも生娘でもあるまいし「行く行く!」と返事をしたかったが、冷静に考えて若利くんの家に行く、とは?と頭が混乱していた。

「ちょっと、色々急に飛び越えてくるじゃん...」
「今付き合ってる人はいるのか」
「いや、いないけどさ...」
「じゃあ問題ないだろう」
「え?問題ないの?」
「ああ、着いてこい」

あれよあれよ、と言う間に若利くんに腕を引かれタクシーを捕まえて若利くんの一人暮らしのマンションへと連れ込まれた。わたし今日、下着上下揃ってたっけ、あれ?無駄毛処理してる?そんなことを考える余裕はあった。

なんだか、夢なんじゃないか。もしかして妄想?随分前に若利くんと付き合ってた夢見たけどもしかしてまた?そんなことを考えていると若利くんが冷蔵庫から高そうなワインを持ってくる。

「晩飯は食べたか」
「うん。友人(影山夢主)ちゃん家で...若利くん、ワイン飲むの?」
「友人(影山夢主)さんからなまえはこれが好きだと聞いたから用意した」
「友人(影山夢主)ちゃんは、知ってるの?」
「何をだ?」
「今、こうやってわたし達が会ってること」
「いや、それは知らない。ただ、お前の好きな酒を聞いただけだ」

なるほど、なるほど?うーん、なるほど?若利くんとこのまま会話を続けても意図が汲み取れず、とりあえず乾杯をすることにした。

若利くんの部屋は予想通りシンプルで落ち着いた雰囲気で。見渡すと、そこら中にわたしがあげたものが広がっていて少し恥ずかしくなる。机の上に置いてあるマグカップも、随分前にわたしが自分とお揃いにして勝手に若利くんに押し付けたものだった。

「これ、まだ持ってたんだ」
「マグカップか?使い心地がいいから有り難く使わせてもらっている」
「...これも、」
「ああ」

若利くん、こんなにわたしがあげたものに囲まれて生活してたんだ。わたしはとっくにペアのマグカップは捨ててしまっているし若利くんがまさか持ってくれてるなんて思いもしてなかったので夢か?と思って頬をつねってしまう。

「何をしている」
「夢、かなって」
「夢ではない」
「わかってるよ...でも、なんだか本当に夢みたいだなって」

お酒が回ってきたのかもしれない、ふわふわした気持ちで若利くんと話を続ける。そもそも、なんで若利くんはわたしをわざわざ誘って家で晩酌を?目の前に座っている若利くんに目で訴えても伝わらずひとりでやきもきしていると徐に若利くんが話を始めた。

「俺は、来年からポーランドへ移籍が決まった」
「おめでとう!」
「...なぜ急に試合を観に来なくなったか教えてもらえるか」

ワインを飲む手が止まり、若利くんと目が合う。そっとわたしの手に若利くんの手が重ねられこのまま時が止まればいいなんて少女漫画のヒロインでも言わないようなことを柄にもなく思ったんだ。


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